この研究は、イギリス、スウェーデン、デンマークの研究機関の研究論文です。

掲載誌:European Journal of Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肉の摂取を減らし、植物性の食品を増やすことは、慢性疾患の予防と環境面の持続可能性という二つの観点から、ヨーロッパ各国で優先課題とされています。これまでの研究でも、政策による働きかけが人々の食のパターンを肉の削減目標に近づけうることは示されてきました。しかし研究チームによれば、そうした食の変化が実際に健康面へどのような影響を及ぼすのかは、これまで検討されていませんでした。

そこで著者らは、英国の気候変動委員会(CCC)が掲げる食生活の目標、すなわち肉の消費を35%または50%減らすという目標を取り上げ、それが達成された場合に予測される健康への影響を数値として見積もることを目的としました。対象としたのは肉のなかでも赤身肉と加工肉であり、その分を野菜と豆類で置き換える形の変化に焦点を当てています。

何をどのように調べたか

著者らは、食習慣の変化が今後30年間にわたって、食事に関係する主な慢性疾患の発症数と死亡数にどう影響するかを試算しました。

食生活の変化を表す入力データは、エージェントベースの意見ダイナミクスモデルから得ています。これは、個々の人を模した多数の単位が互いに影響し合いながら考え方や行動を変えていく様子を計算機上で再現する手法で、英国の全国食事・栄養調査(National Diet and Nutrition Survey)のデータをもとに設定されました。そのうえで、健康面への影響はIOMLIFETという生命表モデルを用いて推計されています。生命表モデルとは、集団の死亡や発症の確率を年齢ごとに積み上げ、寿命などの指標を計算する方法です。つまりこの研究は、実際に人々の食生活を変えて観察したものではなく、モデルによる予測にもとづく試算です。

報告された主な結果

著者らの報告によると、CCCの目標のうち赤身肉と加工肉の削減にあたる部分が達成された場合、平均寿命の延びは35%削減のシナリオで7.2か月(1.1〜12.9か月)、50%削減のシナリオで9.4か月(1.3〜15.4か月)と予測されました。集団全体で得られる生存年数は、それぞれ840万年(130万〜1490万年)、1090万年(150万〜1790万年)と見積もられています。括弧内の幅は、推計に伴う不確かさの範囲を示すものです。

また、回避できる慢性疾患の発症は、35%削減で340万件(50万〜660万件)、50%削減で450万件(60万〜810万件)と推計されました。さらに著者らは、こうした健康上の利益の最大95%が心血管系の疾患に関する結果によるものであり、そのうち4分の3は野菜と豆類の摂取が増えることと結びついていたと報告しています。

この研究が示すこと

著者らは、これらの推計は探索的なものであり、モデル上で想定した人々の行動の変化の道筋に左右されるものだと明確に述べています。そのうえで、気候目標に沿った赤身肉・加工肉の削減を政策によって進めることが、公衆衛生の面でも大きな利益をもたらしうると論じています。

注目されるのは、健康上の利益の大部分が心血管系の疾患に関わるものであり、その多くが肉を減らすことそのものよりも、置き換えとして野菜と豆類を増やすことと結びついていた点です。著者らは、この知見が心血管疾患の負担を減らし、持続可能な食生活への移行を進めるヨーロッパの戦略にとって意味のある示唆になると位置づけています。

著者:Patricia Eustachio Colombo(Centre On Climate Change and Planetary Health, London School of Hygiene & Tropical Medicine, Keppel St, London, WC1E 7HT, UK)、Olivia Auclair(Environmental Change Institute, School of Geography and the Environment, University of Oxford, 3 S Parks Rd, Oxford, OX1 3QY, UK)、James Milner(Department of Public Health, Environments and Society, London School of Hygiene and Tropical Medicine, 15-17 Tavistock Place, London, WC1H 9SH, UK)、Angela Fontan(Division of Decision and Control Systems, KTH Royal Institute of Technology, Malvinas V 10, 10044, Stockholm, Sweden)、Silvia Pastorino(Department of Public Health, Environments and Society, London School of Hygiene and Tropical Medicine, 15-17 Tavistock Place, London, WC1H 9SH, UK)、Sara M. Pires(National Food Institute, Technical University of Denmark, Kemitorvet Building 201, 2800, Kgs Lyngby, Denmark)、André Hesselink(Department of Internal Medicine and Clinical Nutrition, Sahlgrenska Academy, University of Gothenburg, 40530, Gothenburg, Sweden)、Marie Löf(Department of Medicine, Karolinska Institutet, 17177, Stockholm, Sweden)、Rosemary Green(Centre On Climate Change and Planetary Health, London School of Hygiene & Tropical Medicine, Keppel St, London, WC1E 7HT, UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Patricia Eustachio Colombo, Olivia Auclair, James Milner, et al. Health co-benefits of sustainable dietary transitions to reduced red and processed meat intake in the United Kingdom: a modelling study. European Journal of Nutrition 2026-09-17. DOI: 10.1007/s00394-026-04093-6. 原著ライセンス:CC BY.