著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられがちな果皮の香りを調べる
コーヒー豆を取り出す過程では、果実の外側にある果皮が大量に残ります。原著で引用された推定によると、コーヒーの加工で出る廃棄物は生豆に対しておよそ40〜45%にのぼり、このうち果皮だけで最大29.9%を占めます。果皮は乾燥させて「コーヒーピール茶(カスカラ)」のような製品に利用されますが、生の果皮は水分が多く傷みやすいため、乾燥などの処理が欠かせません。一方で、加熱や乾燥は香りのもとになる揮発性成分を変化させ、製品の風味に影響する可能性があります。
研究チームは、中国雲南省保山で収穫したアラビカ種の完熟果実から得た天日乾燥の果皮を材料にしました。この果皮をそのまま使う天日乾燥品に加え、電子レンジによるマイクロ波処理(300W、70秒)と、熱風オーブンによる処理(120℃、30分)を施した試料を用意し、処理方法によって香り成分がどう異なるかを比べることを目的としました。なお、これらの加熱条件は、もともとクロロゲン酸、カフェイン、トリゴネリンという、香りの生成にかかわる不揮発性成分の抽出量を高める条件として事前に検討されたものです。
性質の異なる2つの分析法を併用
香り成分の分析には、ガスクロマトグラフィー・イオン移動度分析(GC–IMS)と、固相マイクロ抽出を組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析(HS-SPME–GC–MS)の2つを用いました。どちらも試料から立ちのぼる気体中の成分を分離して調べる方法です。著者らによると、GC–IMSは小さく揮発しやすい微量成分を捉えるのが得意で、GC–MSはより大きめの分子の検出と同定に向いており、両者は互いを補い合う関係にあります。
さらに、得られたデータを主成分分析(PCA)や部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)といった統計手法で解析しました。これらは多数の成分の情報をまとめて、試料のグループ同士がどれだけ区別できるかを調べる方法です。また、グループの区別にどの成分が大きく寄与しているかを示す指標(VIP値)を使い、処理方法の違いを特徴づける候補成分を絞り込みました。ここで示される含有量は、主に検出された成分全体に対する相対的な割合です。
加熱で増えた成分、減った成分
GC–IMSでは68種類の揮発性成分が推定的に同定されました。3種類の試料すべてでアルデヒド類が最も多く、相対含有量は33〜35%程度で、試料間に統計的な有意差は見られませんでした。一方、加熱処理を施した試料ではケトン類の割合が天日乾燥品の約13.6%から約19%台へと増え、アルコール類やエステル類はやや減少し、酸類は大きく減少していました。加熱後には、フルフラールやピラジン類など、甘い香り、カラメル、ナッツ、焙煎のような香りを持つことで知られる成分が増え、酢酸やエタノール、ベンズアルデヒドなど、刺激臭や青臭さ、土っぽさに関係する成分が減っていました。マイクロ波処理品と熱風処理品は互いに似た成分構成を示しました。
HS-SPME–GC–MSでは56種類の成分が同定され、検出数は天日乾燥品で37種類、熱風処理品で44種類、マイクロ波処理品で50種類でした。天日乾燥品ではアルコール類の割合が最も高く(31.119%)、柑橘のような香りを持つリナロールなどが含まれていました。熱風処理品とマイクロ波処理品ではケトン類が最も多く、それぞれ全体の44.232%と31.739%を占めました。また、加熱によってエステル類が大きく減ることも示されました。
2つの分析法を合わせると112種類の成分が推定的に同定されましたが、両方で共通して検出されたのはフルフラールやノナナールなど6種類だけでした。著者らは、これを2つの方法が得意とする成分の範囲の違いによるものとし、併用することで分析の網羅性が大きく広がると述べています。統計解析では、どちらの分析法のデータでも3種類の試料がはっきりと区別され、処理方法の違いを特徴づける候補成分として、GC–IMSから20種類、GC–MSから16種類が選ばれました。
研究が示すこと
この研究は、同じ天日乾燥の果皮でも、マイクロ波や熱風による加熱処理を加えることで香り成分の構成が明確に変わることを、2つの分析法と統計解析を組み合わせて示しました。加熱後には甘さや焙煎感に関係する成分が増え、青臭さや刺激臭に関係する成分が減るという傾向が報告されています。ただし、示された香りの特徴は各成分について知られている性質に基づくもので、成分は推定的な同定にとどまる点にも注意が必要です。著者らは、こうした結果がコーヒーの果皮の加工条件の最適化や、果皮を使った茶製品の品質管理の理論的な基礎になるとしています。
原著論文の著者・所属:Congyan Meng(College of Materials and Chemical Engineering, Southwest Forestry University, Kunming 650224, China)、Jie Wu(College of Materials and Chemical Engineering, Southwest Forestry University, Kunming 650224, China)、Chunrong Yan(Yuxi Academy of Inspection, Testing and Certification, Yuxi 653100, China)、Jianqiang Wei(Yuxi Academy of Inspection, Testing and Certification, Yuxi 653100, China)、Yuanxing Zhang(Yunnan Vocational Institute of Energy Technology, Qujing 655001, China)、Tianjun Yuan(Agro-Products Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650223, China)、Ying Hou(College of Materials and Chemical Engineering, Southwest Forestry University, Kunming 650224, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Congyan Meng, Jie Wu, Chunrong Yan, et al. Analysis of characteristic flavor compounds in coffee peels subjected to different thermal processing treatments based on GC–IMS and HS-SPME–GC–MS combined with chemical pattern recognition. Food Chemistry X 2026-08-01. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104256. 原著ライセンス:CC BY.