この研究は、エクアドルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
コーヒーの品質は、植物の品種だけでなく、収穫後の加工にも左右されます。なかでも焙煎は、豆の色や水分、含まれる成分を大きく変える工程です。焙煎の深さが風味に与える影響には関心が集まってきましたが、品種ごとに豆の物理的・化学的な性質がどう変わるかは、まだ十分に分かっていないと著者らは指摘しています。
そこでエクアドルの研究チームは、これまであまり研究されてこなかったアラビカ種コーヒーの3品種、レッド・サルチモール、イエロー・カトゥアイ、アカワを取り上げました。浅煎り・中煎り・深煎りの3段階で焙煎し、豆の性質と抗酸化能(物質の酸化を抑える働きを試験管内で測った値)がどう変わるかを調べています。
どのように調べたか
豆は、エクアドル南部エル・オロ県ラス・ラハス地域の標高約400メートルの農園で、2024年7月に手摘みで収穫されました。完熟した実を使っています。果肉を除いて洗浄し、45℃前後でおよそ24時間乾燥させました。その後、殻を取り除き、欠けた豆や虫害のある豆を取り除いています。
焙煎はいずれも約250℃で行い、焙煎時間を浅煎り20分、中煎り30分、深煎り45分としました。焙煎後に粉砕した試料について、次の項目を測定しています。残った水分量と、微生物が利用できる水の目安となる「水分活性」。色の明るさや色合い。脂質の量。カフェイン量。ポリフェノールなどの総フェノール量。そして、性質の異なる2種類の試験法(DPPH法とFRAP法)による抗酸化能です。
主な結果
焙煎が深くなるほど、どの品種でも水分活性は下がる傾向にありました。残存水分はすべての試料で3%未満、水分活性は0.16〜0.32の範囲でした。論文は、これらがエクアドルの焙煎コーヒー規格(残存水分の上限5%)を満たし、保存上安定した水準だとしています。
色は、焙煎が進むにつれて明るさの値が下がり、豆が暗くなりました。浅煎りとの色の差も焙煎が深いほど大きくなりました。ただし、変化の仕方は品種によって異なりました。イエロー・カトゥアイは浅煎りの段階ですでに暗めの色で、焙煎の深さによる色の差は小さいものでした。
総フェノール量と抗酸化能は、焙煎が深くなるにつれて全体として減少しました。著者らは、熱によってこれらの成分が分解されたためと考えています。たとえばレッド・サルチモールでは、浅煎りの総フェノール量が同じ焙煎度の他品種より有意に高く、深煎りでは大きく下がっていました。一方、FRAP法で測ったアカワの値には、焙煎度に沿ったはっきりした傾向は見られなかったと報告されています。
カフェインについて、論文の要旨と結論は「焙煎度による変化は小さく、比較的安定していた」と述べています。ただし結果の章では、品種と焙煎度の組み合わせで小さいながら統計的な差があり、深煎りでやや少ない傾向があったことにも触れています。脂質の量は、レッド・サルチモールとアカワで深煎りが有意に多くなりました。イエロー・カトゥアイでは焙煎度による差ははっきりしませんでしたが、他の2品種より多い値でした。著者らはこの増加について、焙煎で豆の細胞壁がもろくなり、脂質が取り出されやすくなったためと説明しています。
成分どうしの関係も分析されています。総フェノール量はDPPH法の抗酸化能と比較的強く関連し(相関係数0.79)、FRAP法とはより弱い関連にとどまりました(0.41)。また、豆の明るさの値はDPPH法の抗酸化能と関連していましたが(0.79)、FRAP法とは統計的に意味のある関連が見られませんでした。関連が中程度にとどまった理由について、著者らは次の可能性を挙げています。焙煎中に起こるメイラード反応(糖とアミノ酸が反応して褐色の物質ができる反応)で、フェノール以外の抗酸化性物質が生じた可能性です。
研究から分かること
この研究は、同じアラビカ種でも品種によって焙煎への反応が異なることを示しました。また、焙煎を深くすると、少なくとも測定に使った試験法では、フェノール類と抗酸化能が下がる傾向があることも示しています。著者らは、色の明るさが抗酸化能の手軽な目安になりうると提案しています。ただし、この関連はDPPH法でのみ確認されたものです。焙煎の深さと品種の組み合わせによって豆の中身がどう変わるのかを、具体的な数値で示した報告といえます。
著者:Nubia Lisbeth Matute Castro(Facultad de Ciencias Químicas y de la Salud , Universidad Técnica de Machala , Avenida Panamericana km 5 1 / 2 , ( ECO70150) Machala , Ecuador)、G.E. Heredia、Mercedes Campo Fernández(Grupo de Investigación INDETEC , Departamento de Química y Producción , Universidad Técnica Particular de Loja (UTPL) , Loja 1101608 , Ecuador)、G. Sánchez(Facultad de Ciencias Químicas y de la Salud , Universidad Técnica de Machala , Avenida Panamericana km 5 1 / 2 , ( ECO70150) Machala , Ecuador)、Kevin Ordóñez Mejía(Laboratorio de Investigación en Ingeniería en Alimentos (LabInAli) , Departamento de Ingeniería en Alimentos , Colegio de Ciencias e Ingenierías , Universidad San Francisco de Quito USFQ , Quito 170901 , Ecuador)、María José Andrade‐Cuvi、Verónica Patricia Bravo Bravo(Facultad de Ciencias Químicas y de la Salud , Universidad Técnica de Machala , Avenida Panamericana km 5 1 / 2 , ( ECO70150) Machala , Ecuador)、Ingrid Márquez Hernández
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nubia Lisbeth Matute Castro, G.E. Heredia, Mercedes Campo Fernández, et al. Effect of roast level on the physicochemical and antioxidant properties of three varieties of Coffea arabica L. (coffee): Red Sarchimor Rojo, Acawa, and Yellow Catuai. Food Research 2026-10-02. DOI: 10.26656/fr.2017.10(5).102-5. 原著ライセンス:CC BY.