掲載誌:Artefactum
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
自閉スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションや対人関係の難しさ、限られた興味や繰り返しの行動などを特徴とする神経発達の特性です。著者らによると、ASDのある子どもでは、特定の食べ物を拒んだり、新しい食べ物を受け入れにくかったり、ごく限られた食品ばかりを好んだりする「食の選択性」(いわゆる強い偏食)が目立つことがあります。
この研究は、こうした食の選択性がASDのある子どもの栄養不足のリスクとどのように関わるのかを、栄養面と行動面の両方から整理することを目的としています。あわせて、リスクを減らすための工夫、偏食に関わる行動上の特徴、食事のパターンとASDの症状との関係についても検討しています。
どのように調べたか
この研究は、新たに子どもを対象として調査や測定を行ったものではなく、既存の研究を集めて読み解く文献レビューです。著者らは、SciELO、PubMed、LILACS、Google Scholarといった学術データベースから、ブラジル国内外の研究を検索しました。
対象としたのは、ASDのある子どもについて、食の選択性、食行動、感覚の特徴、栄養不足、食事のパターン、栄養面の支援方法などを扱った研究です。集めた文献は、数値をまとめて統計的に解析するのではなく、内容を読み比べて特徴を記述する「質的・記述的」な方法で整理されています。
報告された主な内容
まず偏食の背景について、論文は、食べ物の食感、色、におい、味、温度、とろみなどの状態、見た目といった感覚的な特徴が関わっている可能性を挙げています。紹介された研究の中には、盛り付け方や包装、商品のブランドまでが食べ物選びに影響しうるとするものもありました。
行動面では、決まったやり方へのこだわりや変化への抵抗、新しい食べ物を拒む傾向が、偏った食事パターンを維持させる一因になりうると整理されています。また、偏食は子ども本人だけでなく、食事時のストレスや食事を伴う社会的な行事への参加の難しさ、子どもと養育者双方の不安の増加など、家族の生活にも影響しうることが報告されています。
栄養面では、食べる食品の種類が少ないと、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンB群、ビタミンD、食物繊維といった重要な栄養素が不足するおそれがあると論文は述べています。紹介された研究では、こうした不足が貧血、神経機能への影響、骨の健康の低下、便秘などと関連しうることが指摘されています。
一方で、栄養が足りないことだけが問題ではないとも著者らは強調しています。味や食感が予測しやすい炭水化物中心の食品や超加工食品が好まれやすく、生鮮食品をあまり食べない場合には、栄養不足と同時に体重の増加や過体重・肥満のリスクも生じうる、いわば「二重の負担」になりうると整理されています。
食事パターンとASDの症状の関係については、ビタミンやミネラルの不足と不安や多動、いらだちなどの関連を報告した研究や、ビタミンB12を補った子どもで一部の行動に改善がみられたとする研究が紹介されています。ただし論文は、補充だけでASDの症状が変化したとは結論づけられないと注意を添えています。
リスクを減らす工夫とこの研究の意味
リスクを減らす方法として、論文は、専門職がチームで関わること、子ども一人ひとりの特徴に合わせて継続的に栄養状態を見守ること、新しい食べ物を少しずつ取り入れること、食べ物を使った遊びを取り入れることなどを挙げています。サプリメントは評価のうえで本当に必要な場合に限って使うべきだとしています。具体例として、好きな食べ物から皿を組み立て、新しい食べ物を段階的に加えていく「Meu Prato Autista(わたしの自閉症プレート)」という取り組みも紹介されています。
著者らは結論として、ASDのある子どもの偏食は栄養、感覚、行動、家族の各側面が絡み合う課題であり、家族や専門家にとって大きな挑戦であると述べています。そのうえで、食の困難を早めに見つけ、一人ひとりに合わせた継続的な支援を行うことが、より多様で適切な食事につながりうると整理しています。偏食を単なる好き嫌いではなく、感覚や行動の特性と結びついた課題として捉える視点を示した点に、このレビューの意義があります。
著者:Janderson dos Santos Catique、Dayane Menezes Viana、Rebeca Sakamoto Figueiredo
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Janderson dos Santos Catique, Dayane Menezes Viana, Rebeca Sakamoto Figueiredo. RISK OF NUTRITIONAL DEFICIENCIES ASSOCIATED WITH FOOD SELECTIVITY IN CHILDREN WITH AUTISM SPECTRUM DISORDER (ASD). Artefactum 2026-09-28. DOI: 10.23900/artefactum.v25i7.4405. 原著ライセンス:CC BY.