この研究は、ウクライナの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Eastern-European Journal of Enterprise Technologies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

軟質小麦からつくられる一般的なパスタは、手に入りやすく調理も簡単で保存もきく一方、炭水化物が多く高カロリーで、たんぱく質はアミノ酸組成の面で偏りがあり含有量も10〜12%にとどまる、と研究チームは論文の冒頭で指摘しています。そこで著者らが取り組んだのは、この軟質小麦パスタの栄養組成を強化しつつ、パスタとしての「機能的・技術的特性」——つまり茹で上がりや食感、保存のしやすさといった製品としての性質——を損なわないようにする、という課題です。

著者らが選んだ素材は、スペルト小麦の全粒粉と、亜麻仁(フラックスシード)のミールです。論文では、スペルト小麦はたんぱく質と水溶性食物繊維の点で軟質小麦を上回るとされ、亜麻仁ミールはたんぱく質やオメガ3、リグナンに富む素材として紹介されています。いずれも入手しやすい地域の原料であり、加工副産物を活用する考え方にもかなう点が選定の理由として挙げられています。研究の狙いは、小麦粉の一部をこれらに置き換えるにあたって、どの程度の配合が妥当かを機能的・技術的特性の側面から見きわめることでした。

何をどう調べたか

研究チームは、軟質小麦「マズロク」種の小麦粉を対照とし、生地に占めるスペルト小麦全粒粉の質量分率を20%・40%・60%、亜麻仁ミールの質量分率を2%・5%・8%と変えた組み合わせ、計9種類の試料を作製しました。原料を混ぜ、45℃の水で5分こねた生地をパスタ用プレス機で直径10mmのらせん状(フジッリ)に成形し、乾燥させて水分13〜14%に仕上げる、という工程です。

評価の対象となったのは5つの指標です。茹で上がるまでの最適加熱時間、茹でたパスタがどれだけ水を吸うかを示す吸水率、茹でる際に茹で汁へ溶け出してしまう固形分の損失量、折るのに必要な力で測った硬さ、そして乾燥したパスタが周囲の空気から水分をどれだけ吸い込むかを示す吸湿性です。吸湿性については、空気の相対湿度を10%から90%まで段階的に変えた容器に試料を置き、質量が一定になるまで測定する方法で「収着等温線」——湿度と製品中の水分量の関係を表す曲線——を求めています。各指標の測定値は、2つの配合率を変数とする数式(近似式)としてまとめられました。

主な報告結果

論文によれば、スペルト小麦全粒粉と亜麻仁ミールを加えると最適加熱時間は13〜38%長くなりました。対照試料の240秒に対して差がもっとも小さかったのは、スペルト小麦全粒粉40%・亜麻仁ミール2〜8%の組み合わせで、このとき差は30〜60秒でした。著者らは、家庭用の製品としてこの程度の差は選択を左右するものではないと述べています。

吸水率は逆に5〜24%低下し、もっとも低かったのはスペルト小麦全粒粉40%・亜麻仁ミール2〜5%の配合でした。著者らはこれを、でんぷんに富む軟質小麦粉が、たんぱく質と食物繊維に富む成分に置き換わった結果として説明しています。茹でたときの固形分の損失も1.21〜1.63倍少なくなり、スペルト小麦全粒粉40%・亜麻仁ミール5〜8%の条件では対照より35〜39%低い値が報告されています。

硬さは配合量が増えるほど高まり、とくに亜麻仁ミールの影響が大きいとされました。亜麻仁ミール8%・スペルト小麦全粒粉20%の試料では、対照の3倍の強度が得られています。吸湿性については、添加した試料はいずれも対照より周囲から吸い込む水分が少なく、しかも湿度が高めの環境でも水分の状態が安定する範囲が広がりました。対照では相対湿度70%を超えると保存に防湿包装が必要になるのに対し、亜麻仁ミール8%・スペルト小麦全粒粉60%の試料では85%まで同じ状態が保たれたと報告されています。この観点からは、両者の配合はできるだけ多いほうがよい、というのが著者らの見方です。

この研究が示すこと

注目すべきは、5つの指標それぞれで「望ましい配合」が必ずしも一致しなかったことです。加熱時間・吸水率・固形分損失ではスペルト小麦全粒粉40%付近が良好でしたが、硬さでは亜麻仁ミール8%・スペルト小麦全粒粉20%が最大となり、吸湿性の面では両方を最大にするのが望ましいという結果でした。

著者らは、今回の検討はあくまで機能的・技術的特性のみに基づくものであり、配合の最終的な決定は栄養面と官能面(味や見た目)の分析を踏まえて行うべきだと述べています。身近な素材を使ってパスタの中身を変えようとするとき、製品としての性質は一つの物差しでは測れない——この研究は、その判断に必要な数量的な手がかりを整理したものだといえます。

著者:Андрій Воронкін(State Biotechnological University)、Тетяна Володимирівна Гавриш(State Biotechnological University)、Maiia Artamonova(State Biotechnological University)、Андрій Олегович Пак(State Biotechnological University)、Аліна Володимирівна Пак(State Biotechnological University)、Maryna Sofronova(National Technical University «Kharkiv Polytechnic Institute»)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Андрій Воронкін, Тетяна Володимирівна Гавриш, Maiia Artamonova, et al. Improving a pasta recipe with the addition of spelt and flaxseed based on its functional and technological properties. Eastern-European Journal of Enterprise Technologies 2026-08-28. DOI: 10.15587/1729-4061.2026.369532. 原著ライセンス:CC BY.