この研究は、カザフスタンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:The Journal of Almaty Technological University
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
パンは毎日のように食べられ、カザフスタンの食生活でも大きな位置を占めています。一方で、一般的なパンは消化されやすいでんぷんが多く、食物繊維が比較的少ないという特徴があります。論文によれば、近年は炭水化物の「量」だけでなく「質」、つまり食物繊維、糖類、消化されにくいでんぷん、ゆっくり消化される炭水化物がどれだけ含まれるかが重視されるようになっています。
こうした背景から、炭水化物の質を整えた「炭水化物バランス型」のパン類の開発が求められています。著者らは、カザフスタン産のどの穀物を原料にし、どのような加工法を組み合わせればこうしたパンづくりに向くのかを、科学的に裏付けることを目的としました。ここでいう炭水化物バランスとは、炭水化物を単に減らすことではありません。消化の速い糖を減らし、食物繊維やゆっくり消化される炭水化物を増やし、でんぷんの分解されやすさを調整することを指します。
何を調べたか
研究チームが分析したのは、軟質小麦2品種(「アイナ」「カラガンダ31」)、トウモロコシ2品種(「モンサント」「パイオニア」)、大麦「カラバリクスカヤ150」、そして緑そばです。それぞれについて、水分、容積重(一定の体積あたりの穀粒の重さで、粒の充実度の目安)、千粒重、でんぷん量、たんぱく質量、炭水化物の組成を規格化された方法で測定しました。
あわせて著者らは、既存の研究を整理し、加工技術や素材の可能性も検討しました。対象としたのは、押出加工(エクストルージョン。熱と圧力をかけながら原料を押し出す加工)、発酵や酵素を使う生物工学的な処理、大麦などに含まれる水溶性の多糖類であるβ-グルカン、食物繊維、そしてペクチンのような増粘性の素材です。
主な結果
小麦では「アイナ」の評価が高く、容積重は812 g/L(「カラガンダ31」は726 g/L)、千粒重は43.16 g(同29.12 g)でした。でんぷんは49.2%(同47.7%)、たんぱく質は13.2%(同12.8%)でした。トウモロコシは2品種ともでんぷんが72.8%で同じでしたが、「モンサント」の方が容積重(755 g/L対735 g/L)、千粒重(387.78 g対275.9 g)、たんぱく質(8.3%対7.0%)のいずれも高い値でした。大麦はでんぷん61.0%、たんぱく質14.6%、そばはでんぷん68.0%、たんぱく質12.5%でした。
炭水化物の組成を比べると、炭水化物の総量は小麦60%、トウモロコシ74%、大麦56%、そば57%で、トウモロコシが最も多くなりました。でんぷんとデキストリンは100 gあたり54.5〜58.2 g、食物繊維は7.3〜10.9 gでした。食物繊維が多かったのはそば(10.9 g)と小麦(10.8 g)です。糖類は小麦で0.8 g、トウモロコシで1.1 gと少なく、大麦とそばでは今回の測定法では検出されませんでした。
これらの結果から、著者らは各穀物の役割を次のように整理しています。小麦「アイナ」はパン生地の骨格をつくる基本原料、トウモロコシ「モンサント」はでんぷんの供給源、大麦とそばは食物繊維や機能的な炭水化物を調整する成分という位置づけです。
文献の検討からは、加工法についても次のような見通しが示されました。押出加工はでんぷんの構造を変え、水溶性食物繊維を増やし、ゆっくり消化されるでんぷんの形成を促すと報告されています。発酵では有機酸ができ、でんぷんの分解が遅くなるとされます。酵素の使い方については、糖を過剰に生み出さずに中くらいの大きさのデキストリンをつくるα-アミラーゼの利用が、麦芽糖を多く生じやすいβ-アミラーゼより望ましいと論文は述べています。ペクチンは生地の保水性を高め、パンの中身の構造を整えるほか、でんぷんの消化やブドウ糖の拡散を抑える働きが報告されています。
研究の意味
この研究は、パンそのものを作って試したものではありません。カザフスタン産の穀物の性質を実測で比べ、既存の研究から有望な加工法を整理することで、炭水化物の質に配慮したパンづくりの土台を示したものです。著者らは、穀物ごとに異なる成分の特徴を組み合わせ、押出加工や発酵、増粘性素材と併用する方向性に根拠があるとしています。そのうえで、今回の結果を、実際のレシピの開発と評価という次の段階の基礎と位置づけています。
著者:A. D. Nurmanova(International Engineering Technological University)、Maigul Zhalelovna Kizatova(Asfendiyarov Kazakh National Medical University)、Д. А. Шаймерденова(LLP “Innovator” Research and Production Enterprise)、Алтынай Бурхатовна Абуова(International Engineering Technological University)、Sandugash Anuarbekova(LLP “Innovator” Research and Production Enterprise)、Zhanar Chakanova(LLP “Innovator” Research and Production Enterprise)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):A. D. Nurmanova, Maigul Zhalelovna Kizatova, Д. А. Шаймерденова, et al. Scientific substantiation of technological approaches to the development of carbohydrate-balanced bakery products based on Kazakhstan's cereal raw materials. The Journal of Almaty Technological University 2026-09-30. DOI: 10.48184/2304-568x-2026-3-83-90. 原著ライセンス:CC BY.