著者の所属・活動拠点の国は、中国、アメリカです。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
マツタケは食用・薬用として価値が高いとされるキノコで、多糖類やアミノ酸、フェノール類(ポリフェノールなどを含む植物・キノコ由来の化合物群)などを含みます。キノコに含まれるこうした成分は、加熱などの処理によって量が変わることがあり、試験管内で測る抗酸化活性(物質の酸化を抑える働き)にも影響しうることが、ほかのキノコでは報告されてきました。
一方で著者らによると、マツタケについては、揚げる、ゆでる、蒸す、乾燥させるといった複数の処理法を同じ条件でまとめて比べた体系的な研究は限られていました。そこで研究チームは、家庭での調理と工業的な加工の両方に関係する7種類の処理法を取り上げ、マツタケのたんぱく質、総糖、総フェノール含量と抗酸化活性がどう変わるかを比較しました。目的は、マツタケを使った製品の工業生産に向けた基礎的な知見を得ることだとしています。
何をどのように調べたか
研究では、中国・四川省産の新鮮なマツタケを約1センチ角に切り、何もしない生の試料を比較の基準としたうえで、7通りの処理を施しました。120℃の油で5分揚げる低温フライ、水で45分煮る煮沸、45分の蒸し、油を塗って短時間加熱する焙焼(ロースト)、真空凍結乾燥(凍らせて真空下で水分を除く方法)、真空包装して80℃の湯で45分温める真空低温加熱、水と一緒に電子レンジで加熱するマイクロ波加熱です。各処理は5回ずつ繰り返されました。
処理後のマツタケからは、水で取り出した抽出液と、60%エタノールで取り出した抽出液の2種類をつくりました。水は糖やたんぱく質のように水になじむ成分を、エタノール水溶液はフェノール類のような成分を取り出しやすいためです。なお、煮沸とマイクロ波加熱では、加熱に使った水(ゆで汁)に溶け出した成分も合わせて抽出液に含めています。
これらの抽出液について、たんぱく質、総フェノール、総糖の量を測定しました。量は生のマツタケ100グラムあたりに換算されています。抗酸化活性は、DPPHラジカル、ABTSラジカル、ヒドロキシルラジカルという3種類の不安定な分子(ラジカル)をどれだけ消去できるかと、還元力という、合わせて4つの化学的な指標で評価しました。
主な結果
論文によると、たんぱく質の量はどの処理でも生の状態より多かれ少なかれ低下し、とくに焙焼とマイクロ波加熱で統計的に意味のある低下がみられました。著者らは、高温によるたんぱく質の変性や分解などが関わっている可能性を挙げています。
総フェノール量は、煮沸とマイクロ波加熱で有意に増えた一方、低温フライ、焙焼、真空低温加熱では有意に減りました。蒸しと真空凍結乾燥では、生のときに近い量が保たれました。総糖量も煮沸とマイクロ波加熱で有意に増え、ほかの処理ではおおむね保たれていました。著者らは、加熱で細胞壁が壊れて成分が水中へ出やすくなったことなどを理由の候補として挙げています。真空凍結乾燥は、低温・真空下で行われるため熱に弱い成分の損失が抑えられ、栄養成分をよく保持したと報告されています。
抗酸化活性については、4つの指標を総合すると、煮沸、真空凍結乾燥、マイクロ波加熱が、マツタケの抗酸化活性をもっともよく維持、あるいは高めたと著者らはまとめています。また、DPPHやABTSラジカルの消去ではエタノール抽出液のほうが水抽出液より一貫して高く、全体としてもエタノール抽出液のほうが抗酸化活性が高い傾向でした。ただし還元力の指標では、水抽出液がエタノール抽出液を上回る結果も示されています。
研究が示すこと
著者らは、栄養成分の保持、抗酸化活性、実際の生産での扱いやすさを総合して、煮沸と真空凍結乾燥が、マツタケ資源を標準化された形で工業生産するうえでもっとも適した方法だと結論づけています。あわせて、エタノール抽出液には天然の抗酸化素材として開発できる可能性があるとしています。
この研究は、同じマツタケでも加工法によって成分の残り方や試験管内での抗酸化活性が大きく変わることを、複数の処理法を並べて比べることで示しました。ここでいう抗酸化活性は化学的な測定によるもので、食べたときの体への効果を調べたものではありませんが、マツタケをどう加工するかを考える際の比較材料を提供する報告といえます。
原著論文の著者・所属:Yang Liu(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Xiaoping Li(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University; Key Laboratory of Industrialized Processing and Safety of Guangxi Cuisine (Guilin Tourism University), Education Department of Guangxi Zhuang Autonomous Region)、Yu Zhou(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Chengjian Xu(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Yingying Cui(Guangxi Engineering Research Center for Large-Scale Preparation & Nutrients and Hygiene of Guangxi Cuisine; Key Laboratory of Industrialized Processing and Safety of Guangxi Cuisine (Guilin Tourism University), Education Department of Guangxi Zhuang Autonomous Region)、Yiming Tang(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Nina Yan(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Zhongyan Zhu(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Zhiyong Hou(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Bowen Zan(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Ziqiang Ma(Xinjiang Guannong Co., Ltd., Korla, China)、Xueming Wang(Xinjiang Guannong Co., Ltd., Korla, China)、Nan Zhu(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University)、Hang Xiao(Department of Food Science, University of Massachusetts, Amherst, MA, United States)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yang Liu, Xiaoping Li, Yu Zhou, et al. Changes in protein, total sugar, total phenolic contents and antioxidant activity of Tricholoma matsutake after different processing methods. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-08-19. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1884927. 原著ライセンス:CC BY.