著者の所属・活動拠点の国は、イランです。
掲載誌:DOAJ (DOAJ: Directory of Open Access Journals)
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
食品の3Dプリンティングは、デジタルで設計した形に沿って食材を少しずつ積み重ね、立体的な食品を作る技術です。材料を層ごとに積み上げる「付加製造」と呼ばれる方法の一つで、従来の型や製法では作りにくい複雑な形を作れます。形だけでなく、食感、風味、構造、栄養価も個人の好みや必要に合わせて調整できる可能性があるとして、大学や産業界から注目されています。
研究チームは冒頭で、国連食糧農業機関(FAO)が「2050年までに約99億人に達すると予測される世界人口を養うには、食料生産を70%増やす必要がある」と見積もっていることに触れ、食料の持続可能性を高める新しい手段が求められていると述べています。そのうえで著者らは、どのような食材が食品3Dプリンターで使えるのかを体系的に紹介した研究がこれまで国内で行われていなかったとして、印刷に使える原料とその性質を整理することをこの総説の目的としています。
何を調べたか
この論文は、新たな実験を行った研究ではなく、既存の研究をまとめた総説(レビュー)です。研究チームはScienceDirect、Scopus、PubMed、Google Scholar、ISCといった文献データベースを検索し、2009年から2025年に発表された、付加製造技術の食品への応用に関する論文を対象としました。最終的に64本の論文を選んで検討しています。
議論の中心となるのは「印刷適性」という考え方です。論文では、印刷適性を、材料が台の上に積み重ねられたときに自分の重さを支え、印刷後も形を保てる能力として説明しています。特に、ペースト状の材料をノズルから押し出して積み上げる「押出し式」の印刷では、材料がノズルを通るときには流れやすく、積み上げた後には崩れにくいという、相反する性質のバランスが重要だとされています。著者らは、こうした流れや変形のしにくさ(レオロジー特性)を表す指標として、流れ始めに必要な力、弾性の強さ、粘度などを挙げています。
また、食材を構成する炭水化物、たんぱく質、脂質、食物繊維がそれぞれ印刷適性にどう関わるかも整理しています。たとえば、引用された研究では、デンプンは加熱で糊化してゲルを作りやすく、構造を支えるのに向いていることが紹介されています。ある研究では、トウモロコシデンプン25%、ジャガイモデンプン15%、コメデンプン20%の濃度で、表面が滑らかで丈夫な構造が得られたと報告されており、濃度が30%を超えると押し出しにくくなることにも触れています。一方、食物繊維を多く含む材料は、粒子がノズルを詰まらせたり成分が分離したりしやすく、デンプンやたんぱく質を主体とする材料に比べて印刷が難しいとする研究が紹介されています。
主な結果:食材は三つのグループに分けられる
研究チームは、食品3Dプリンターの原料を大きく三つのグループに分類しました。一つ目は「本来印刷しやすい材料」です。チョコレートや砂糖を使った菓子類、生地やペースト状の食品、食品ゲルがこれにあたり、具体的にはハイドロゲル、オレオゲル(油をゲル状にしたもの)、カスタードなどの菓子用クリーム、チーズ、フムス、アイスクリーム、粉砂糖、デンプンを主体とする材料が挙げられています。これらは特別な添加物を加えなくても印刷でき、前処理もほとんど必要ないとされています。ただし著者らは、印刷しやすいからといって栄養的に十分な食事になるとは限らず、栄養面を考えた配合の工夫が必要だとも指摘しています。
二つ目は「そのままでは印刷できない材料」です。野菜や果物、肉製品、水分の多い食品などが含まれます。これらは構造を支える成分が比較的少ないため、そのままでは形を保ちにくいとされています。一方で、食物繊維、抗酸化物質、ビタミン、ミネラルなどの供給源として価値がある食材でもあります。論文によれば、こうした材料は、水となじみやすく、とろみやゲルを作る性質を持つ多糖類やたんぱく質(ハイドロコロイド)を加えて粘りや流れやすさを調整することで、印刷できるようになります。卵黄、卵白、デンプン、米粉・小麦粉・キビ粉などの添加も印刷適性を高めるとされ、ハイドロコロイドの添加が最も一般的な方法だと述べられています。たとえば、凍結乾燥したホウレンソウの粉末にキサンタンガムを10%加えると保水性が改善したという研究が紹介されています。
三つ目は「代替材料」です。昆虫、藻類、キノコ、ルピナス(マメ科植物)の種子など、栄養が豊富でありながら多くの文化で一般的な食材とは見なされていないものが含まれます。さらに著者らは、果物や野菜の皮、肉の切れ端、魚の一部など、食品加工の過程で出る副産物や廃棄物も3Dプリンターの原料として活用できると述べています。こうした代替資源から食品を作ることについて、著者らは二酸化炭素排出の削減や、乳幼児・若年層の栄養不良を含む飢餓問題への対策につながりうる有望な手段であり、食品廃棄物から価値を生み出して循環型経済に貢献できると位置づけています。
この研究が示すこと
この総説の意義は、食品3Dプリンターで使える食材を「そのまま印刷できるもの」「工夫すれば印刷できるもの」「新しい食料源となりうるもの」という分かりやすい枠組みで整理した点にあります。食材の成分の割合や、流れやすさと形の保ちやすさのバランスが印刷の成否を左右するという見方は、どの食材にどのような下ごしらえや配合が必要かを考える手がかりになります。研究チームは、食品3Dプリンティングが将来的に複数の加工工程を一つにまとめ、食品の生産や流通を簡素にする可能性があるとの見通しも述べており、本論文はそのための原料選びの基本を整理したものといえます。
原著論文の著者・所属:Hannan Lashkari(Department of Food Science and Technology, Zard.C., Islamic Azad University, Zarindasht, Iran)、Sheida Esmaielzadeh(Department of Chemistry, Dar.C., Islamic Azad University, Darab, Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hannan Lashkari, Sheida Esmaielzadeh. A Review on Edible Raw Materials that Can Be Used in Food 3D Printers. DOAJ (DOAJ: Directory of Open Access Journals) 2026-09-01. DOI: 10.22067/ifstrj.2026.97516.1546. 原著ライセンス:CC BY.