著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:栄養と印刷のしやすさを両立する全粒穀物素材

3Dフードプリンターは、コンピューターで設計した形に合わせて、ペースト状の食材を一層ずつ積み重ねて立体的な食品をつくる技術です。この技術を広げるには、栄養価が高く、しかも思いどおりの形に印刷しやすい素材が求められます。

研究チームが注目したのは発芽玄米です。玄米を発芽させると、生理活性成分として知られるγ-アミノ酪酸(GABA)が増えます。発芽玄米はでんぷんを多く含み、ゲル状になりやすいため、印刷用の素材として有望とされてきました。ただし、そのまま加工したゲルでは、印刷物の寸法が設計からずれやすいという問題がありました。著者らによると、これまでの発芽玄米研究は発芽条件の最適化や栄養の向上が中心で、3D印刷への適性はあまり調べられていませんでした。

そこで研究チームは、化学薬品を使わない加熱処理で発芽玄米の粉を改質しました。その処理がGABA量と印刷精度の両方にどう影響するかを調べています。

何を調べたか:2種類の加熱処理と印刷試験

研究チームは、玄米を水に浸してから発芽させ、乾燥して粉にしました。この粉に2種類の加熱処理を施しています。1つは乾熱処理で、オーブンで90〜150℃の5段階の温度で20分間加熱しました。もう1つは高圧蒸気処理で、オートクレーブ(高温高圧の蒸気で加熱する装置)を使い、115℃で5〜25分の5段階の時間をかけて加熱しました。

処理した粉は水と混ぜて加熱し、のり状のゲルにして印刷用インクとしました。このインクで、平面的な「W」の文字と立体的な「Androidロボット」の2種類の形を印刷しました。設計寸法と実際の寸法とのずれ(相対寸法偏差)を測り、印刷精度を評価しています。あわせて、GABA量、水や油を抱え込む力、加熱したときの粘りの変化、ゲルの弾性と流れやすさ、硬さなどの食感、内部の微細構造も調べました。

主な結果:適度な加熱でGABAを保ちつつ、ずれが大きく減少

論文によると、発芽によってGABA量は玄米の1キログラムあたり47.66ミリグラムから104.85ミリグラムへと大きく増えました。一方、加熱処理をしていない発芽玄米のゲルでは、印刷物の寸法偏差が「W」で9.01%、ロボットで18.70%と大きくなりました。

乾熱処理では、温度を上げるにつれて寸法のずれがいったん小さくなり、その後また大きくなりました。135℃で処理した群でずれが最も小さくなり、偏差は「W」で1.72%、ロボットで0.93%でした。未処理の発芽玄米と比べると、それぞれ80.9%と95.0%の減少です。GABA量は120℃処理で最大の117.29ミリグラムに達しました。135℃処理でも114.02ミリグラムと、ほぼ同じ水準が保たれていました。一方、150℃ではゲルが硬くなりすぎ、縁のギザギザや線の途切れが生じました。

高圧蒸気処理でも、処理時間が長くなるにつれて寸法のずれは小さくなり、その後また大きくなりました。研究チームは、15分処理した群がGABAの保持と印刷のしやすさのバランスに最も優れていたと報告しています。処理時間が長すぎると、でんぷんの分解が進み、形が保ちにくくなったとしています。

2つの処理を比べると、乾熱処理は立体的な形を支える力の向上に、高圧蒸気処理は平面的な形の精度の向上に、それぞれ効果が大きかったとされます。研究チームは、適度な加熱によってでんぷんが再び結びつき、均一で細かな孔をもつゲルの網目構造ができたことが、押し出しやすさと印刷後の形の保持につながったと説明しています。GABAが適度な加熱で保たれたり、わずかに増えたりした理由については、組織内に閉じ込められていたGABAが放出されたためと著者らは考察しています。また、加熱が強すぎるとGABAが分解しうるとも述べています。

研究が示すこと

この研究は、薬品を使わない乾熱や高圧蒸気による加熱という比較的単純な処理で、発芽玄米のGABA量を保ちながら、3D印刷での形の正確さを大きく高められることを示しました。最適な条件は、乾熱では135℃、高圧蒸気では15分と報告されています。加熱が足りなくても強すぎても印刷の質が落ちるという結果は、栄養と加工しやすさの釣り合いを取るうえで、処理の強さの見極めが重要であることを伝えています。

原著論文の著者・所属:Yuxiang Shen(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lianhua Street, High-Tech, Zhengzhou 450001, China)、Jinglei Xu(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lianhua Street, High-Tech, Zhengzhou 450001, China)、Zhongbo Zhang(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lianhua Street, High-Tech, Zhengzhou 450001, China)、Jiping Wen(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, 100 Lianhua Street, High-Tech, Zhengzhou 450001, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuxiang Shen, Jinglei Xu, Zhongbo Zhang, et al. Development of 3D Food Printing Ink Based on Germinated Brown Rice Modified by Dry Heat and High-Pressure Steam. Foods 2026-10-17. DOI: 10.3390/foods15203693. 原著ライセンス:CC BY.