著者の所属・活動拠点の国は、エジプトです。
掲載誌:BMC Plant Biology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:安い炭素源で微細藻類を育てられるか
クロレラ(Chlorella vulgaris)は、直径2〜10マイクロメートルほどの球形の細胞をもつ緑色の微細藻類です。近年は、藻類を育てるための安価な炭素源(栄養となる炭素を含む材料)を探す研究が多く行われています。
研究チームが注目したのは糖蜜です。糖蜜は、サトウキビやテンサイから砂糖を製造・精製する際にできる黒褐色の副産物です。飲料の製造、酢酸の合成、パン酵母の培養、家畜の飼料、肥料などに使われています。糖類のほか、硝酸塩やリン酸塩、ミネラル、ビタミンも含みます。論文は、糖蜜が藻類培養に適し、経済的にも成り立つ原料になりうると述べています。
この研究では、エジプトのナイル川の淡水から分離したクロレラ株「MU-22」を使いました。糖蜜を加えて育てたときの生育と成分の変化を調べ、さらにその抽出物の生物活性と、ピーマン(Capsicum annuum)に与えたときの効果を評価しました。
何を調べたか:糖蜜を加えた「混合栄養」培養と抽出物の評価
著者らはまず、分離した藻を顕微鏡で観察し、遺伝子(18S rRNA遺伝子)を解析して、Chlorella vulgarisであると特定しました。
続いて、藻類用の標準的な培地に加水分解した糖蜜を加えました。糖蜜の量は、グルコース濃度に換算して1リットルあたり0.5、1.0、1.5、2.0グラムに相当する4段階です。この条件では、藻は光合成を行いながら、糖蜜由来の糖も栄養として取り込みます。このような育て方を「混合栄養(ミクソトロフィック)培養」と呼びます。比較対象として、糖蜜を加えず光合成だけで育てる培養も行いました。
次に、光合成だけで育てた藻と、糖蜜を加えて育てた藻のそれぞれからメタノールで成分を抽出しました。これらの抽出物について、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)で含まれる化合物を調べました。あわせて、細菌の増殖を抑える働き、タマネギの根の細胞でDNA損傷を抑える働き、ピーマンの害虫モモアカアブラムシに対する殺虫作用も評価しました。
最後に、ピーマンの栽培試験を行いました。蒸留水だけを与える区、化学肥料(尿素)を与える区、二種類の藻類抽出物をそれぞれ与える区を比べ、生育、収量、果実の成分などを調べました。
主な結果:糖蜜で生育が高まり、抽出物の働きにも差が出た
糖蜜を加えたすべての条件で、細胞数は糖蜜なしの対照より有意に多くなりました。対照の細胞数の最大値は1ミリリットルあたり274万個でした。これに対し、グルコース換算1.0グラムの条件では、4日目に929万個に達しました。培養液の濁り具合で生育量を示す光学密度は、2.0グラムの条件で最も高く、最終日に2.459でした。対照は0.421でした。光合成の健全さを示す指標は、すべての条件で0.745〜0.785の範囲にありました。著者らはこの値から、いずれの藻も代謝が活発な状態だったと判断しています。
GC/MS分析では、二つの抽出物から合計25種類の化合物が同定されました。糖蜜を加えて育てた藻の抽出物では、パルミチン酸の割合が26.38%でした。光合成だけで育てた藻の抽出物では9.93%で、糖蜜条件の方が多くなりました。
糖蜜条件の藻の抽出物は細菌の増殖を抑える働きを示しましたが、大腸菌には効果が見られませんでした。タマネギの根の細胞を過酸化水素で傷つける試験では、DNAが損傷した核の割合が22%から17%に下がりました。著者らは、この抽出物が酸化によるDNA損傷を抑えたと報告しています。
実験室でピーマンの葉片に抽出物を噴霧した試験では、アブラムシの死亡率が濃度とともに上がりました。半数のアブラムシが死ぬ濃度(LC50)は、糖蜜条件の抽出物が962.15ppm、光合成だけの抽出物が1256.40ppmでした。より低い濃度で効いたことから、糖蜜条件の抽出物の方が殺虫作用が強いと示されました。
ピーマンの栽培試験では、生育75日目の1回目の収穫で、糖蜜条件の抽出物を与えた区の果実数が最も多い8個でした。続いて蒸留水のみの区が6個、尿素の区が5個、光合成だけの抽出物の区が3個でした。糖蜜条件の藻の抽出物は果実のアスコルビン酸(ビタミンC)を有意に増やしました。一方、尿素を与えた区では、蒸留水のみの区より低い値になりました。藻類抽出物を与えた区では、果実の抗酸化活性も高まりました。ただし、果実の日持ちは蒸留水のみの区で長くなりました。著者らは、その果実の水分が少なかったことが理由と考えられると述べています。
研究が示すこと
この研究は、砂糖産業の副産物である糖蜜を、クロレラを育てるための安価な炭素源として活用できることを示しました。糖蜜を加えて育てると藻の生育が高まり、成分構成も変わりました。その違いは、抽出物の抗酸化、抗菌、DNA保護、殺虫といった働きや、ピーマンの収量と果実成分への効果の差として現れました。著者らは、こうした藻類抽出物が持続可能な生物肥料として役立つ可能性を示したとまとめています。
原著論文の著者・所属:Amany M. Atia(Algae Biotechnology & Water Quality Lab, Faculty of Science, Mansoura University, Mansoura, 7659905, Egypt)、Yasmin M. Heikal(Botany Department, Faculty of Science, Mansoura University, Mansoura, 7659905, Egypt)、Ahmed Ramadan El-Rokh(Plant Protection Research Institute, Agricultural Research Center, Giza, 12618, Egypt)、Eladl Eltanahy(Algae Biotechnology & Water Quality Lab, Faculty of Science, Mansoura University, Mansoura, 7659905, Egypt. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Amany M. Atia, Yasmin M. Heikal, Ahmed Ramadan El-Rokh, et al. Valorization of sugar industry byproducts for cost-effective Chlorella vulgaris MU-22 production: assessment of bioactive extracts and biofertilizer potential on bell pepper (Capsicum annuum). BMC Plant Biology 2026-10-07. DOI: 10.1186/s12870-026-09964-y. 原著ライセンス:CC BY.