著者の所属・活動拠点の国は、ハンガリー、ドイツです。
掲載誌:Antioxidants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ポリフェノールは植物がつくる多様な化合物の総称です。植物の中では、紫外線や病原体から身を守る働きなどを担っています。ブドウ(Vitis属)はポリフェノールを豊富に含む植物として知られ、これまでの研究は主に果実に集中してきました。一方、ブドウの葉は地中海や中東の伝統料理に使われるものの、食品素材としてはあまり活用されていません。
研究チームは二つの目的を立てました。一つは、さまざまな系統のブドウの葉について、ポリフェノールの総量と成分の内訳を比べることです。もう一つは、ポリフェノールを多く含む葉の抽出物が、乳酸菌の一種であるラクチプランチバチルス・プランタルム(L. plantarum)の増殖と、過酸化水素による「酸化ストレス」(細胞を傷つける活性の高い酸素分子による負担)の下での生存にどう影響するかを調べることです。著者らは、遺伝的に多様なブドウの葉の成分比較と、選んだ抽出物の微生物学的な評価を結びつけた点を、この研究の新しさとしています。
17系統の葉を比べる
材料には、ハンガリーのペーチ大学が保有するブドウ遺伝資源圃場の17系統を用いました。内訳は、アムールブドウ(V. amurensis)やヤマブドウ(V. coignetiae)などの野生種9系統、ピノ・ノワールやタナなど栽培種ヨーロッパブドウ(V. vinifera)7品種、そして交雑種のイザベラ1品種です。系統ごとに5本の樹から葉を採り、それぞれを独立した試料として分析しました。
ポリフェノールの総量は、試薬の発色反応で測る「総フェノール含量」で評価しました。この値は、基準物質である没食子酸に換算した量で表されます。個々の成分は、混合物を成分ごとに分離して測る高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量しました。主な対象は、ブドウに特徴的な成分であるカフタル酸と、ケルセチンやケンフェロールに糖が結合した「フラボノール配糖体」です。
成分の量は系統によって大きく異なった
葉の総フェノール含量は、乾燥重量1グラムあたり約20〜100ミリグラム(没食子酸換算)と幅広く、系統間で有意な差がありました。最も高かったのはアムールブドウで、100ミリグラムに迫りました。最も低かったのはヤマブドウとイザベラで、いずれも約20ミリグラムでした。著者らは、アムールブドウの値が、過去に報告されたポリフェノールの豊富な品種カベルネ・ソーヴィニヨンの種子や果皮の平均値を上回る点に触れています。そのうえで、系統によっては葉が果実以上にフェノール類を含みうると述べています。
成分別では、カフタル酸はタナ(乾燥重量1キログラムあたり8229ミリグラム)とキシュミシュ・ヴァトカナ(同7829ミリグラム)で特に多く含まれていました。フラボノール配糖体では、ケルセチン-3-O-グルクロニドが多くの系統で最も多い成分でした。17系統のうち12系統で、1キログラムあたり約1万3800〜2万ミリグラムに達しています。一方、V. romanetiiではこの成分が検出されませんでした。系統によっては、フラボノール類の合計が乾燥重量の3%を超えました。成分によっては、系統間の濃度差が最大で100倍ほどにもなりました。
統計解析では、総フェノール含量とケルセチン-3-O-グルコシドの量の間に強い正の相関が見られました。この成分はアムールブドウで特に多く含まれていました。これらを踏まえ、著者らは、この成分が総フェノール含量の測定値に大きく寄与している可能性を示しています。
アムールブドウ葉抽出物と乳酸菌
微生物実験では、総フェノール含量が最も高かったアムールブドウの葉の水抽出物を使いました。乳酸菌は、市販のプロバイオティクス製品から分離したL. plantarumの1株です。抽出物を加えると、濃度に応じて菌の増殖が促されました。最も高い濃度(1ミリリットルあたり5.50ミリグラム)では、無添加の場合に比べて最大増殖速度が約2.43倍、増殖量の指標が約2.58倍になりました。ただし、増殖が本格的に始まるまでの準備期間(誘導期)は、濃度が高いほど長くなりました。
過酸化水素で酸化ストレスを与える実験も行われました。2ミリモル濃度では、抽出物がない場合は菌の増殖が検出されませんでした。抽出物を加えた場合は、24時間後に1ミリリットルあたり約1.8億個の生菌が確認されました。5ミリモル濃度では、抽出物がないと生菌は検出されませんでしたが、抽出物を加えると少数ながら生菌が数えられる程度に残りました。10ミリモル濃度では、散発的なコロニーが得られたのみでした。著者らは、この保護効果が抽出物と過酸化水素の直接的な反応だけでは説明できず、菌の増殖やストレスへの適応に対する別の作用も関わっていると考えています。
研究が示すこと
この研究は、ブドウの葉が系統によって大きく異なるポリフェノールの組成を持ち、品種ごとに特有の成分パターンを示すことを明らかにしました。著者らは、こうしたデータが特定の成分を多く含む系統を選ぶ手がかりになるとしています。
乳酸菌への作用については、著者ら自身が予備的な結果と位置づけています。実験は試験管内で、乳酸菌1株だけを用いて行われました。増殖促進や保護作用の仕組みも、直接には調べられていません。それでも、ブドウの葉が多様なフェノール類の供給源となりうること、そしてその抽出物が試験管内で乳酸菌の増殖と酸化ストレス下での生存を支えたことが示されました。
原著論文の著者・所属:László Kőrösi(Research Institute for Viticulture and Oenology, University of Pécs, 7634 Pécs, Hungary)、Okba Hatem(Cochrane Hungary, Medical School, University of Pécs, 7624 Pécs, Hungary)、Franco Röckel(Julius Kühn Institute (JKI)—Federal Research Centre for Cultivated Plants, Institute for Grapevine Breeding Geilweilerhof, 76833 Siebeldingen, Germany)、György Schneider(Department of Medical Microbiology and Immunology, Medical School, University of Pécs, 7624 Pécs, Hungary)、Szilvia Papp(Department of Biochemistry and Medical Chemistry, Medical School, University of Pécs, 7624 Pécs, Hungary)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):László Kőrösi, Okba Hatem, Franco Röckel, et al. Phenolic Profiling of Grapevine Leaves and the Protective Effect of a Polyphenol-Rich Vitis amurensis Extract on Lactiplantibacillus plantarum Under Oxidative Stress. Antioxidants 2026-10-01. DOI: 10.3390/antiox15101266. 原著ライセンス:CC BY.