著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

化学農薬や化学肥料の多用は、生態系を傷つけ、土の中の有益な微生物や小動物を減らすほか、人の健康にも悪影響を及ぼすと指摘されています。研究チームは、環境に配慮した持続可能な方法として「自然農法」に注目しました。ただし、自然農法がピーマン(カプシカム)の収量や土壌にどう影響するかについては、情報が限られていたといいます。

そこで著者らは、インド北部ヒマーチャル・プラデーシュ州の中山間地で、自然農法と慣行農法(地元大学が推奨する標準的な栽培法)を比較しました。調べた項目は、ピーマンの生育と収量、収益性、土壌の物理的・化学的・生物的な性質、主要な病害虫の発生です。

どのように調べたか

試験は2023年と2024年の2年間、標高約1400メートルの試験農場で行われました。どちらの年も2月に始め、9月まで栽培を続けています。品種は、この地域での栽培に適したピーマン品種「ソラン・バルプール」です。

自然農法の区画では、自然農法で使われる独自の資材を用いました。種子は「ビージャムリット」でコーティングしてからまき、畑の準備の際には「ガンジーヴァムリット」を施し、「ジーヴァムリット」は苗床で定期的に土へ注いで与えています。論文の資材一覧には、このほか「アストラ」と呼ばれる一連の資材も挙げられています。土の表面は乾いた草で覆いました。これは「アッチャーダナ」と呼ばれるマルチングです。また、灌水の回数と量を抑え、根の周りに水と空気がほどよく保たれる状態(ヴァプサ)を目指す管理も行いました。さらに、ピーマンの畝の間にインゲンを植えて間作とし、区画の周りにはシコクビエを植えました。つまりこの比較は、肥料の違いだけでなく、間作を含む栽培体系全体の違いを比べたものです。

土壌は、試験開始前と収穫後に表層から採取しました。土の詰まり具合(かさ密度)、すき間の割合(孔隙率)、有機炭素、窒素・リン・カリウムの量、微生物の数、ミミズの数などを測定しています。あわせて、作物の生育と収量、病害虫の発生、栽培コストと収入を記録しました。

主な結果

土壌では、自然農法区のほうが土が柔らかく、すき間の多い状態になっていました。かさ密度は慣行農法区の1立方センチメートルあたり1.32グラムに対し、自然農法区では1.29グラムでした。孔隙率は43.8%に対して46.03%です。有機炭素も、土1キログラムあたり12.4グラムに対し13.9グラムと、自然農法区で多くなりました。土の中の細菌、カビ(糸状菌)、放線菌の数も自然農法区で多いと報告されています。ミミズは1平方メートルあたり平均22.7匹で、慣行農法区の8.4匹を大きく上回りました。

病害虫の結果は、病気によって異なりました。自然農法区では、葉枯れ病、果実腐敗、萎凋(しおれ)の発生が見られませんでした。一方、慣行農法区では、葉枯れ病の重症度が16.88%、果実腐敗の発生率が9.54%、萎凋の発生率が28.3%でした。アブラムシも、慣行農法区では16.4%の被害があったのに対し、自然農法区では確認されませんでした。著者らは害虫被害が見られなかった理由として、アストラ類の資材による摂食阻害の作用などを挙げています。細菌による斑点病も自然農法区のほうが軽く済みました。反対に、うどんこ病は自然農法区のほうが重く、重症度は慣行農法区の14.77%に対して21.23%でした。著者らはこの理由について、間作したインゲンの葉が茂って風通しが悪くなり、病気が広がりやすい環境になった可能性を挙げています。

ピーマンの草丈、1株あたりの果実数、果実の大きさと重さは、いずれも自然農法区で上回りました。収量は1ヘクタールあたり365.8キンタル(1キンタルは100キログラム)で、慣行農法区の347.6キンタルより多くなりました。さらに自然農法区ではインゲンも78.4キンタル収穫できました。これを市場価格でピーマンに換算して合計した「作物換算収量」は463.8キンタルで、慣行農法区より33.4%多かったと報告されています。

収益面では、自然農法区の栽培コストは1ヘクタールあたり31万2500ルピーで、慣行農法区の36万8750ルピーを下回りました。純収益は約117万ルピーで、慣行農法区の約74万ルピーより多くなりました。栽培コストに対する総収入の比率も、3.01に対して4.74と高い値でした。

この研究が示すこと

著者らは、インゲンとの間作を組み合わせた自然農法が、この地域の多雨や乾燥の条件のもとで慣行農法を上回ったと結論づけています。自然農法は、土壌の状態や土の中の生物の多様性を高めるとともに、生産コストを抑え、収益を高める選択肢になりうるとしています。一方で、うどんこ病のような葉の病気の管理方法には課題が残ることも、著者ら自身が指摘しています。

この結果は、一つの地域の試験農場で2年間行われた比較によるもので、自然農法の資材、マルチング、間作などを組み合わせた栽培体系全体としての違いを示しています。そのうえで、化学資材に頼らない栽培が、土と作物と収益の三つの面で慣行農法と競い合える場合があることを、圃場のデータで示した研究だといえます。

原著論文の著者・所属:Arti Shukla(Horticultural Research &Training Station and Krishi Vigyan Kendra, Solan at Kandaghat, Solan, Himachal Pradesh, 173 215, India)、Meera Devi(Horticultural Research &Training Station and Krishi Vigyan Kendra, Solan at Kandaghat, Solan, Himachal Pradesh, 173 215, India)、Anurag Sharma(Horticultural Research &Training Station and Krishi Vigyan Kendra, Solan at Kandaghat, Solan, Himachal Pradesh, 173 215, India; Punjab Agricultural University, Ludhiana, Punjab, 141 004, India)、Amit Vikram(Horticultural Research &Training Station and Krishi Vigyan Kendra, Solan at Kandaghat, Solan, Himachal Pradesh, 173 215, India)、Jitender Chauhan(Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni-Solan, Himachal Pradesh, 173 230, India)、Sweta Pathania(Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni-Solan, Himachal Pradesh, 173 230, India)、Abhinav Thakur(Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni-Solan, Himachal Pradesh, 173 230, India)、Yash Punia(Punjab Agricultural University, Ludhiana, Punjab, 141 004, India)、Abhishek Sharma(Horticultural Research &Training Station and Krishi Vigyan Kendra, Solan at Kandaghat, Solan, Himachal Pradesh, 173 215, India; Punjab Agricultural University, Ludhiana, Punjab, 141 004, India)、Inder Dev(Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni-Solan, Himachal Pradesh, 173 230, India)、Rajeshwar Singh Chandel(Dr. Yashwant Singh Parmar University of Horticulture and Forestry, Nauni-Solan, Himachal Pradesh, 173 230, India)、Bharti(ICAR-Indian Agricultural Statistics Research Institute, New Delhi, 110 012, India)、Rajesh Kumar Rana(ICAR-Agricultural Technology Application Research Institute, Zone-1, Ludhiana, Punjab, 141 004, India)、Parvender Sheoran(ICAR-Agricultural Technology Application Research Institute, Zone-1, Ludhiana, Punjab, 141 004, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arti Shukla, Meera Devi, Anurag Sharma, et al. Evaluation of natural farming system in capsicum for sustainable plant health management. Scientific Reports 2026-10-05. DOI: 10.1038/s41598-026-52404-y. 原著ライセンス:CC BY.