著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Buletin Penelitian Kesehatan

ライセンス: CC BY-SA 4.0 確認元: 雑誌の掲載方針

研究の目的:地域の海の幸を子どもの栄養改善に

5歳未満の子どもの低栄養は、今も大きな公衆衛生上の課題です。インドネシア東部マルク州のアンボン市を含む地域では、低体重や発育不良の子どもの割合が高い状態が続いていると、研究チームは論文で述べています。成長期の子どもには、骨や歯の形成などに欠かせないカルシウムをはじめ、十分なたんぱく質や微量栄養素が必要です。

研究チームが注目したのは、マルク州の沿岸に生息する「ラオール(学名 Eunice viridis)」です。ゴカイの仲間(多毛類)の海の生き物で、3月か4月の満月の後の夜に、サンゴ礁の浅瀬へ大量に現れます。先行研究によると、ラオールを加工した粉はたんぱく質を多く含み、カルシウムや亜鉛、鉄、脂肪酸も含んでいます。ただ、これまで主に家庭で伝統的に食べられてきた食材で、栄養補助食品として低栄養の子どもに与えたときの効果は、対照群を置いた試験では確かめられていませんでした。

そこで研究チームは、ラオールの粉に地元のでんぷん「エンバル」とモリンガの葉の粉末を加えたスティック状の食品を作り、低栄養の幼児の血清カルシウム(血液中のカルシウム濃度)と体重・身長の短期的な増え方に影響するかを調べました。

どのように調べたか

試験は2021年8月から11月にかけて、アンボン市の保健所の管轄地域で行われました。対象は生後12〜59か月の子どもです。年齢に対して体重が少ない、身長に対して体重が少ない、または直近2か月体重が増えていない子どもを、低栄養として参加の対象にしました。

参加した60人は、くじに相当するコンピューターの乱数で2つのグループに分けられました。一方のグループは1日40グラムのラオールスティックを、もう一方は1日40グラムのマグロのスティックを60日間食べました。マグロのスティックは何も含まない偽の食品ではありません。ラオールスティックとエネルギーやたんぱく質、カルシウムの量がほぼ同じになるよう用意された、栄養のある比較用の食品です。40グラムあたりの量は、ラオールスティックが約196キロカロリー、たんぱく質6.2グラム、カルシウム364.9ミリグラムでした。マグロのスティックは約198キロカロリー、たんぱく質5.7グラム、カルシウム360.6ミリグラムです。

味や色が違うため、子どもや保護者にはどちらを食べているか分かりました。一方で、身体計測や食事調査を担当する調査員と、血液を分析する検査担当者には、子どもがどちらのグループか知らされていませんでした。試験の開始前と終了後に、体重と身長の計測、3日分の食事の聞き取り、血液検査を行いました。食事の摂取量は、ふだんの食事にスティックの分を加えた合計として計算されています。マグロのグループでは転居などで4人が途中で抜け、最終的に56人(ラオール群30人、マグロ群26人)が分析の対象になりました。

主な結果

開始時点では、2つのグループの間で年齢、性別、家庭の収入、食事内容、体格、血清カルシウムに目立った差はありませんでした。60日後には、スティックを含めた1日の合計の栄養摂取量が、両グループとも開始時より増えていました。この合計摂取量の増え方は、エネルギー、たんぱく質、カルシウムのいずれもラオール群の方が大きかったと報告されています。

血清カルシウムは両グループとも上がりました。上がり幅はラオール群の方が大きく、グループ間の差は平均0.24 mg/dLでした。研究チームによると、終了後の値はすべての子どもで幼児の正常範囲内に収まっており、高カルシウム血症は起きていません。試験期間中、重い有害事象も報告されませんでした。

成長の面では、60日間の体重増加の平均がラオール群1.21キログラム、マグロ群0.90キログラムで、差は0.31キログラムでした。身長の伸びはラオール群0.88センチメートル、マグロ群0.46センチメートルで、差は0.42センチメートルでした。年齢や開始時のたんぱく質摂取量などを考慮した分析でも、ラオール群に割り当てられたことは、血清カルシウム、体重、身長の増加の大きさと関係していたと報告されています。

この研究が示すこと

この試験では、栄養量をそろえたマグロのスティックと比べても、ラオールスティックを食べた低栄養の幼児の方が、60日間で血清カルシウム、体重、身長の増え方が大きいという結果になりました。研究チームは、ラオールに含まれるアミノ酸や脂肪酸などの組み合わせが関わっている可能性を考えています。ただし、成長に関わるホルモンなどは測っておらず、仕組みはあくまで考えられる説明にとどまると述べています。

著者らは、60日という短い期間で見られたのは成長の一時的な加速であり、発育不良が根本的に解消したことを示すものではないとしています。また、試験が公的な臨床試験登録に登録されていなかったことを限界として挙げ、より長期で規模の大きい試験が必要だと結論づけています。地域で手に入る海の資源を子どもの栄養補助に活用する試みについて、比較試験で得られた初期のデータといえます。

原著論文の著者・所属:Muhamad Asrar(Department of Nutrition, Poltekkes Kemenkes Maluku, Maluku, Indonesia)、Ety Yuni Ristanti(Department of Nutrition, Poltekkes Kemenkes Maluku, Maluku, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhamad Asrar, Ety Yuni Ristanti Effect of Laor (Eunice viridis) Stick Supplementation on Serum Calcium and Short-Term Growth Outcomes among Undernourished Children: A Randomized Controlled Trial in Ambon City. Buletin Penelitian Kesehatan 2026-09-14. DOI: 10.33860/bpk.v54i2.4431. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。