著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Journal of Tropical Crop Science
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
サゴヤシは幹に大量のでんぷんを蓄える熱帯の作物で、湿地や条件の厳しい土地でも育ちます。サゴでんぷんは食品のほか、燃料、液糖、生分解性包装材、医薬品の添加剤など、さまざまな用途に使われてきました。インドネシアは世界有数のサゴ生産国です。
でんぷんの性質は、植物の遺伝的な背景、生育環境、収穫時の成熟度、抽出や乾燥の方法などによって変わり得ます。ところが、これまでの研究は特定の産地だけを扱ったり、性質を一つずつ別々に調べたりしたものが多く、各地のサゴでんぷんを複数の手法でまとめて比べたデータは限られていました。
そこで研究チームは、インドネシア各地で採取した、化学的な加工をしていない天然のサゴでんぷんを対象に、色、粒の形と大きさ、分子の構造、加熱と冷却に伴う粘りの変化を総合的に調べ、産地による違いを明らかにすることを目指しました。
何をどう調べたか
試料は、12州にまたがる主要なサゴ産地17地域で、2024年に地元の加工業者から集められました。原料は樹齢9〜12年のサゴヤシで、水を使ってでんぷんを取り出し、乾燥させたものです。ただし、それぞれのサゴヤシの品種や系統までは特定されていません。
色は専用の測色計で測りました。明るさを示すL*、赤みを示すa*、黄みを示すb*という指標で表しています。でんぷん粒の形と大きさは、表面を細かく観察できる走査型電子顕微鏡で調べました。分子の構造は、赤外線の吸収の仕方から化学結合の状態を読み取るFTIRという方法で確かめました。
加熱時の性質は、ラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)という装置で測定しました。でんぷんを水に分散させてかき混ぜながら加熱・保温・冷却し、その間の粘りの変化を記録する装置です。でんぷんは加熱すると水を吸って膨らみ、粘りが出ます。高温が続くと粒が崩れて粘りが下がり、冷えると分子どうしが再び寄り集まって粘りが戻ります。この冷却時に分子が再結合して固まっていく現象を「老化」と呼びます。
主な結果
色では、明るさL*が75.54から91.95まで幅がありました。リンガ、インドラギリ・ヒリル、ポンティアナック、ムランティの試料はL*が90を超え、白く明るい色でした。一方、ティミカの試料は最も暗い色でした。どの試料も赤みと黄みを示す値がプラスで、赤みは0.60〜6.03、黄みは2.57〜18.57の範囲でした。著者らは、色の違いには、でんぷん以外の成分の残り具合などが反映されている可能性があるとしています。
電子顕微鏡による観察では、でんぷん粒は卵形から楕円形が中心で、表面はなめらかで割れなどは見られませんでした。平均直径は試料によって22.23〜35.30マイクロメートルでした。論文の要旨では、大きい粒ほど膨らみやすく、粘りも高い傾向と関連していたと述べられています。
加熱時の粘りの最大値(ピーク粘度)は、ポンティアナックの1028センチポアズからティミカの5057センチポアズまで大きく異なりました。センチポアズは粘りの強さを表す単位です。研究チームは、こうした粘りの変化の仕方をもとに、17試料を五つのグループに分けました。
第1グループのリンガ、ルウ、センタニは、よく膨らむ一方で熱に対する安定性が低く、冷えると固まりやすい性質でした。第2グループのトゥンビラハンとポンティアナックは、膨らみが小さく、粒が崩れにくい性質でした。第3グループのティミカは、加熱で粒が崩れやすいものの、冷えるとしっかりしたゲルを作りました。第4グループはインドラギリ・ヒリル、バンジャルマシン、バンダ・アチェ、ハルマヘラ、マムジュ、クンダリ、中部マルク、東ルウ、ムランティの9地域で、全体として中間的な性質を示す一方、加熱中の粒の崩れ(それに伴う粘りの低下)がはっきり見られました。第5グループの北ルウとビアクは、粘りも冷却時の固まりやすさも低めから中程度でした。
FTIRによる分析からは、どの試料も天然のでんぷん本来の構造を保っていることが示されました。
この研究が示すこと
著者らは、同じインドネシアのサゴでんぷんでも、産地によって色、粒の形や大きさ、加熱時の粘りといった性質に大きな違いがあると結論づけています。研究チームはこれらの違いについて、遺伝的な要因、土壌や降雨などの環境、加工条件が関わっている可能性を挙げています。
論文は、今回得られた性質のデータを、地域ごとの原料を食品や工業用途に合わせて選ぶ際の可能性を評価するための、予備的な手がかりと位置づけています。各地のサゴでんぷんの性質を一つの枠組みで比べた基礎資料として、原料の特徴を知る土台を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Agus Budiyanto(Agroindustrial Engineering Doctoral Study Program, Graduate School, IPB University, Indonesia)、Muhammad Romli(Division of Agroindustrial Engineering and Technology, Faculty of Engineering and Technology, IPB University, Indonesia)、Elisa Anggraeni(Division of Agroindustrial Engineering and Technology, Faculty of Engineering and Technology, IPB University, Indonesia)、Edi Iswanto Wiloso(Research Center for Sustainable Industrial and Manufacturing Systems, National Research and Innovation Agency, Indonesia)、Mulyana Hadipernata(Research Center for Process Technology, National Research and Innovation Agency, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Agus Budiyanto, Muhammad Romli, Elisa Anggraeni, Edi Iswanto Wiloso, Mulyana Hadipernata Physicochemical, Morphological, and Pasting Diversity of Native Sago Starch Samples from Seventeen Indonesian Regions. Journal of Tropical Crop Science 2026-10-26. DOI: 10.29244/jtcs.13.03.617-635. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。