著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Jurnal Pengabdian Masyarakat Sabangka.

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

取り残されがちな小規模漁家の課題

インドネシアは世界最大の島国で、魚は国民が摂る動物性たんぱく質のおよそ半分を担っています。一方で、沿岸の小規模な漁業世帯の多くは、収入が不安定で食料が十分に確保できないという問題を抱えています。

著者らが活動したのは、東南スラウェシ州中部ブトン県マワサンカ郡にある、論文で「Floating Village」と表記される漁村です。住民の多くは漁業で生計を立てています。周辺の海ではアンチョビーの仲間の小魚(現地名テリ)がよく獲れますが、住民は生のまま、または干しただけで売るのが一般的でした。この方法では得られる収入が少なく、価格の変動や漁の季節による差、水揚げ後に傷んで売れなくなる損失の影響を受けやすい状態でした。

そこで研究チームは、この小魚を付加価値のある加工食品に変えることで、地域の食料の確保と漁家の家計の改善を目指す地域支援活動を行いました。目的は三つあります。漁家、とくに女性が衛生的で売れる加工品を作れるようにすること。インドネシアの家庭内食品製造業向けの届出・認証制度であるSPP-IRTの取得を支援し、食品の安全性と消費者の信頼を確保すること。そして、付加価値商品と販路づくりを通じて食料の確保と家計の改善につなげることです。

25人の女性加工者と進めた6か月の取り組み

活動には、住民自身が課題の発見から計画、実行、評価までに加わる「参加型アクションリサーチ」という手法が使われました。外部の支援者に頼り続けるのではなく、地域に力が根づくことを重視した進め方です。参加したのは、女性が中心となる魚加工グループのメンバー25人で、全員が漁師の妻でした。魚を扱う基本的な経験はありましたが、加工品の開発や食品安全について正式な訓練を受けたことはありませんでした。

活動は2026年1月から6月までの6か月間、四つの段階で進められました。最初の月は、世帯の暮らしぶりや加工の実情を調べ、地域のリーダーや女性グループと話し合いました。その結果、小魚・テンペ(大豆発酵食品)・ピーナッツを甘辛く炒めたサンバル・ゴレン・テリ、唐辛子だれで仕上げるバラド・テリ、衣をつけて揚げるクリスピー・アンチョビー、小魚入りの伝統的な揚げせんべいであるプエック・テリの4品を開発することが決まりました。

2〜3か月目には、原料の選び方、各商品のレシピと作り方、家庭内食品製造の衛生基準に沿った作業、食品用アルミ包材を使った包装、原価計算や価格設定、簡単な帳簿付けなどの実地訓練が行われました。4〜5か月目にはSPP-IRTの申請準備と試作を行い、試作品は訓練を受けた評価者が見た目・香り・味・食感を確かめました。最後の月は、生産が続いているかを確認し、収入の変化を評価したうえで、SNSを使った販売や地元の小売店・協同組合とのつながりづくりを支援しました。効果は、質問票、聞き取り、観察、生産記録をもとに、活動の前後で比べています。

報告された主な成果

著者らによると、活動前は参加者の誰も、天日干し以外の加工品を作った経験がありませんでした。訓練後の評価では、参加者全員が4品の製造技術を身につけたと報告されています。最も難しかったのは生地の準備と揚げ方に技術がいるクリスピー・アンチョビーでしたが、それでも訓練期間の終わりには92%の参加者が満足できる品質に達しました。

4品はいずれも「SURIANI」という事業名でSPP-IRTの取得に至りました。著者らは、この認証によって近所での非公式な販売にとどまらず正規の小売ルートで扱えるようになり、消費者の安心にもつながると述べています。

保存性についても変化が報告されています。生の小魚は1〜2日で傷み、干したものでも条件がよくて2〜3週間ほどしかもちません。これに対し、加工品は食品用アルミ包材でしっかり密封すれば3〜6か月保存できました。著者らは、これにより水揚げ後の損失が減り、漁の季節に左右されずに食料を確保しやすくなると位置づけています。

家計への効果も示されています。活動前、女性グループは干した小魚を地元の買い手に売り、月平均50万〜70万ルピアほどの収入を得ていました。加工品の生産を始めてから3か月以内に、活動を続けるメンバー1人あたりの月平均売上は250万〜300万ルピアに達し、著者らはこれを4〜5倍の増加と報告しています。さらに参加者からは、自分の仕事への自信が高まった、家計の決定に関わる機会が増えたといった声が寄せられました。

身近な資源を地域の力に変える

著者らは、地域ぐるみで魚の加工品を多様化することが、食料の確保と小規模漁家の暮らしの向上に有効な方法だと結論づけています。同時に課題も挙げています。運転資金が乏しく原料をまとめて仕入れられないこと、販売がまだ主に地元に限られていること、小魚の獲れる量が季節で変わり生産が安定しないことです。活動を続けるには、継続的な指導や小口融資、販路の拡大が欠かせないとしています。

この報告は、もともと地域に豊富にある小魚が、加工の技術、衛生管理、認証、販売の工夫によって、保存のきく食料と家計を支える商品に変わりうることを、住民と共に進めた実践の記録として示しています。

原著論文の著者・所属:Suriadi, Suriadi(Universitas Muhammadiyah Buton)、Jasiyah, Rabiyatul(Universitas Muhammadiyah Buton)、Failu, Ismail(Universitas Muhammadiyah Buton)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Suriadi, Suriadi, Jasiyah, Rabiyatul, Failu, Ismail. Community Empowerment in Floating Villages Based On Anchovy Potential for Local Food Security and Economic Improvement of Fishermen's Households. Jurnal Pengabdian Masyarakat Sabangka. 2026-09-18. DOI: . 原著ライセンス:CC BY.