著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
動脈硬化は、血管の壁にコレステロールなどの脂質がたまり、炎症が加わって進む病気で、脳梗塞などの心血管・脳血管疾患の主要な原因とされています。高コレステロール状態と慢性的な炎症が大きな要因と考えられており、治療ではスタチンなどの脂質低下薬が中心ですが、論文はこれらの薬に副作用や限界もあると述べ、予防のための新たな手段を探る意義を挙げています。
研究チームが注目したのは、フコイダンと呼ばれる成分です。フコイダンは、フコースという糖が硫酸基を伴ってつながった多糖類で、海藻や一部の海洋無脊椎動物から得られます。著者らはこれまでに、ナマコの一種Pearsonothuria graeffeiから得たフコイダン(論文ではFuc-Pgと表記)が、主に腸で脂質の代謝に働きかける可能性を報告してきました。一方、動脈硬化を防ぐ働きについては十分に明らかになっていませんでした。そこで本研究では、Fuc-Pgが腸と肝臓の両方で脂質代謝に影響し、動脈硬化の進行を抑えるのではないかという仮説を、マウスを使って検証しました。
どのように調べたか
実験には、ApoE欠損マウスを用いました。これは、血液中の脂質の処理に関わるアポリポタンパク質Eの遺伝子を持たないマウスで、血中コレステロールが高くなりやすく、動脈硬化の研究で広く使われるモデルです。このマウスに脂肪分とコレステロールの多い高脂肪食を12週間与え、何も加えない群、Fuc-Pgを体重1kgあたり20mg与える低用量群、80mg与える高用量群、比較用に脂質低下薬シンバスタチンを与える群に分けました。投与は毎日1回、口から胃へ直接入れる方法で行いました。さらに、通常の食事を与えた一般的なマウスを対照群として置きました。
実験の終わりには、血液中のコレステロールや中性脂肪、炎症に関わる物質を測定し、大動脈を染色して脂質が沈着した部分(プラーク)の面積を調べました。あわせて、小腸と肝臓で脂質の吸収・輸送・分解に関わる遺伝子の働きやタンパク質の量、ふんに出た脂質の量、肝臓と血液中の胆汁酸の量や種類も分析しました。
主な結果
高脂肪食を与えたApoE欠損マウスでは、通常食の対照群に比べて血中の総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が大きく上昇し、HDLコレステロールは低下しました。Fuc-Pgの高用量群では、総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールが明らかに低下し、その効果は低用量群より大きかったと報告されています。大動脈のプラーク面積は、Fuc-Pgの2群とシンバスタチン群のいずれでも減る傾向でしたが、統計的にはっきりした差が認められたのは高用量群で、特に大動脈弓と呼ばれる部分で減少が目立ちました。なお、今回の実験条件では、シンバスタチンは血中脂質の異常をほとんど改善せず、HDLコレステロールの上昇がみられたのみでした。
炎症についても、Fuc-Pgを与えた群では血液中の炎症性物質(TNF-α、IL-1β、MCP-1)が高脂肪食だけの群より大きく減りました。ただし、通常食の対照群の水準までは下がりませんでした。肝臓でも、高用量群で炎症に関わる遺伝子の働きが低下しました。
研究チームは、こうした変化の仕組みとして、腸と肝臓での脂質の扱われ方に着目しました。小腸では、食事の脂質を取り込んで、血液やリンパへ送り出す粒子(カイロミクロン)にまとめる働きを担うCD36とMTPというタンパク質が、高用量群で減っていました。また、ふんに排出されたコレステロールや中性脂肪は、Fuc-Pgを与えた群で通常食の対照群より多くなっていました。著者らはこれらから、Fuc-Pgが腸での脂質の吸収を抑えている可能性を示しています。
肝臓では、「コレステロール逆輸送」と呼ばれる経路に関わる変化がみられました。これは、体の各部にある余分なコレステロールを肝臓へ運び、胆汁に排出したり胆汁酸に変えたりして体外へ出す仕組みです。高用量群では、血中のLDLを肝臓に取り込む受容体(LDLR)と、コレステロールを胆汁へ送り出す輸送体(ABCG5)のタンパク質が増えていました。さらに、コレステロールを胆汁酸に変える酵素であるCYP7A1とCYP27A1の働きが高まり、高用量群では肝臓の胆汁酸の総量も増えていました。血液中の胆汁酸の量には、群の間ではっきりした差はみられませんでした。
研究が示すこと
著者らは、Fuc-Pgが腸での脂質の吸収を抑え、肝臓ではコレステロールの取り込みと排出、胆汁酸への変換を後押しすることで、高脂肪食を与えたマウスの脂質異常と動脈への脂質の沈着を和らげたと結論づけています。腸と肝臓という複数の臓器にわたる働きを示した点が、この研究の特徴です。
一方で論文は、使用した動物モデルと人の病気には病態の違いがあり、結果をそのまま人に当てはめられない可能性があることを限界として挙げています。また、比較に用いたシンバスタチンがこのマウスでは十分な効果を示さなかったことから、別の薬を比較対象に選ぶべきだったとも述べています。今回の成果は、動脈硬化の予防を目指す食品成分を探るうえでの、マウスでの基礎的な手がかりとして位置づけられます。
原著論文の著者・所属:Ting Zhao(Department of Clinical Nutrition, Affiliated Hospital of Qingdao University, Qingdao University)、Yang Yu(Department of Cardiology, The Central Hospital of Wuhan, Tongji Medical College, Huazhong University of Science and Technology)、Yin Wang(Institute of Nutrition & Health, School of Public Health, Qingdao University, Qingdao, China)、Liyang Zhang(Institute of Nutrition & Health, School of Public Health, Qingdao University, Qingdao, China)、Junqi Xiao(Institute of Nutrition & Health, School of Public Health, Qingdao University, Qingdao, China)、Shiguo Chen(College of Biosystem Engineering and Food Science, Zhejiang University)、Shan Li(Institute of Nutrition & Health, School of Public Health, Qingdao University, Qingdao, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ting Zhao, Yang Yu, Yin Wang, et al. Fucoidan from Pearsonothuria graeffei alleviates dyslipidemia in ApoE−/− mice by regulating reverse cholesterol transport and promoting bile acid synthesis. Frontiers in Nutrition 2026-10-19. DOI: 10.3389/fnut.2026.1974149. 原著ライセンス:CC BY.