日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Indonesian Food Science and Technology Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
高血圧と糖尿病はしばしば同時に起こり、どちらも心臓病などのリスクに関わります。治療の中心は医薬品ですが、副作用や薬どうしの相互作用が起こることもあります。そのため、通常の治療を補う機能性食品に含まれる成分への関心が高まっています。
研究チームが注目したのは、食品のたんぱく質を分解して得られる「生理活性ペプチド」です。ペプチドはアミノ酸が数個から数十個つながった小さな分子です。論文では、二つの酵素の働きを抑える作用が紹介されています。一つは、血圧を上げる物質アンジオテンシンIIの生成に関わるアンジオテンシン変換酵素(ACE)です。もう一つは、血糖の調節を助けるホルモン(インクレチン)を分解するジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)です。体内で物質が酸化される「酸化ストレス」を抑える抗酸化作用をもつペプチドもあります。
ナマコはたんぱく質を多く含み、コラーゲンに似た構造に富むことが知られています。一方で、酵素の種類やナマコの種類の違いが、複数の働きをもつペプチドの生成にどう影響するかは、十分に分かっていませんでした。そこで著者らは、ACE阻害、DPP-IV阻害、抗酸化の三つの活性を併せもつナマコ体壁の分解物をつくることを目指しました。
何をどのように調べたか
研究チームは、日本の市場で購入した4種のナマコを用いました。青ナマコ(Apostichopus armata)、赤ナマコ(Apostichopus japonicus)、レッドジャイアントと呼ばれるStichopus naso、キンコ(Cucumaria frondosa)です。内臓を除いた体壁を凍結乾燥して粉末にし、加熱処理をしたうえで、たんぱく質分解酵素で処理しました。酵素はアルカラーゼ、ブロメライン、トリプシン、パパイン、ペプシンの5種類で、それぞれに適した温度とpHで最長24時間反応させました。
得られた分解物には70%濃度のエタノールを加え、大きなペプチドを沈殿させて除きました。こうして小さなペプチドを集めたうえで、ACE阻害活性とDPP-IV阻害活性を測りました。抗酸化性は、反応の仕組みが異なる二つの試験で評価しました。DPPHラジカルを消去する力をみる試験と、ORACと呼ばれる試験です。さらに、ペプチドの大きさ(分子量)、アミノ酸の組成、阻害の仕方を調べました。胃と腸の消化を試験管内で再現した条件で処理したあとに、活性がどの程度残るかも確かめています。いずれも試験管内での測定です。
主な結果
5種類の酵素はいずれもナマコのたんぱく質を分解しました。なかでもブロメライン、アルカラーゼ、トリプシンは分解がよく進み、ペプシンでは大きなたんぱく質がより多く残りました。幅広い部位を切断できるアルカラーゼでは最も小さなペプチドができ、24時間処理後の重量平均分子量は4種とも320〜400程度でした。
活性は、酵素、処理時間、ナマコの種類によって異なりました。ACE阻害活性は、青ナマコではブロメライン処理で、赤ナマコとレッドジャイアントではアルカラーゼ処理で高くなりました。DPP-IV阻害活性は、キンコ以外の3種でアルカラーゼ処理とトリプシン処理の分解物が高い値を示しました。キンコでは、ペプシン処理の分解物が際立って高いDPP-IV阻害活性を示しました。論文の要旨では、総合的にACEとDPP-IVの阻害活性が最も高かったのは、レッドジャイアントとキンコを24時間アルカラーゼ処理した分解物だとまとめられています。
抗酸化性については、二つの試験の結果が必ずしも一致しませんでした。アルカラーゼで処理した赤ナマコは、DPPH試験で最も高い値を示し、ORAC試験でも比較的高い値でした。これに対し、ペプシンで処理したキンコは、DPPH試験では低い値でしたが、ORAC試験では高い値を示しました。著者らは、ペプチドの種類によって抗酸化の仕組みが異なることを示すものだと考察しています。
アミノ酸組成では、どの種でもグリシン、グルタミン酸、プロリン、アラニンが多く、ナマコ体壁の主要な構造たんぱく質であるI型コラーゲンに由来すると考えられました。キンコは、乾燥重量あたりのたんぱく質量が4種で最も多い種でした。エタノール処理後の分画ではアルギニンの割合が他の種より高く、著者らはこれが特徴的な活性に関わった可能性を指摘しています。
阻害の仕方を調べた結果、ACEに対しては酵素の作用部位を基質と奪い合う「競合阻害」でした。DPP-IVに対しては複数の様式が混ざった「混合型阻害」でした。また、消化を再現した条件で処理しても、活性の低下はわずかでした。
この研究が示すこと
この研究は、食用ナマコの体壁を酵素で分解すると、血圧と血糖に関わる二つの酵素の働きを抑え、抗酸化性も示す成分が得られることを試験管内で示しました。同時に、どの酵素を選ぶか、どのナマコを使うかによって、得られる活性が大きく変わることも明らかにしました。著者らは、消化を模した条件でも活性がおおむね保たれたことを踏まえ、ナマコ由来の分解物が機能性食品素材の候補になりうると述べています。
原著論文の著者・所属:Erwina Safitri(Department of Nutrition, Faculty of Public Health, University of Jember, Jember, East Java, 68121, Indonesia and Graduate School of Kagawa Nutrition University, Saitama 350-0214 Japan)、Mayu Owada(Graduate School of Kagawa Nutrition University, Saitama 350-0214 Japan)、Olivia H. Kuziel(Graduate School of Kagawa Nutrition University, Saitama 350-0214 Japan)、Shoshi Mizuta(Department of Marine Science and Technology, Faculty of Marine Science and Technology, Fukui Prefectural University, Obama, Fukui, 917-0003, Japan)、Takeshi Nagai(Graduate School of Agricultural Sciences, Yamagata University, Yamagata, 997-0024, Japan)、Masataka Saito(Graduate School of Kagawa Nutrition University, Saitama 350-0214 Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Erwina Safitri, Mayu Owada, Olivia H. Kuziel, et al. Food Functionality Evaluation of Enzymatic Hydrolysates Prepared from Edible Sea Cucumber Body Walls. Indonesian Food Science and Technology Journal 2026-07-31. DOI: 10.22437/ifstj.v9i2.52617. 原著ライセンス:CC BY.