著者の所属・活動拠点の国は、中国、フィンランドです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

乾燥熟成させる発酵ソーセージは、製造や保存の間に脂質やたんぱく質が複雑に変化し、その変化が最終製品の品質を左右します。中でも脂質の酸化は、風味や品質、日持ちに大きく関わります。脂質が酸化しすぎると、アルデヒドやケトンなどの分解物が生じて異臭の原因になり、劣化も進みます。たんぱく質が酸化しすぎると、構造が変わって保水性などが落ち、食感や風味の出方にも悪影響が出ます。

合成の酸化防止剤を好まない消費者が増えていることもあり、天然で安全な代替手段が求められています。その候補の一つが、抗酸化力をもつ乳酸菌を「スターター」として使う方法です。スターターとは、発酵を安定させるために原料へ意図的に加える微生物のことです。研究チームは、抗酸化力の高い乳酸菌を選び出し、乾燥発酵ソーセージのスターターとして使えるかを、酸化のしにくさと品質の面から調べました。

論文によると、乳酸菌の中ではラクチプランチバチルス・プランタルムが肉製品でよく研究されてきました。一方で、ロイコノストック属の菌は食品の中で強い抗酸化力を示すことが知られているものの、肉製品の中での働きはあまり調べられていませんでした。

菌の選び方とソーセージづくり

研究チームはまず、漬物や発酵米、発酵ソーセージなど伝統的な発酵食品から分離された5種の乳酸菌(うち3種はロイコノストック属)を比べました。酸化ストレスの強さを見るため、過酸化水素を加えた培地で菌がどれだけ増えるかを調べました。さらに、菌を培養した液から菌体を除いた上澄み、洗った菌体そのもの、菌体を壊して取り出した中身の3つに分け、それぞれが「フリーラジカル」と呼ばれる反応性の高い分子をどれだけ消すかや、物質を還元する力を測りました。

その結果、過酸化水素の濃度が上がるほど、どの菌も増え方が抑えられました。ただし、ロイコノストック・カルノサムAMS1、ロイコノストック・シトレウムL12、プランタルムP4の3株は、最も高い濃度でも比較的よく増えました。抗酸化力はどの菌でも、上澄みが最も高く、菌体そのもの、菌体の中身の順でした。AMS1の上澄みは2種類の試験でフリーラジカルをそれぞれ約90%と約95%消去し、5株の中で最も高い性能を示しました。P4の上澄みがこれに続きました。著者らはこの結果から、抗酸化力は主に菌が増える過程で外に出す代謝物に由来すると考えています。

これらの結果に加え、カルノサムには肉製品の腐敗菌などを抑える働きが報告されていることから、研究チームはAMS1とP4を選びました。豚肉にこのどちらか1種を加えたソーセージと、菌の代わりに滅菌した食塩水を加えた対照のソーセージをつくりました。最初の1日は30℃で発酵させ、続く6日間は15℃で乾燥させました。その後さらに常温で熟成させ、0日目から27日目まで経過を追いました。

主な結果

発酵中の最初の7日間に、ソーセージの細菌の顔ぶれを遺伝子解析で調べました。対照では、0日目にマクロコッカス・カセオリティカスが約6割を占めていましたが、7日目にはラクトコッカス・ガルビエが約65%まで増えて優勢になりました。P4を加えたソーセージでは、P4の割合が発酵の間に少しずつ増えました。AMS1を加えたソーセージでは、AMS1の割合が0日目の約57%から7日目には約11%まで下がりましたが、発酵の間ずっと検出されました。このソーセージでは、腐敗に関わりうる細菌の割合が対照より低くなりました。一方で、どのソーセージでも発酵の後半にはスタフィロコッカス・サプロフィティカスが大きな割合を占めました。

品質面では、菌を加えた2つのソーセージで酸性化が速く進みました。pHは3日目に4.72まで下がり、その後も対照より低く保たれました。水分活性は、微生物が利用できる水の量を示す指標です。最初の17日間は、菌を加えたソーセージのほうが水分活性が大きく下がりました。ただし27日目には、3つのソーセージの間に差はありませんでした。色では、菌を加えたソーセージで黄色みが対照より低く抑えられました。AMS1のソーセージは、熟成後半に赤みが最も強くなりました。著者らは、こうした色の変化が好ましい方向だとしつつ、人が食べたときの感じ方との関係は今後確かめる必要があるとしています。硬さはAMS1のソーセージで最も高くなりました。

酸化の指標では、脂質の酸化で生じる物質の量(TBARS値)が、菌を加えたソーセージで期間を通じて対照より低くなりました。脂質の酸化を促す酵素であるリポキシゲナーゼの活性も、菌を加えたソーセージで低く、特にAMS1で最も低い値でした。たんぱく質についても、酸化で増える成分(カルボニル)の蓄積や、酸化で失われる成分(スルフヒドリル基)の減少が小さくなりました。たんぱく質の表面が水をはじく性質を帯びる変化も抑えられており、たんぱく質の酸化による変化が和らいでいたと報告されています。

研究が示すこと

著者らは、AMS1とP4、とりわけ肉製品での働きがあまり調べられてこなかったロイコノストック・カルノサムAMS1が、発酵と熟成の間にソーセージの品質と酸化のしにくさを高める抗酸化スターターとして使える可能性を示したと結論づけています。合成の酸化防止剤に頼らずに、微生物の働きで肉製品の脂質やたんぱく質の酸化を抑える手段として、乳酸菌の選択肢を広げる結果といえます。

原著論文の著者・所属:Rong Tang(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)、Hui Wang(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)、Xingying Dai(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)、Biqin Liu(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)、Huihua Tang(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)、Xing Wan(Department of Microbiology, Faculty of Agriculture and Forestry, University of Helsinki, 00790 Helsinki, Finland)、Zheng Zhou(State Key Laboratory of Meat Quality Control and Cultured Meat Development, MOST, Key Laboratory of Meat Processing, MARA, Jiangsu Collaborative Innovation Center of Meat Production, Processing and Quality Control, College of Food Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Junfei Chen(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)、Qiao Shi(Agro-Product Processing Research Institute, Yunnan Academy of Agricultural Sciences, Kunming 650221, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rong Tang, Hui Wang, Xingying Dai, et al. Effects of Antioxidative Lactic Acid Bacteria on Bacterial Community Dynamics, Physicochemical Properties, and Oxidative Stability During Dry-Cured Fermented Sausage Processing. Foods 2026-09-24. DOI: 10.3390/foods15193419. 原著ライセンス:CC BY.