著者の所属・活動拠点の国は、ポルトガルです。

掲載誌:Food technology and biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

ビールの主な原料は水、麦芽、ホップ、酵母です。このうち麦芽は、ビールの色や香り、味わいを左右するだけでなく、抗酸化作用をもつとされるポリフェノール類(フェノール化合物)の主な供給源でもあります。麦芽の種類や焙煎の程度によって含まれる成分は変わるため、体への作用にも違いが出る可能性があります。

肝臓はアルコールなど体外から入る物質を処理する中心的な臓器です。研究チームは、ポルトガルのクラフトビール(インペリアルスタウト)と、その醸造に使われる4種類の麦芽を対象に、抗酸化性と肝臓の細胞への影響を実験室で調べました。

何をどう調べたか

対象の麦芽は、色の淡いピルスナー麦芽とカラピルス、色の濃いカラミュンヒIIIとカラファIIIの4種類です。研究チームはそれぞれを粉砕し、水で成分を取り出した「水抽出物」と、95%エタノールで取り出した「エタノール抽出物」を作りました。ビール自体も、アルコールを除いた試料と、元のアルコール度数8.5%に相当する溶媒に溶かした試料を用意しました。

抗酸化性は、総ポリフェノール量の測定に加え、性質の異なる複数の化学的な試験で評価しました。結果の指標にはIC50を用いました。IC50は、標的の反応を半分に抑えるのに必要な濃度を表し、値が小さいほど作用が強いことを示します。

肝臓への影響については、ヒトの肝がん由来の培養細胞「HepG2」を用いました。この細胞は正常な肝細胞の機能を一部保っており、物質の代謝や肝毒性を調べる実験に広く使われています。細胞を各試料に24時間と48時間さらし、生存している細胞の割合(細胞生存率)を測りました。あわせて、肝細胞が傷つくと細胞外に漏れ出す酵素ALTの量も調べました。

主な結果

麦芽抽出物の総ポリフェノール量は、1グラムあたり没食子酸換算で約7.1〜28.2ミリグラムと大きくばらつきました。最も多かったのはカラミュンヒIIIのエタノール抽出物で、最も少なかったのはカラピルスのエタノール抽出物でした。全体として、色の濃い麦芽ほどポリフェノールが多い傾向がみられました。研究チームの以前の研究で得られたビール抽出物の値(1グラムあたり8.3ミリグラム)は、カラピルスのエタノール抽出物を除くすべての麦芽抽出物より低くなりました。

抗酸化性は、試験の種類によって結果が分かれました。ABTSと呼ばれる試験では、水抽出物がおおむねエタノール抽出物より強い作用を示し、カラミュンヒIIIの水抽出物が最も強い結果でした(IC50は1ミリリットルあたり約17.3マイクログラム)。一方、DPPH試験では、試した濃度の範囲でIC50を求められない試料が多くありました。鉄を捕まえる力をみる試験では、ビールも麦芽抽出物もIC50を求められず、この性質は弱いと判断されました。

細胞実験では、カラミュンヒIII、カラファIII、カラピルスの抽出物が細胞への毒性を示したのは、主に最も高い濃度(1ミリリットルあたり500マイクログラム)のときだけでした。ピルスナー麦芽の抽出物は、どの濃度でもはっきりした毒性を示しませんでした。ビールでは、アルコールを含む試料が24時間後の高い濃度で細胞生存率を大きく下げました。

ALTの量は濃度に応じて増え、どの試料でも500マイクログラムのときに低い濃度より明らかに多くなりました。また、ビールはカラピルスやピルスナー麦芽の単独の抽出物よりもALTの量が少なくなりました。研究チームは、ホップや発酵でできる成分など、ビールに含まれる他の要素が個々の原料の影響を和らげている可能性を挙げています。

この研究が示すこと

この研究は、麦芽のポリフェノール量や抗酸化性が、麦芽の種類だけでなく成分を取り出す溶媒によっても変わることを示しました。また、培養した肝臓由来の細胞では、多くの麦芽抽出物が高い濃度でのみ毒性を示しました。低い濃度やビールでALTの漏れ出しが少なかったことから、著者らは麦芽の成分が肝細胞に対して比較的毒性が低い可能性を指摘しています。ただし、これらは培養細胞を使った実験室での結果であり、ビールを飲んだときの人の肝臓への影響を直接示したものではありません。

原著論文の著者・所属:Santos D(ESS, Polytechnic of Porto, Rua Dr. António Bernardino de Almeida 400, 4200-072 Porto, Portugal.)、Pereira MJ(ESS, Polytechnic of Porto, Rua Dr. António Bernardino de Almeida 400, 4200-072 Porto, Portugal.)、Jesus Â(REQUIMTE/LAQV, ESS, Polytechnic of Porto, Rua Dr. António Bernardino de Almeida 400, 4200-072 Porto, Portugal.)、de Oliveira RF(REQUIMTE/LAQV, ESS, Polytechnic of Porto, Rua Dr. António Bernardino de Almeida 400, 4200-072 Porto, Portugal.)、Oliveira AI(REQUIMTE/LAQV, ESS, Polytechnic of Porto, Rua Dr. António Bernardino de Almeida 400, 4200-072 Porto, Portugal.)、Pinho C(REQUIMTE/LAQV, ESS, Polytechnic of Porto, Rua Dr. António Bernardino de Almeida 400, 4200-072 Porto, Portugal.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Santos D, Pereira MJ, Jesus Â, et al. Assessment of the Potential Impact of Aqueous and Ethanolic Malt Extracts on HepG2 Liver Cells. Food technology and biotechnology 2026-09-15. DOI: 10.17113/ftb.64.03.26.9286. 原著ライセンス:CC BY.