著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Veterinary Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:昆虫由来の飼料素材を使いやすくする

鶏肉の世界的な需要が伸びるなか、肉用鶏(ブロイラー)の飼育では、腸の健康や栄養の吸収を助ける飼料添加物が使われてきました。しかし、プロバイオティクスや植物抽出物などは効果が安定しなかったり、働きが限られたりすることがあります。そのため研究チームは、複数の役割を持ちうる新しい飼料素材を探る必要があると考えました。

注目したのは、アメリカミズアブ(ブラックソルジャーフライ)の幼虫です。これまでの研究では、幼虫をそのまま粉にした飼料の効果は一定していませんでした。著者らは、その一因として、昆虫の外殻成分であるキチンやたんぱく質が消化されにくく、有用な成分が十分に引き出されていない可能性を挙げています。そこで本研究では、幼虫を酵素で分解した素材(論文ではEH-BSFLHと呼ばれます)の成分を調べました。さらに、生後1〜21日のブロイラーの飼料に加えたときの影響を評価しました。

どのような素材を、どう試したか

素材には、家庭や飲食店の食品廃棄物で育てた幼虫が使われました。幼虫を洗って90〜100℃の湯で短時間加熱し、水と一緒にすりつぶしました。そのうえで、キチンを分解する酵素と複数のたんぱく質分解酵素を組み合わせて分解しています。

成分分析では、この素材は水分が約61%と多く、粗たんぱく質は15.49%、粗脂肪は9.85%でした。たんぱく質のうち96.41%が酸に溶けやすい形(酸可溶性たんぱく質)でした。著者らは、たんぱく質が分解され、溶けやすいペプチドが多い状態になっている可能性を示しています。脂肪酸の中ではラウリン酸が最も多く、全脂肪酸の26.62%を占めていました。

飼育試験では、3群を比べました。通常の飼料のみの対照群、素材を2%加えた群、6%加えた群です。2%と6%という量は、既存の研究で効果が報告されているラウリン酸の量の範囲に合わせて設定されています。各群は6羽ずつの囲いを7つ設け、囲いを1つの単位として成長を評価しました。また、ほかの飼料原料の配合を変えずに素材を上乗せする方法を取り、素材そのものの影響を見ようとしています。

主な結果:6%群で体重が増え、腸の形にも変化

21日齢の体重は、6%群が平均843.71gでした。これは対照群の737.14g、2%群の776.30gより有意に重い値です。6%群では1日あたりの摂食量と増体量も対照群より多くなりました。一方、2%群では対照群との差は認められませんでした。飼料要求率は、体重を1増やすのに必要な飼料量を示す指標です。この値は3群で差がありませんでした。著者らは、体重の増加は主に食べる量が増えたことと関連していると解釈しています。

と体の評価では、6%群で2つの割合が対照群より高くなりました。内臓をすべて取り除いたと体の割合(全内臓除去と体率)と、一部の臓器を残して内臓を除いたと体の割合(半内臓除去と体率)です。一方、放血・脱羽後のと体の割合や、胸肉ともも肉の割合には差がありませんでした。肉質については、死後24時間の胸肉ともも肉のpHが、2%群と6%群の両方で対照群より高くなりました。肉の色や硬さ(せん断力)には差がありませんでした。また、6%群のもも肉では、対照群より総アミノ酸量が14.9%、必須アミノ酸量が14.7%多くなっていました。

腸の観察では、6%群で十二指腸の陰窩(腸の表面のくぼみ部分)が浅くなりました。また、十二指腸と空腸では、絨毛の高さと陰窩の深さの比が大きくなっていました。絨毛は、栄養を吸収する突起です。血液の一般的な検査値には群間の差はありませんでした。血清では、6%群でブドウ糖、アルブミン、総コレステロールが対照群より低い値を示しました。肝臓などに関わる酵素であるALTとASTも、対照群より低い値でした。ただし著者らは、これらの酵素は鶏では肝臓の状態を特定する指標として限界があるとしています。そのため、肝臓の損傷が減ったとまでは結論できないと述べています。

経済面の試算では、6%群の1羽あたりの利益が最も高く、14.05元でした。ただしこの試算は試験当時の中国の地域市場価格に基づくものです。著者らは、ほかの地域や時期にはそのまま当てはまらないと明記しています。

この研究が示すこと

この研究は、酵素で分解したアメリカミズアブ幼虫を若いブロイラーの飼料に6%加えた結果を報告しています。21日間の試験の範囲で摂食量と体重増加が大きくなり、肉や腸、血清の値にも変化が見られました。

一方で著者らは、いくつかの限界を挙げています。試験が生後21日までの短い期間で、雄の単一品種に限られていたこと、栄養の消化率を直接は測っていないことです。また、腸や血清などの詳しい分析は、成長の結果を見たあとに対照群と6%群だけで行われました。血清の値に変化があったことから、成長の促進と鶏の体の状態との釣り合いを考えて使う必要があるとも述べています。この研究は、食品廃棄物で育てた昆虫を加工して家畜の飼料に生かす試みについて、その可能性と、まだ確かめられていない点の両方を示したといえます。

原著論文の著者・所属:Zikang Niu(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Zujie Liao(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Chaohai Yuan(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Yafei Cai(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Xiaoying Xin(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Yujiao Guo(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Bingqian Zhou(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Niannian Wang(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Jiahui Li(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Wei Zhang(College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zikang Niu, Zujie Liao, Chaohai Yuan, et al. Evaluation of Enzymatically Hydrolyzed Hermetia illucens Larval Homogenate as a Dietary Supplement for 1–21-Day-Old Broilers: Growth Performance, Meat Quality, Serum Biochemical Indices and Intestinal Morphology. Veterinary Sciences 2026-09-29. DOI: 10.3390/vetsci13101030. 原著ライセンス:CC BY.