著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Veterinary Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肉用鶏(ブロイラー)の生産では、群れの健康を保ちながら、成長と飼料の利用効率をできるだけ高めることが大きな目標です。品種改良で成長が速く胸肉の多い白色系ブロイラーが生まれましたが、その分、代謝の負担が大きく、栄養や環境のストレスの影響も受けやすいとされています。そのため、体の抗酸化能力や免疫の働きを支える栄養面の工夫が注目されています。

研究チームが着目したのは「イリシン」です。イリシンはFNDC5というたんぱく質から切り出されてできるペプチドホルモンで、哺乳類では運動に伴って筋肉から出る物質として知られ、エネルギー代謝の調節との関わりが研究されてきました。一方、鶏などの家禽での働きや、栄養素としての可能性はほとんど分かっていません。そこで著者らは、鶏のイリシンを人工的に作った「組換えイリシン」を飼料に加えると、ブロイラーの成長、枝肉、肉質、抗酸化状態、免疫関連の指標、腸内細菌がどう変わるかを調べました。

どのように調べたか

研究チームは、鶏FNDC5の該当部分の遺伝情報を大腸菌に組み込んで組換えイリシンを作り、純度95%を超えるまで精製しました。飼料の調製や保存中の分解を抑えるため、毎日、給餌前に生理食塩水に溶かし、少量の飼料と混ぜてから1日分の飼料に加えました。

実験には、ふ化したばかりのオスのブロイラー180羽を用いました。イリシンを加えない基本飼料の群、飼料1kgあたり5mgを加えた群、10mgを加えた群の3群に分け、各群を10羽ずつの6つの囲いで42日間飼育しました。抗生物質や成長促進剤は使っていません。期間中の体重や飼料の摂取量を記録し、42日目には各囲いから平均的な体重の1羽ずつを選んで、枝肉の歩留まり、肉質、血液中の成分、免疫器官の重さを調べました。さらに、各群5羽の盲腸の内容物から細菌の遺伝子を読み取り、腸内細菌の構成を比べました。

主な結果

42日目の最終体重は、対照群の2415.50gに対し、5mg群で2525.17g、10mg群で2526.88gと、イリシンを加えた群で統計的に有意に高くなりました。1日あたりの増体量も、対照群の56.57gに比べて5mg群で59.17g、10mg群で59.22gでした。飼料の摂取量も増え、10mg群が最も多くなりました。体重を1増やすのに必要な飼料の量を示す「飼料要求率」は、対照群の1.51から両群とも1.46に下がりました。この値は小さいほど飼料を効率よく体重に変えたことを意味します。

枝肉では、と体の歩留まりが向上しました。胸肉の割合は、対照群の21.39%に対し5mg群で23.26%、10mg群で22.78%でした。腹部の脂肪の割合には有意な増加は見られませんでした。肉質では、加熱したときに失われる重さの割合(加熱損失)が減りました。胸肉では対照群の27.77%に対し10mg群で19.20%、もも肉では38.45%に対し10mg群で29.78%でした。この値が小さいほど、加熱中に肉が水分を保てたことを示します。一方、肉の色、肉汁の流出、硬さなど、他の多くの項目はおおむね変わりませんでした。

血液では、抗酸化酵素の一つであるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性が10mg群で高くなりました。全体的な抗酸化能力や、脂質の酸化の目安となる物質などには差がありませんでした。免疫関連では、鶏の主要な抗体であるIgYとIgMの濃度が、両方のイリシン群で対照群より高くなりました。一方、炎症に関わる物質であるIL-6やTNF-αには差がなく、胸腺や脾臓などの免疫器官の重さにも影響は見られませんでした。

盲腸の腸内細菌では、細菌の種類の豊かさや多様性の指標には有意な差がありませんでした。ただし、細菌群集の全体的な構成には群の間で有意な違いが認められました。

研究が示すこと

著者らは、組換えイリシンを飼料に加えることで、ブロイラーの成長と一部の枝肉・肉質の形質が改善し、血液中のSOD活性や抗体の濃度、盲腸の細菌構成の変化を伴ったと報告しています。これらの結果は、組換えイリシンがブロイラー用の機能性飼料添加物の候補として検討に値することを示すものと位置づけられています。一方で著者らは、最適な添加量、飼料中でのイリシンの安定性や体内への取り込まれやすさ、腸内細菌の変化の確認、そして効果が生じる仕組みは、まだ明らかになっていないとしています。

原著論文の著者・所属:Pei Wen(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Haiyang Wu(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Feitao Dang(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Jinbo Sun(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Hongwei Shi(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Yi Yan(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Jiayin Lu(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Xiaomao Luo(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)、Yanjun Dong(College of Veterinary Medicine, China Agricultural University, Beijing 100091, China)、Haidong Wang(Shanxi Key Laboratory of Animal Disease Research, Prevention and Control, College of Veterinary Medicine, Shanxi Agricultural University, Jinzhong 030801, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pei Wen, Haiyang Wu, Feitao Dang, et al. Effects of Dietary Recombinant Irisin on Growth Performance, Serum Antioxidant and Immune Indices, and Cecal Microbiota of Broilers. Veterinary Sciences 2026-08-15. DOI: 10.3390/vetsci13080811. 原著ライセンス:CC BY.