著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Microorganisms
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
卵の供給量と廃棄物量のずれを埋めるために
アメリカミズアブはハエの仲間です。その幼虫は生ごみなどの有機廃棄物を食べて育ち、廃棄物を減らしながら、家畜や魚の飼料に使えるたんぱく質や脂肪を含む体(バイオマス)をつくります。このため、廃棄物処理と飼料不足の両方に役立つ生き物として注目されています。
一方で、実際の生産現場には課題があります。卵は一定量ずつ容器に入れて販売されますが、処理施設に届く廃棄物の量は日々変わります。卵を低温で保存する方法も研究されてきましたが、卵はデリケートで条件の管理が難しく、冷却設備も必要です。研究チームは、孵化した後の幼虫を通常の飼育と同じ30℃のまま、餌を与えずに一定期間とどめておく方法に着目しました。そして、この「飢餓保存」の長さが、その後の幼虫の成長、栄養成分、腸内細菌、体内の代謝物質にどう影響するかを調べました。
0〜21日間の飢餓のあと、生ごみと鶏ふんで育てる
研究チームはまず、孵化した幼虫を小麦ふすまで平均約5mgになるまで育てました。その後、追加の餌を与えずに元のふすまの中で保存しました。保存条件は温度30℃、湿度70%で、ふすまが乾かないよう毎日水を噴霧しました。保存期間は0日、7日、14日、21日の4通りで、0日の群は飢餓を経験しない比較対照としました。
保存期間が終わると、幼虫を2種類の一般的な飼育材料に移しました。1つは米や麺、野菜、果物の皮などを主とする生ごみ、もう1つは鶏ふんです。そのうえで、体重と体長の変化、生存率、生産量、材料をどれだけ減らせたかを測りました。あわせて、幼虫のたんぱく質・脂肪・アミノ酸・脂肪酸、腸内細菌の構成、体内の代謝物質も分析しました。
14日までは生存率を維持、21日では大きく低下
飢餓保存後の生存率は、7日と14日では95%を超えていました。しかし21日では67.60%まで大きく下がりました。幼虫の生産量はどちらの材料でも7日の群で最も多く、14日以降は有意に減りました。これは死亡の増加と同じ傾向でした。また、保存期間が長いほど、幼虫が材料を減らす割合は下がりました。一方、生き残った幼虫の最終的な体重と体長は、保存期間が長いほど大きくなる傾向がありました。著者らは、再び餌を得た幼虫が遅れを取り戻すように成長する「代償成長」が起きた可能性を示しています。
栄養成分への影響は、材料によって異なりました。生ごみで育てた幼虫では、保存期間が長いほど粗たんぱく質の割合が増え、21日で46.60%と最も高くなりました。必須アミノ酸などのアミノ酸量も増えました。これに対し、鶏ふんで育てた幼虫では粗たんぱく質に有意な変化はなく、アミノ酸量は保存期間とともに減りました。著者らはこの違いについて、生ごみには吸収しやすい窒素化合物が多いのに対し、鶏ふんには幼虫が利用しにくい尿酸などの非たんぱく態窒素が多いためと考察しています。脂肪はどちらの材料でもいったん減り、21日には回復しました。また、どちらの材料でも、脂肪酸の一種であるラウリン酸の割合は保存期間が長いほど高まりました。
腸内細菌の構成も、保存期間によって変わりました。生ごみの群では21日でイグナツシネリア属が増え、エンテロコッカス属が減りました。鶏ふんの群では21日でモヘイバクター属が増えました。体内の代謝物質では、どちらの材料でもアミノ酸の一種トリプトファンの代謝に関わる経路に変化が見られました。著者らは、これらの細菌の変化と、幼虫の代謝や栄養成分の変化との間に関連がある可能性を指摘しています。ただし、その働きの詳しい解明は今後の課題としています。
「7日が最適、14日が上限」という目安
研究チームは、生存率と栄養面の質を損なわずに済む飢餓保存の上限は14日であり、21日は生存率の大きな低下から実用的でないと結論づけています。さらに、全体の変換効率を最も高めるには7日間の保存が最適だとしています。
冷却設備を使わずに、通常の飼育と同じ温度で幼虫を一定期間とどめておける。この研究は、一定量ずつ届く卵と変動する廃棄物量のずれを埋めるための具体的な目安を示しました。また、保存後の幼虫の栄養や腸内細菌の変わり方が、育てる材料によって大きく異なることも明らかにしています。
原著論文の著者・所属:Guo J(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)、Jiao M(College of Animal Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450046, China.)、Li Y(College of Animal Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450046, China.)、Shi H(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)、Li J(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)、Ji X(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)、Zhang W(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)、Quan K(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)、Jiang Y(College of Animal Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450046, China.)、Liu K(Henan Key Laboratory of Unconventional Feed Resources Innovative Utilization, College of Animal Science and Technology, Henan University of Animal Husbandry and Economy, Zhengzhou 450046, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Guo J, Jiao M, Li Y, et al. Post-Hatch Starvation in Black Soldier Fly Larvae: Implications for Growth, Nutritional Quality, and Multi-Omics Profiles Across Rearing Substrates. Microorganisms 2026-09-23. DOI: 10.3390/microorganisms14102142. 原著ライセンス:CC BY.