著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文掲載ページ
研究の目的
桑(マグワ)の葉は東アジアで古くから栽培され、蚕の餌や伝統的な中国医学に用いられてきました。葉には炭水化物、たんぱく質、ポリフェノール、アルカロイド、アミノ酸など多様な成分が含まれ、桑の葉茶としても利用されています。
著者らが注目したのは、葉を摘む時期と加工方法という二つの要素です。一つは、霜が降りた後に葉を収穫すること。もう一つは、中国の黒茶の一種「茯磚茶(ふくせんちゃ)」の発酵に関わるカビ、アスペルギルス・クリスタタス(Aspergillus cristatus)で葉を発酵させることです。論文によると、霜の季節の収穫とその後のカビ発酵を組み合わせたときに桑の葉茶の品質がどう変わるかは、これまで体系的に調べられていませんでした。霜に伴う成分の違いが発酵中にどう作り替えられるかも分かっていなかったといいます。そこで研究チームは、人による官能評価(味や香りの評価)と、香りの成分および香り以外の成分の網羅的な分析を組み合わせて、この変化を調べました。
何をどのように調べたか
研究チームは、市販の茯磚茶からカビを分離し、形態と遺伝子配列の解析によってアスペルギルス・クリスタタスと同定しました。桑の葉は中国・山東省煙台市の茶園で、霜の前と霜の後という二つの時期に収穫されました。
比べたのは、霜の前に摘んで発酵させていない茶、霜の後に摘んで発酵させていない茶、霜の後に摘んでカビで発酵させた茶の3種類です。訓練を受けた6人の評価者が、「青臭さ(草のような香り)」「甘い香り」「焙煎したような香り」「穀物のような香り」「カビ発酵の香り」の強さと、外観、水色、風味、味などを採点しました。
成分については、揮発して香りになる成分をガスクロマトグラフィー質量分析で、香りにならない成分を高性能の液体クロマトグラフィー質量分析で調べました。どちらも、試料に含まれる化合物を分離して種類と量を見分ける手法です。香りにならない成分では81種類の化合物を特定し、処理ごとの量の違いを比較しました。さらに、評価者が感じた香りの強さと、個々の成分量の関係も統計的に調べています。
主な結果
まず、霜の後に摘んだ葉は、霜の前の葉とは成分の構成が異なっていました。香りにならない成分では31種類の量に差があり、16種類が増え、15種類が減っていました。増えた成分には、アミノ酸のトリプトファンのほか、エピガロカテキンやエピカテキンガレートといったカテキン類、イソクエルシトリンなどのフラボノイドが含まれます。一方で、減ったフラボノイド配糖体(糖が結合したフラボノイド)や一次代謝物(糖や有機酸など生命活動の基本に関わる物質)もありました。著者らは、全体が単純に増えたり減ったりしたのではなく、複数の種類の成分が同時に組み替わったと述べています。香りの面では、霜の後の茶は青臭さが弱く、焙煎したような香りが強くなりました。ただし、総合的な官能評価の点数への影響は比較的小さかったと報告されています。
霜の後の葉をカビで発酵させると、成分の変化はさらに大きくなりました。香りにならない成分では65種類に差があり、9種類が増え、56種類が減りました。香りの成分では、焙煎したような香りと関連づけられたピラジン類が減り、主なものでは80%を超える減少でした。反対に、甘い香りと関連する成分であるサリチル酸メチル(2-ヒドロキシ安息香酸メチル)は7倍以上に増えていました。官能評価では、発酵後の茶で甘い香りとカビ発酵の香りが強くなり、青臭さは弱まり、焙煎したような香りも一部弱まりました。風味や味の評価は大きくは変わりませんでした。
香りの成分と評価者の感じた香りの間には、統計的に意味のある対応がいくつか見られました。たとえば、ピラジン類は焙煎したような香りと、イソホロンという成分はカビ発酵の香りと、それぞれ正の相関を示しました。一方、香りにならない個々の成分と味や総合評価との関係は、統計的な補正をすると有意なものは残りませんでした。著者らは、これらを確認された関係ではなく、探索的な傾向として扱うべきだとしています。
研究が示すこと
研究チームは結果をもとに、二段階の考え方を提案しています。第一段階では、霜の後に収穫することで、発酵の出発点となる葉の成分状態が変わります。第二段階では、カビによる発酵がその状態をさらに作り替え、香りと成分の両面で茶の特徴を変えます。著者らは、収穫時期を、発酵させた桑の葉茶をつくる際に事前に調整できる条件として活用できる可能性があると述べています。
ただし、著者らはいくつかの限界も明記しています。この研究には「霜の前に摘んで発酵させた茶」が含まれていないため、霜と発酵それぞれの独立した効果や、両者の相乗作用は判断できません。成分量は相対的な比較であり、絶対的な濃度ではありません。また、試料数や評価者の人数は少なく、評価者間の一致度も高くなかったため、官能評価の結果は慎重に解釈する必要があるとしています。カビの酵素の働きなど、変化の仕組みは直接測定されていません。そのうえでこの研究は、摘む時期と発酵という二つの工程を経て、桑の葉茶の香りと成分が段階的に変わる様子を、具体的な成分の変化とともに示しています。
原著論文の著者・所属:Yujun Huang(School of Pharmacy, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Yujun Huang(Yantai Institute of Coastal Zone Research, Chinese Academy of Sciences, Yantai, China)、Lijuan Kou(School of Pharmacy, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Lin Guo(School of Pharmacy, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Zeping Xie(School of Pharmacy, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Jing He(Yantai Supply and Marketing Service Center, Yantai, China)、Junyan Sun(Yantai Supply and Marketing Cooperative Tea Industry Co., Ltd., Yantai, China)、Jialin Li(School of Pharmacy, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Jialin Li(Yantai Institute of Coastal Zone Research, Chinese Academy of Sciences, Yantai, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yujun Huang, Yujun Huang, Lijuan Kou, et al. Combined effects of post-frost harvesting and Aspergillus cristatus fermentation on the flavor and metabolite profiles of mulberry leaf tea. Frontiers in Nutrition 2026-11-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1968870. 原著ライセンス:CC BY.