著者の所属・活動拠点の国は、韓国、アメリカです。

掲載誌:Antioxidants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:緑膿菌毒素による粘液の過剰産生

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、気管支拡張症、慢性気管支炎などでは、気道の粘液が過剰に分泌されることがよくあります。粘液は本来、吸い込んだ有害物質や微生物から気道を守る役割を持ちます。しかし、多すぎたり排出がうまくいかなかったりすると、気道をふさぎ、細菌が住みつきやすい環境をつくってしまいます。粘液の主成分は「ムチン」と呼ばれる糖タンパク質で、気道では主にMUC5ACとMUC5Bの2種類が作られます。

論文によると、緑膿菌が出す「ピオシアニン」という毒素は、細胞内で活性酸素などを過剰に発生させ、強い酸化ストレスを引き起こします。これにより、細胞内の情報伝達経路(EGFRやSTAT6を介する経路)が過剰に働きます。その結果、ムチン産生にブレーキをかけるFOXA2というタンパク質が減り、粘液を作る杯細胞の増加とムチンの過剰産生が起こると説明されています。

コエンザイムQ9(CoQ9)は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアで働くユビキノンの仲間です。酵母からげっ歯類まで多くの生物に豊富にありますが、ヒトではよく似たコエンザイムQ10が主に使われています。研究チームは、キノコの一種オウデマンシエラ・ラファニペス(Oudemansiella raphanipes)から取り出したCoQ9に着目しました。そして、ピオシアニンによるムチンの過剰産生をCoQ9が抑えられるのか、抑えるならどのような仕組みによるのかを調べました。

何を調べたか

研究チームは、キノコの乾燥粉末を有機溶媒で抽出しました。そのうちクロロホルム抽出物をクロマトグラフィーで分離し、CoQ9を得ました。

実験には、ヒトの正常な気管支上皮細胞を使いました。培養方法は2種類です。ひとつは、細胞を培養液に浸して育てる方法です。もうひとつは、細胞の上面を空気にさらして21日間かけて分化させ、実際の気管支の内壁に近い多層構造をつくる「気液界面培養」です。細胞をあらかじめCoQ9で処理してからピオシアニンにさらし、ムチンやFOXA2の量、関連する情報伝達経路を調べました。あわせて、酸化ストレスの指標とミトコンドリアの状態も測定しました。

主な結果

CoQ9は1〜150μMの範囲で、24時間・48時間とも細胞に毒性を示しませんでした。ピオシアニンは細胞の増殖を低下させましたが、CoQ9で前処理すると、濃度に応じてこの低下が和らぎました。

培養液に浸して育てた細胞では、ピオシアニンによってMUC5ACとMUC5Bのタンパク質がそれぞれ対照群の2.8倍と3.8倍に増えました。100μMのCoQ9で前処理すると、これらはそれぞれ1.4倍と1.8倍にとどまりました。同時に、細胞核内のFOXA2の量は対照群と同程度に保たれました。気管支の内壁に近い気液界面培養でも同様の傾向が見られました。ピオシアニンでMUC5ACとMUC5Bが3.6倍と4.4倍に増えたのに対し、CoQ9前処理ではそれぞれ1.7倍と1.8倍に抑えられ、FOXA2も対照群の水準に回復したと報告されています。

仕組みについては、ピオシアニンによるEGFR経路とSTAT6経路の過剰な活性化が、CoQ9前処理で抑えられました。CoQ9自体にも、フリーラジカルを消去する抗酸化作用が認められました。CoQ9は、ピオシアニンによる細胞内の活性酸素の発生を減らしました。また、抗酸化物質グルタチオンが酸化された形で増えるのを抑え、抗酸化に関わる転写因子NRF2の核内量を増やし、抗酸化酵素GPX4の減少を防ぎました。

ミトコンドリアについても結果が報告されています。ピオシアニンは、ミトコンドリアの抗酸化の仕組みを支えるSIRT3とSOD2を減らしました。CoQ9はこの2つのタンパク質の量を回復させました。また、傷んだミトコンドリアを除去する「マイトファジー」の目印となるPINK1の減少を抑えました。新しいミトコンドリアを作る働きに関わるAMPKとPGC1αのタンパク質量を回復させ、ピオシアニンで減った細胞内のエネルギー物質ATPも補われました。

一方で、ピオシアニンなしでCoQ9だけを与えた場合にも、EGFRやAKTの活性化が見られました。またSIRT3とSOD2では、遺伝子の読み取り量(mRNA)とタンパク質量の変化が一致しませんでした。著者らは、こうした制御の詳しい仕組みはまだ解明されていないとしています。

研究が示すこと

著者らは、ピオシアニンが「ミトコンドリアの損傷」と「活性酸素の発生」の悪循環を生み、それがムチンの過剰産生と杯細胞の増加につながると考えています。CoQ9はミトコンドリアの酸化還元のバランスと品質を保つことで、この悪循環を和らげると結論づけています。

今回の結果は、培養したヒト気管支上皮細胞で得られたものです。著者らはこの研究を、酸化ストレスで傷ついた気道上皮細胞の抗酸化防御を、ユビキノンの仲間を用いて高めるという別のアプローチの可能性を示すものと位置づけています。

原著論文の著者・所属:Gun-Do Kim(Department of Microbiology, College of Natural Science, Pukyong National University, Busan 48513, Republic of Korea)、Min-Jae Kang(Department of Microbiology, College of Natural Science, Pukyong National University, Busan 48513, Republic of Korea)、Keun Ki Kim(Department of Life Science and Environmental Biochemistry, College of Natural Resource and Life Sciences, Pusan National University, Miryang 50463, Republic of Korea)、Woosuk Choi(Department of Pathobiology, College of Veterinary Medicine, University of Illinois at Urbana-Champaign, Urbana, IL 61802, USA)、Gee W. Lau(Department of Pathobiology, College of Veterinary Medicine, University of Illinois at Urbana-Champaign, Urbana, IL 61802, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gun-Do Kim, Min-Jae Kang, Keun Ki Kim, et al. Coenzyme Q9 Derived from Oudemansiella raphanipes Attenuates Mucin Biosynthesis Induced by Pseudomonas aeruginosa Pyocyanin in Human Bronchial Epithelial Cells. Antioxidants 2026-09-23. DOI: 10.3390/antiox15101225. 原著ライセンス:CC BY.