著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Antioxidants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
パンダン(学名 Pandanus amaryllifolius)は東南アジアで香りづけや色づけに広く使われる熱帯の香草です。その葉には、油になじみやすく水に溶けにくい「脂溶性」の生理活性成分が多く含まれます。代表的なものが、スクアレン、フィトール、β-シトステロールの3種類で、それぞれ異なる化学的グループに属します。
これらの成分は食品への活用が期待される一方、水に溶けにくい、光や熱に弱い、消化の過程で酸化されやすいといった弱点があり、利用が限られてきました。そこで注目されているのが、タンパク質に成分を結合させて運ぶ方法です。中でも牛乳タンパク質は、内部に水をはじく部分を持ち、脂溶性成分と結びつきやすいと考えられています。
研究チームは、これら3種類のパンダン成分が牛乳の主要タンパク質であるα-カゼイン、β-カゼイン、β-ラクトグロブリンとどのように結合するかを調べました。あわせて、結合したもの(複合体)がラジカル(反応性の高い分子)を消去する力を、消化前と、試験管内で再現した消化の各段階で比較しました。
結合のしかたを多角的に調べる
著者らはまず、コンピューター上で分子同士の結合を予測する「分子ドッキング」を行いました。その結果、3種類の成分はいずれも3種類のタンパク質と自発的に結合しうると予測されました。中でもβ-シトステロールの結合が最も強く、結合エネルギーはα-カゼインで−4.59、β-カゼインで−3.84、β-ラクトグロブリンで−4.89 kcal/molと報告されています。論文は、β-シトステロールの硬い環状構造が密な結合に有利に働いた可能性を挙げています。一方、柔らかく形の変わりやすいフィトールやスクアレンは、結合時に失うものが大きく、結合が比較的弱いと考察しています。
結合の主な原動力は、水をはじく部分同士が集まる「疎水性相互作用」と、分子間に働く弱い引力でした。カゼイン2種では水素結合は見られませんでしたが、β-ラクトグロブリンでは、フィトールとβ-シトステロールが内部のくぼみで水素結合も形成していました。この結果から、著者らはβ-ラクトグロブリンが脂溶性成分の運び手としてより有望だとしています。
次に、タンパク質中のアミノ酸トリプトファンが発する蛍光が、成分の結合によって弱まるかを測定しました。フィトールは3種類すべてのタンパク質で蛍光を弱め、β-シトステロールはβ-ラクトグロブリンでのみ明確に蛍光を弱めました。スクアレンではどのタンパク質でも明確な変化は見られず、論文はスクアレン自体が強く水をはじいて凝集し、タンパク質と相互作用しにくくなった可能性を挙げています。さらに、円二色性分光法と赤外分光法による解析では、成分の結合に伴ってタンパク質の立体構造の一部(らせん構造やシート構造などの割合)が変化することが確認されました。
消化の段階で変わる抗酸化反応
抗酸化の力は、DPPHとABTSという2種類の人工ラジカルを消去する能力として測定されました。消化前の測定では、タンパク質単独はDPPHではほとんど反応を示さなかった一方、ABTSでは一定の値を示しました。成分単独はDPPHでより明確な反応を示しました。複合体はABTSで、それぞれの成分を単独で測った場合より高い値を示す傾向がありました。ただし著者らは、この結果を相乗効果の証拠とはみなさず、タンパク質と成分の作用が単に合わさっただけの可能性を否定できないとしています。
試験管内で口・胃・腸の消化を再現した実験では、2つの測定法で異なる傾向が見られました。DPPHでの消去能は胃の段階で最も高く、腸の段階で低下しました。これに対しABTSでの消去能は、胃の段階では比較的低く、腸の段階で大きく上昇しました。
論文はその理由として、消化によるタンパク質構造の変化、成分の分布の変化、ペプチド(タンパク質の分解断片)の生成、胆汁酸塩が作る環境の変化などが関わる可能性を挙げています。ただし、ペプチドの組成や残った成分の量は直接測定していないため、これらの説明はあくまで仮説的なものだと明記しています。また、DPPHやABTSは体内の消化管に実際に存在する酸化物質ではないため、結果は化学的な比較指標として解釈すべきだとしています。
研究が示すこと
この研究は、パンダン由来の脂溶性成分が牛乳タンパク質と主に疎水性の力で結びつき、成分とタンパク質の組み合わせによって結合のしやすさやタンパク質の構造変化が異なることを、分子レベルで示しました。また、こうした複合体の抗酸化反応は消化の段階と測定法によって大きく異なり、一つの指標だけでは評価しきれないことも浮かび上がりました。
原著論文の著者・所属:Guanhua Lou(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, 600 Changjiang Road, Harbin 150030, China)、Shuzhen He(Spice and Beverage Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Wanning 571533, China)、Zhen Feng(Spice and Beverage Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Wanning 571533, China)、Xiaowei Qin(Spice and Beverage Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Wanning 571533, China)、Haode Chang(Spice and Beverage Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Wanning 571533, China)、Junyi Zhang(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, 600 Changjiang Road, Harbin 150030, China)、Wei Cheng(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, 600 Changjiang Road, Harbin 150030, China)、Fei Liu(Key Laboratory of Dairy Science, Ministry of Education, College of Food Science, Northeast Agricultural University, 600 Changjiang Road, Harbin 150030, China)、Chunhe Gu(Spice and Beverage Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Wanning 571533, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Guanhua Lou, Shuzhen He, Zhen Feng, et al. Pandan Lipophilic Bioactives Bind Milk Proteins with Gastric-Intestinal Stage-Specific Antioxidant Activity. Antioxidants 2026-09-23. DOI: 10.3390/antiox15101231. 原著ライセンス:CC BY.