著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Journal of Fungi
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
コーヒー炭疽病は、主にコレトトリクム属の菌が関わるとされる病気で、コーヒー産地で問題になっています。ただし、病斑からはコレトトリクム属以外にもフザリウム属やディアポルテ属などの菌が見つかることが知られています。また、同じ殺菌剤でも菌株によって効き方が大きく異なる場合があります。
研究チームは、中国・海南省万寧のコーヒー葉に生じた炭疽病のような病斑から菌類を集めました。そのうえで、選んだ菌株について複数の殺菌剤への感受性を比べました。あわせて、殺菌剤に頼る度合いを減らす手段の候補として、マングローブ環境から得た放線菌が、多様な菌類の生育をどこまで抑えられるかを調べました。
病斑から集めた菌類の顔ぶれ
研究チームは2024年11月2日、中国熱帯農業科学院の香料・飲料研究所で、アラビカコーヒー10株から病斑のある葉50枚を採取しました。そこから49株の菌類を分離しました。
切り取った葉に傷をつけて菌を接種したところ、39株(79.6%)が接種部位で明確な壊死(組織が褐変して枯れる症状)を起こしました。菌を含まない培地を置いた対照の葉では、壊死の広がりは見られませんでした。
この39株を、ITSと呼ばれるDNA領域の塩基配列などをもとに属のレベルで分類すると、8属に分かれました。コレトトリクム属が25株(64.1%)で最も多く、ディアポルテ属が6株、フザリウム属が3株でした。残る5属は各1株でした。
著者らは、ITSだけでは近縁種の多いコレトトリクム属を種まで見分けるには解像度が足りないことを述べています。また、この結果は1地点・1回の採取で培養できた菌の集まりを表すものだとしています。傷のない葉への感染は評価されていません。さらに、各菌が実際の病気にそれぞれどの程度寄与しているのか、共通して見られた壊死がどのような仕組みで起きるのかは、未解明のままだとしています。
殺菌剤への感受性は菌株と薬剤で大きく異なった
研究チームは、コレトトリクム属4株と、ラシオディプロディア属、クロノスタキス属、ディアポルテ属の各1株からなる計7株を選びました。これらを6種類の殺菌剤を含む培地で育て、菌糸の伸びがどれだけ抑えられるかを測りました。効き目の指標には、生育を半分に抑える濃度(EC50)を用いました。この値が小さいほど、少ない量で効くことを意味します。
5種類の殺菌剤でEC50を推定できました。平均値は、チオファネートメチルが4.88、マンゼブが33.46、クロロタロニルが37.06、カルベンダジムが82.37、塩基性硫酸銅が458.58µg/mLでした。チオファネートメチルは、7株すべてで最も低いEC50を示しました。
一方で、同じ薬剤でも菌株による差は大きく、チオファネートメチルでも0.57から22.53µg/mLまで開きがありました。さらに、ある薬剤によく反応する菌株が、別の薬剤でも同じように反応するとは限りませんでした。たとえば、ラシオディプロディア属の株はマンゼブとクロロタロニルに特に敏感でしたが、塩基性硫酸銅ではEC50がずっと高くなりました。
ボルドー液は、試験した1〜200µg/mLの範囲で阻害が弱く、平均阻害率は最大でも11.88%でした。そのため、EC50は推定されていません。著者らは、この試験が胞子の発芽ではなく、すでに伸びている菌糸の生育を測ったものであることを指摘しています。そのため、ボルドー液の反応が弱かったという結果は、コーヒーの株上での予防効果を判断するものではないとしています。
また著者らは、クロノスタキス属の株で作用の仕組みが共通する2種類の薬剤(カルベンダジムとチオファネートメチル)のEC50が比較的高かったことについて、獲得耐性や特定の耐性の仕組みを示すものではないと述べています。
放線菌CD103の幅広い抗菌作用と研究の意味
研究チームは、マングローブ由来の放線菌45株を、コレトトリクム・グロエオスポリオイデスと同じ培地上で向かい合わせて育てました。この対峙培養と呼ばれる方法で、菌の広がりがどれだけ抑えられるかを比べました。阻害率の平均は株によって0%から99.21%まで幅があり、22株が50%以上に達しました。
最も高い値を示したのはCD103という株で、平均阻害率は99.21%でした。この株の16S rRNA遺伝子の配列は、ストレプトマイセス・アングストミセティクスの基準株と100%一致しました。論文ではストレプトマイセス属の一株として扱われています。
CD103を、病斑から得た8属にわたる21株と対峙培養したところ、19株で生育が完全に抑えられました。残る2株(フザリウム属とアルテルナリア属の各1株)はわずかに生育しましたが、阻害率はそれぞれ約85%と約97%でした。さらに、灰色かび病菌やフィトフトラ属など、別に用意した6種類の植物病原体に対しても、完全阻害の基準を満たしました。
著者らは、コーヒーの病斑に関わる菌が多様であり、殺菌剤への反応が菌株と薬剤の組み合わせによって変わることを示しました。そのうえで、1株だけで反応の幅を代表させることには限界があると結論づけています。CD103の作用は培地上の試験で示されたもので、コーヒーの葉や株で病気を抑えられるかは、まだ確かめられていません。多様な菌株を並べて評価することの大切さと、生物的防除の候補となりうる微生物の存在を伝える研究といえます。
原著論文の著者・所属:Jiajun Li(Key Laboratory for Tropical Crop Molecular Breeding, Hainan Tropical Ocean University, Sanya 572022, China)、Jiayi Li(Key Laboratory for Tropical Crop Molecular Breeding, Hainan Tropical Ocean University, Sanya 572022, China)、Zhicheng Zheng(Key Laboratory for Tropical Crop Molecular Breeding, Hainan Tropical Ocean University, Sanya 572022, China)、Wenxin Yuan(Key Laboratory for Tropical Crop Molecular Breeding, Hainan Tropical Ocean University, Sanya 572022, China)、Rongsuo Hu(Spice and Beverage Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Wanning 571533, China)、Xiaoxiong Xu(Key Laboratory for Tropical Crop Molecular Breeding, Hainan Tropical Ocean University, Sanya 572022, China)、Huimin Feng(Key Laboratory for Tropical Crop Molecular Breeding, Hainan Tropical Ocean University, Sanya 572022, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiajun Li, Jiayi Li, Zhicheng Zheng, et al. Coffee Anthracnose-Associated Fungi from Wanning, Hainan: Fungicide Sensitivity and Broad-Spectrum Antagonism by Mangrove-Derived Streptomyces sp. CD103. Journal of Fungi 2026-09-23. DOI: 10.3390/jof12100712. 原著ライセンス:CC BY.