著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

パンは保存できる期間が短く、食品ロスの一因になっています。日持ちを縮める主な原因は、時間とともに硬くなる「老化」と、カビなどの微生物による劣化です。特にアオカビの仲間であるペニシリウム属やコウジカビの仲間であるアスペルギルス属のカビは、パン類の品質を落とす大きな原因とされています。

カビ対策には、プロピオン酸カルシウムなどの合成保存料が使われてきました。一方で、原材料表示をできるだけシンプルにした「クリーンラベル」の食品を求める消費者が増えています。そこで注目されているのが、包装内の空気を二酸化炭素や窒素を多く含むガスに置き換える「ガス置換包装」です。ただし著者らによると、この包装だけでは微生物による劣化を完全には防げない場合があります。

研究チームは、豆の粉を乳酸菌や酵母で発酵させた生地(豆のサワー種)と、ガス置換包装とを組み合わせる方法を検討しました。目的は、イタリアの伝統的な平たいパンであるフォカッチャ型パンについて、長期保存中の微生物面の安定性と全体的な品質を改善できるかを調べることです。工場に近い規模の試験生産(パイロットスケール)で検証した点も特徴です。

二段階の調べ方

研究は二段階で進められました。第一段階では、レンズ豆、グラスピー、ヒヨコ豆、エンドウ豆の4種類の豆の粉を使いました。それぞれを2種類の乳酸菌と1種類の酵母で、単独または組み合わせて発酵させ、豆のサワー種を作りました。さらに、そこから得た抽出液が、パンを傷めるさまざまなカビの広がりをどの程度抑えるかを実験室で調べました。対象のカビには、大学の保存株やドイツの微生物保存機関の基準株に加え、試験生産に協力した企業の工場で、原料の保管場所や製造・保管設備から分離された株も含まれていました。

第二段階では、成績のよかった豆と微生物の組み合わせを選び、工場に近い条件で発酵の規模を大きくしました。できたサワー種を生地全体の重さの33%の割合で加え、元の小麦粉とセモリナ粉の約15%を豆の粉に置き換えたフォカッチャ型パンを作りました。焼き上げたパンはガス置換包装で60日間保存し、水分、酸性度、カビ、硬さなどの変化を追いました。

比較のため、小麦だけのパン、保存料のプロピオン酸カルシウムを加えた小麦のパン、そして発酵させていない豆の粉を同じ量だけ使ったパンも用意しました。これにより、発酵そのものが保存性にどう寄与するかを見分けられるようにしています。

主な結果

どの豆の粉でも、使った微生物は24時間の発酵でよく増えました。生地は酸性になり、乳酸が大きく増えました。著者らは、4種類の豆がいずれも発酵の材料として適していることを示す結果だとしています。

カビを抑える力は、豆と微生物の組み合わせによって大きく異なりました。発酵させていない豆と比べた改善が最も大きかったのは、乳酸菌の一種(Lp. plantarum 1A7)で発酵させたエンドウ豆の+34.2%と、同じ菌のヒヨコ豆の+30.2%、別の乳酸菌(Lev. brevis AM7)で発酵させたグラスピーの+33.4%でした。カビ全体に対する平均の抑制率が最も高かったのは1A7で発酵させたヒヨコ豆の55%で、1A7のエンドウ豆とAM7のグラスピーがいずれも約50%で続きました。カビの種類によっても効き方に差があり、特に抑えられやすいグループに入った一部のペニシリウム属などでは、抑制率がおおむね60〜100%でした。

一方、レンズ豆は、菌の増え方や酸性化の程度がほかの豆と同じくらいだったにもかかわらず、発酵後のカビを抑える力の変化はわずかでした。著者らはこうした結果から、酸性化だけでは抑制の違いを十分に説明できないと述べ、豆のたんぱく質が発酵で分解されて生じる成分が関わっている可能性を挙げています。レンズ豆も、酸性化以外の寄与を確かめる比較材料として試作に加えられました。

ガス置換包装で保存したパンは、水分と水分活性(微生物が利用できる水の目安)が保存期間を通じてほぼ変わりませんでした。硬さについては、豆を加えたパンは焼きたての時点で小麦だけのパンより硬くなりました。ただし、発酵させた豆を使ったパンは、発酵させていない豆のパンよりおおむね柔らかい傾向がありました。特にAM7で発酵させたグラスピーのパンは小麦のパンに近い硬さで、60日目まで25ニュートンを下回っていました。どのパンも保存とともに少しずつ硬くなり、著者らはこれをパンの一般的な老化の進み方と一致するとしています。

研究が示すこと

著者らは、選んだ発酵の組み合わせが、工業生産に近い条件でカビによる劣化を遅らせ、食感の維持にも役立ったと結論づけています。発酵させた豆の材料は、保存性を高める役割と、パンの品質を支える役割をあわせ持つ素材になり得る、というのが論文の示す考え方です。

また、豆と微生物の組み合わせで効果が大きく変わったことについて、著者らは、豆の成分や微生物の性質、カビを抑える物質を詳しく調べることが、発酵の組み合わせを合理的に最適化する土台になるとしています。

原著論文の著者・所属:Simona Carbone(Department of the Soil, Plant and Food Science DiSSPA, University of Bari Aldo Moro, Via Amendola, 165/a, 70126 Bari, Italy)、Luana Nionelli(Vallefiorita s.r.l., Viale Delle Comunicazioni 24, 72017 Ostuni, Italy)、Giuseppe Perri(Department of the Soil, Plant and Food Science DiSSPA, University of Bari Aldo Moro, Via Amendola, 165/a, 70126 Bari, Italy)、Lorenzo Ciraldo(Department of the Soil, Plant and Food Science DiSSPA, University of Bari Aldo Moro, Via Amendola, 165/a, 70126 Bari, Italy)、Federico Rametta(Department of the Soil, Plant and Food Science DiSSPA, University of Bari Aldo Moro, Via Amendola, 165/a, 70126 Bari, Italy)、Andrea Minisci(Vallefiorita s.r.l., Viale Delle Comunicazioni 24, 72017 Ostuni, Italy)、Michela Verni(Department of Human Science and Quality of Life Promotion, San Raffaele University, Rome Italy, Via di Val Cannuta, 247, 00166 Rome, Italy)、Carlo Giuseppe Rizzello(Department of Environmental Biology, “Sapienza” University of Rome, 00185 Rome, Italy)、Erica Pontonio(Department of the Soil, Plant and Food Science DiSSPA, University of Bari Aldo Moro, Via Amendola, 165/a, 70126 Bari, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Simona Carbone, Luana Nionelli, Giuseppe Perri, et al. Fermented Legumes as a Clean-Label Strategy for Shelf-Life Extension of Flatbread Under Modified Atmosphere Packaging: A Pilot-Scale Validation. Foods 2026-09-22. DOI: 10.3390/foods15193368. 原著ライセンス:CC BY.