著者の所属・活動拠点の国は、南アフリカ、トルコです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜローゼルの「葉」を調べたのか
ローゼル(学名ハイビスカス・サブダリファ)は熱帯・亜熱帯で広く栽培されるアオイ科の植物で、食用にも薬用にも利用されてきました。これまでの研究は、商業的に重要な萼(がく。ハーブティーなどに使われる赤い部分)に集中してきました。一方、葉もアフリカやアジアの一部の地域では葉物野菜として食べられていますが、萼と比べると、含まれる成分や生理的な働きは十分に調べられていないと研究チームは指摘しています。
研究チームが注目したのは三つの酵素です。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)とブチリルコリンエステラーゼ(BChE)は、神経の情報伝達に関わる物質アセチルコリンを分解します。これらを阻害する薬は、アルツハイマー病の症状を和らげる治療に使われています。もう一つのα-グルコシダーゼ(AG)は、腸で炭水化物を分解してブドウ糖に変える酵素です。この酵素を阻害すると糖の吸収が遅れ、糖尿病の人の食後血糖の管理に役立つとされています。
さらに、酸化ストレスもアルツハイマー病や糖尿病と関わりが深いとされています。そこで研究チームは、ローゼルの葉に含まれるフェノール類(ポリフェノールを含む植物成分の一群)を詳しく分析しました。あわせて、抗酸化力と三つの酵素を阻害する力を試験管内で測り、コンピューター上のシミュレーションで成分と酵素の結合の仕方も検討しました。
どのように調べたか
材料は、2025年5月にトルコのアンタルヤ県で採取したローゼルの赤い葉です。葉を40℃で乾燥させて粉末にし、70%エタノール(エタノールと水の混合液)に24時間浸して成分を抽出しました。
成分の分析には、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC–MS/MS)を使いました。これは混合物の成分を分離し、分子の重さとその壊れ方から一つひとつを見分けて量を測る手法です。今回は、あらかじめ用意した20種類の標準物質を目印にして測定しました。なお論文によると、報告された濃度は抽出物から調製した分析用溶液中の値であり、もとの葉の乾燥重量あたりの含有量ではありません。
抗酸化力は、DPPHとABTSという2種類の「ラジカル」(反応性の高い不安定な分子)を、抽出物がどれだけ消去できるかで評価しました。酵素阻害の試験では、AChE(デンキウナギ由来)、BChE(ウマ血清由来)、AG(酵母由来)に抽出物を加えました。そして、酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度(IC50)を求めました。IC50は値が小さいほど阻害力が強いことを示します。比較の基準には、既存の阻害薬であるタクリン(コリンエステラーゼ用)とアカルボース(AG用)を用いました。
最後に、抽出物に多く含まれていた成分について分子ドッキングを行いました。これは、化合物が酵素の作用部位にどのような向きで、どれくらい安定して収まるかをコンピューターで予測する方法です。研究チームは、既知の結合構造を再現できるかを確かめることで、計算手順の信頼性も検証しています。
主な結果
分析の結果、葉の抽出物で特に多かったのは、フラボノイドの一種であるケルセチンとミリセチンでした。フェノール酸類では、バニリン酸とフマル酸が多く含まれていました。ほかにエラグ酸、カフェ酸、4-ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸なども相当量検出されました。レスベラトロールなどは少量でしたが、研究チームは、成分の多様性を形づくる一部になっていると述べています。この組成から研究チームは、葉の抽出物がフラボノール(フラボノイドの一系統)を中心に、多様なフェノール酸を併せ持つことを示しました。
抗酸化力の試験では、ラジカル消去率がDPPHで19.41%、ABTSで10.59%でした。基準物質のトロロックス(DPPH 74.53%、ABTS 78.92%)と比べると、大幅に低い値でした。
酵素阻害の試験では、抽出物はAChE、BChE、AGの三つすべてを阻害しました。予想どおり、基準となる阻害薬のほうがIC50は小さく、阻害力は上でした。それでも研究チームは、抽出物が同じ濃度範囲で相当の阻害活性を示したと報告しています。
分子ドッキングでは、主要成分がそれぞれの酵素の作用部位に収まりうることが示されました。AGについては、ケルセチンのほうが計算上わずかに有利な結合スコアを示しましたが、比較した成分との差は小さいものでした。研究チームは、これらの計算結果が、主要なフェノール成分が酵素阻害に寄与している可能性を裏付けるものだと位置づけています。
この研究が示すこと
この研究は、これまで萼ほど調べられてこなかったローゼルの葉について、フラボノイドとフェノール酸を豊富に含むことを示しました。そのうえで、アルツハイマー病や糖尿病に関わる三つの酵素を、試験管内でいずれも阻害しうることを報告しています。
ただし研究チームは、今回の結果が試験管内での酵素阻害の「可能性」を示すものであり、治療効果を直接示すものではないと明言しています。また、量の少ない成分が個別に、あるいは組み合わさってどれだけ作用に寄与しているかも、今回の研究では確かめられていません。食べ慣れた葉物野菜としてのローゼルの葉に、こうした成分の組み合わせがあることを分子レベルで描き出した点が、この研究の主な意味といえます。
原著論文の著者・所属:Ashwell Rungano Ndhlala(Green Biotechnologies Research Centre, School of Agricultural and Environmental Sciences, University of Limpopo, Private Bag X1106, Sovenga 0727, South Africa)、Emrah Dikici(Central Researching Laboratory, Agri Ibrahim Cecen University, Agri 04100, Türkiye; Dogubayazit Ahmed-i Hani Vocational School, Agri Ibrahim Cecen University, Agri 04400, Türkiye)、Sevgi Altın(Department of Chemistry, Faculty of Science and Art, Erzincan Binali Yıldırım University, Erzincan 24100, Türkiye)、Arzu Kavaz Yüksel(Department of Food Technology, Technical Sciences Vocational School, Atatürk University, Erzurum 25030, Türkiye)、Mesut Işık(Department of Bioengineering, Faculty of Engineering, Bilecik Şeyh Edebali University, Bilecik 11230, Türkiye)、Ahmet Gokhan Aggul(Department of Biochemistry, Faculty of Pharmacy, Agrı Ibrahim Cecen University, Agri 04100, Türkiye)、Ekrem Köksal(Department of Chemistry, Faculty of Science and Art, Erzincan Binali Yıldırım University, Erzincan 24100, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ashwell Rungano Ndhlala, Emrah Dikici, Sevgi Altın, et al. Phytochemical Phenolic Profile, Cholinesterase and α-Glucosidase Inhibitory Activities Rationalized by Molecular Docking, and Antioxidant Capacity of Hibiscus sabdariffa. Molecules 2026-09-23. DOI: 10.3390/molecules31193374. 原著ライセンス:CC BY.