著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Food and Bioprocess Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
植物に含まれるポリフェノールなどの生理活性成分は、食品、医薬品、化粧品などの分野で関心を集めています。著者らは、乳酸発酵させた野菜や果物がこうした成分の供給源になりうる点に注目しました。発酵の過程では微生物の働きで成分が新たに生じたり、構造が変わったりします。ただ、これまでの研究の多くは発酵食品をそのまま食べることを扱っており、成分を濃縮して取り出す原料として見た研究はあまり進んでいないと、著者らは指摘しています。
そこで研究チームは、抽出の方法、抽出前の乾燥のしかた、原料となる発酵食品の種類という三つの条件に注目しました。これらが、抽出物の得られる量、抗酸化活性、総ポリフェノール量、化学的な成分の傾向にどう影響するかを調べることが、この研究の目的です。
何をどのように調べたか
材料には14種類の発酵食品を使いました。ニンジン、カリフラワー、セロリ、キムチ、レモン、ラディッシュ、ビーツ、キュウリで、同じ野菜でも製造元やレシピが異なる製品を複数含みます。いずれもスターター菌を加えず、塩水と香辛料で自然に乳酸発酵させたものです。多くはポーランドの家族経営の生産者から入手し、ビーツとキュウリは著者らが伝統的な家庭のレシピで作りました。
抽出前の処理として、50℃の温風で24時間乾かす方法と、凍結乾燥(凍らせたまま水分を抜く方法)の2通りを比べました。抽出には3つの方法を使いました。一つ目は超臨界流体抽出で、高圧下で液体と気体の中間の状態になった二酸化炭素に、少量のエタノールを加えて成分を溶かし出します。二つ目は加圧溶媒抽出で、エタノールに熱と圧力をかけて短時間で抽出します。三つ目は、エタノールに24時間浸す従来型の浸漬抽出です。
得られた抽出物について、研究チームは抽出量、DPPH法による抗酸化活性、総ポリフェノール量を測りました。さらに、質量分析による成分の「指紋」のような比較と、脂肪酸の組成も分析しました。
主な結果
抽出物の得られる量では、抽出法の違いが全体のばらつきの54.2%を説明し、最も大きな要因でした。加圧溶媒抽出はすべての原料で最も多くの抽出物を得ており、最大はキュウリの一製品の31%、キムチの29%でした。超臨界流体抽出の抽出量は低めでした。加圧溶媒抽出では14原料中10原料で凍結乾燥のほうが抽出量が多くなりましたが、温風乾燥のほうが優れた原料もありました。著者らは、最適な前処理は原料によって異なるとしています。
抗酸化活性は、超臨界流体抽出で得た抽出物が最も高く、浸漬抽出が最も低くなりました。最高値は温風乾燥したビーツの超臨界流体抽出物で、乾燥重量1グラムあたり51.6マイクロモル(トロロックス相当量)でした。同じビーツでも凍結乾燥したものでは27.2に下がっていました。抗酸化活性には、原料の種類と、原料と抽出法の組み合わせが大きく影響していました。
総ポリフェノール量は原料の種類による違いが大きく、抽出法ごとの平均値はほぼ同程度でした。また、どの抽出法でも温風乾燥のほうがおおむね高い値になりました。抗酸化活性とポリフェノール量の高低は必ずしも一致しませんでした。著者らは、ポリフェノール以外の抗酸化成分が一緒に抽出された可能性や、測定法そのものの限界を挙げています。
質量分析による比較では、ある抽出法でしか検出されなかった信号の数は、超臨界流体抽出と浸漬抽出で同程度(各32)、加圧溶媒抽出でやや少なめ(23)でした。どの抽出法も、すべての原料に共通する独自の成分パターンを捉えたわけではありませんでした。乾燥方法の影響も、原料と抽出法によって向きが変わりました。
脂肪酸では、飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸を最も多く取り出したのが超臨界流体抽出でした。多価不飽和脂肪酸は浸漬抽出で最も多くなりました。抽出法によって、取り出しやすい脂肪酸の種類が違うことが示されました。
研究が示すこと
この研究から分かるのは、発酵野菜から成分を取り出すとき、あらゆる目的に最適な単一の方法があるわけではないということです。抽出法は抽出量、抗酸化活性、脂肪酸の種類などにそれぞれ異なる形で影響し、乾燥方法の効果も原料ごとに違っていました。著者らは、これらの抽出法を互いに代わりになるものではなく、得意な成分が異なる補い合う手段と位置づけています。狙う成分に合わせて処理条件を選ぶことの重要性が示されたといえます。
なお、原料間の差は分析した個々の製品に固有のもので、野菜の種類そのものの違いとして一般化すべきではないと著者らは注意しています。
著者:Agnieszka Ludwiczak(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Miłosz Wasicki(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Aneta Krakowska‐Sieprawska(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Justyna Walczak‐Skierska(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Kacper Roszak(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Michalina Ehlert(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Aleksandra Florkiewicz(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Joanna Rudnicka(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Katarzyna Rafińska(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Sylwia Wrotek(Department of Immunology, Faculty of Biological and Veterinary Sciences, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Lwowska 1, 87-100, Toruń, Poland)、Małgorzata Szultka‐Młyńska(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)、Paweł Pomastowski(BioColl, Centre for Modern Interdisciplinary Technologies, Institute of Advanced Studies, Nicolaus Copernicus University in Toruń, Wileńska 4, 87-100, Toruń, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Agnieszka Ludwiczak, Miłosz Wasicki, Aneta Krakowska‐Sieprawska, et al. Modulating Extraction and Pre-Extraction Processing for Selective Recovery of Bioactives from Fermented Plant Foods. Food and Bioprocess Technology 2026-10-01. DOI: 10.1007/s11947-026-04618-1. 原著ライセンス:CC BY.