著者の所属・活動拠点の国は、スロバキア、ポーランドです。

掲載誌:Food and Humanity

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

品質を厳しく評価して選び抜かれる「スペシャルティコーヒー」の市場では、新しい加工方法が次々に登場しています。そのひとつが、収穫・乾燥を終えた生豆を数か月後に木の樽で漬け込み、改めて発酵させる「二次発酵」です。香りや味わいに独特の個性を与える手法として注目されていますが、豆の成分や衛生面にどう関わるかはよく分かっていませんでした。

著者らは、ワイン造りで大量に出るブドウの搾りかす(果皮・種・果肉・茎など)にも注目しました。搾りかすにはポリフェノールなどの成分が多く含まれ、副産物を有効に使う方法として関心が高まっています。研究チームは、こうした搾りかすとともに樫の樽で二次発酵されたスペシャルティコーヒー豆について、生豆と焙煎豆の成分、色、微生物の状態を調べました。

何をどう調べたか

対象は、パナマ産とパプアニューギニア産のアラビカ種コーヒー豆です。いずれも生産者の段階で、ハンガリー・トカイ地方のフルミント種ブドウの搾りかすとともに樫樽で6〜8週間二次発酵された市販品で、スロバキアの焙煎業者の協力で入手されました。そのため、発酵の手順や期間、関わった微生物などの条件は研究チームが管理したものではありません。

研究チームは、生豆と焙煎豆のそれぞれについて、高精度の質量分析でクロロゲン酸類などの生理活性成分を種類ごとに定量しました。クロロゲン酸類はコーヒー豆に多く含まれるポリフェノールの一群で、品質の指標ともされる成分です。あわせて、総ポリフェノール量、抗酸化能(不安定な分子を消去する力を試薬で測る方法)、豆の色、細菌やカビ・酵母の数も測定しました。

主な結果

生豆では、生理活性成分の総量がパナマ産で乾燥重量1グラムあたり83.06ミリグラム、パプアニューギニア産で66.55ミリグラムと、パナマ産が有意に多い結果でした。焙煎豆では両産地とも同じ種類の成分が確認され、総量はパナマ産53.20ミリグラム、パプアニューギニア産52.49ミリグラムで、産地間に有意な差はみられませんでした。焙煎豆で最も多かったのは「トランス型5-O-カフェオイルキナ酸」という成分で、それぞれ20.40ミリグラム、19.30ミリグラムでした。焙煎によるこの成分の減少は、パナマ産で49%、パプアニューギニア産で36%と報告されています。

総ポリフェノール量は産地によって違いがありましたが、生豆と焙煎豆の間では有意な差はありませんでした。抗酸化能は産地と、生豆か焙煎豆かの両方に左右され、パプアニューギニア産では焙煎豆のほうが生豆より高い値を示しました。著者らは、焙煎中に抗酸化性をもつ褐色の物質ができることなどが関わる可能性を挙げています。

微生物については、生豆の一般細菌数が1グラムあたりおよそ10の3.8乗〜4.3乗個だったのに対し、焙煎後は検出限界未満に下がりました。カビ・酵母も焙煎豆ではほとんどが検出限界未満でした。一方、パナマ産の生豆を挽いた試料ではカビ・酵母がやや多く、著者らは保管中などの二次的な汚染の可能性を指摘しています。

研究が示すこと

著者らは、他の産地のスペシャルティコーヒーに関する過去の報告と比べ、今回の豆では焙煎後も生理活性成分やポリフェノールが比較的多く保たれていたことから、搾りかすを使った二次発酵がこれらの成分の維持に役立つ可能性があると考察しています。ただし、同じロットで発酵させていない比較用の豆がなく、発酵条件も管理できなかったため、差が二次発酵、搾りかす、樫樽、焙煎のどれによるものかは区別できないと著者ら自身が明記しています。

この研究は、市場に出回る二次発酵スペシャルティコーヒーがどのような成分や微生物の状態にあるのかを記述した報告であり、二次発酵の効果を因果的に証明したものではありません。焙煎が成分と衛生状態の両方に大きく影響することを確かめつつ、ワインの副産物を使った新しい加工コーヒーの特徴を具体的な数値で示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Matúš Várady(Department of Food Hygiene, Technology and Safety, University of Veterinary Medicine and Pharmacy, Komenského 73, 041 81 Košice, Slovakia)、Sylwester Ślusarczyk(Department of Pharmaceutical Biology and Biotechnology, Wroclaw Medical University, Borowska 211, 50-556 Wroclaw, Poland)、Pavlína Jevinová(Department of Food Hygiene, Technology and Safety, University of Veterinary Medicine and Pharmacy, Komenského 73, 041 81 Košice, Slovakia)、Mariana Kováčová(Department of Food Hygiene, Technology and Safety, University of Veterinary Medicine and Pharmacy, Komenského 73, 041 81 Košice, Slovakia)、Peter Popelka(Department of Food Hygiene, Technology and Safety, University of Veterinary Medicine and Pharmacy, Komenského 73, 041 81 Košice, Slovakia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Matúš Várady, Sylwester Ślusarczyk, Pavlína Jevinová, et al. Evaluation of some quality attributes of secondary-fermented coffee beans from the specialty coffee market. Food and Humanity 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.foohum.2026.101461. 原著ライセンス:CC BY.