著者の所属・活動拠点の国は、マレーシア、インドネシアです。

掲載誌:Canrea Journal Food Technology Nutritions and Culinary Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

水出しコーヒーと「水」の関係を調べる

水出しコーヒー(コールドブリュー)は、挽いたコーヒー豆を冷水や室温の水に長時間浸して成分を引き出す飲み物です。お湯で淹れたコーヒーよりも口当たりがまろやかで、酸味や苦味が穏やかだとして人気が高まっています。

コーヒーの味や成分は、豆の産地、焙煎の度合い、挽き方、豆と水の比率、抽出時間などに左右されます。完成した飲み物の98%以上は水ですが、水の性質が水出しコーヒーにどう影響するかを系統的に調べた研究は限られていると研究チームは指摘しています。これまでの研究の多くはエスプレッソやドリップなどの熱い抽出を対象としており、温度や成分の溶け出し方が大きく異なる水出しにはその結果をそのまま当てはめられません。

そこで研究チームは、身近な7種類の水で水出しコーヒーを作り、色や酸性度などの性質、抗酸化に関わる成分や働き、そして飲んだ人の評価がどう違うかを比べました。水選びの目安となる数値的な根拠を示すことが目的です。

7種類の水と2種類の焙煎豆で比較

使われたのは、マレーシアで広く栽培されているリベリカ種のコーヒー豆で、浅煎りと深煎りの2種類です。水は、ミネラルウォーター、飲料水、アルカリイオン水、逆浸透膜(RO)でろ過した水、水道水、蒸留水、脱イオン水の7種類でした。

挽いた豆10グラムに4℃に冷やした水100ミリリットルを加え、光を遮って4℃で24時間置いたあと、ろ紙でこして試料としました。研究チームは、色、pH(酸性の度合い)、溶け込んだ成分の量の目安となる可溶性固形分、カフェイン量を測定しました。さらに、ポリフェノールなどのフェノール化合物の総量、その一部であるフラボノイドの総量、そして試験管内の化学反応で抗酸化の働きを評価する2種類の測定法(DPPH法とFRAP法)を用いました。

味の評価では、訓練を受けていない50人の参加者が、ミネラルウォーター、飲料水、アルカリイオン水、RO水の4種類で淹れたコーヒーについて、香り、酸味、苦味、後味、総合的な好ましさを9段階で採点しました。加えて、多数の測定項目の関係をまとめて見る統計手法(主成分分析など)で、水の違いと成分の出方の関係を分析しました。

成分や抗酸化の働きは水で変わり、味の評価には有意差なし

著者らによると、水の種類は性質や抗酸化に関わる項目に統計的に意味のある違いをもたらしました。浅煎りでは、ミネラルウォーターで淹れたものがpH5.47と最も高く、酸性がやや弱めでした。フェノール化合物の総量は挽いた豆1グラムあたり没食子酸換算で16.60ミリグラム、フラボノイドの総量は1グラムあたりケルセチン換算で6.28ミリグラムといずれも高い値を示しました。研究チームは、これを有用成分の抽出が高まったことを示すものと解釈しています。

一方、抗酸化の働きを測る試験では、アルカリイオン水が高い値を示しました。浅煎りではDPPH法で8.29%、FRAP法でアスコルビン酸換算21.67(mg/g)と、どちらも7種類の中で最も高い値でした。フェノール化合物の量が最も多かった水と、抗酸化の働きが最も強かった水が一致しなかった点について、著者らは、働きの強さは成分の量だけでなく、成分の構造や状態にも左右されるためと考察しています。

カフェイン量は、浅煎りでは水道水が100ミリリットルあたり161.18ミリグラムで最も多くなりました。深煎りでは飲料水と水道水で特に多い値が出ています。また、溶け込んだ成分の総量が多いからといってカフェインも多いとは限らず、水の組成によって溶け出しやすい成分が異なる可能性が示されました。

焙煎の度合いの影響も大きく、深煎りはどの水で淹れてもフェノール化合物やフラボノイドの量、抗酸化の働きが浅煎りより低く、pHは高めでした。pHについては、水の種類よりも焙煎度の影響のほうが強かったと報告されています。

これに対して、香り、酸味、苦味、後味、総合的な好ましさの評価には、水の種類による統計的に意味のある差は見られませんでした。RO水で淹れたものが浅煎り・深煎りとも総合評価でやや高い傾向を示したものの、有意な差ではありません。多変量解析でも、飲んだ人の好みはフェノール化合物の量と直接には結びついていないことが示されました。

研究が示すこと

この研究は、水出しコーヒーにおいて、淹れる水の種類が成分の溶け出し方や抗酸化に関わる測定値を変える一方で、今回の参加者による味の評価には大きな差として表れなかったことを示しています。ここでいう抗酸化の働きは試験管内の測定値であり、飲んだときの体への作用を調べたものではありません。

なお、水の成分がどのような仕組みで抽出に影響するのかという解釈は観察された傾向に基づくもので、著者らは、検証には水の組成を詳しく分析する必要があると述べています。それでも、水出しコーヒーの品質を考えるうえで、豆や焙煎だけでなく「どの水を使うか」も重要な要素であることを、数値で示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Nurul Shaiedah Zulkifli(Food Science and Technology Program, School of Industrial Technology, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Nuraina Azira Azhar(Food Science and Technology Program, School of Industrial Technology, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Nuratikah Abdullah(Food Science and Technology Program, School of Industrial Technology, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Siti Rashima Romli(Food Science Research Group, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia; Food Science and Technology Program, School of Industrial Technology, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Lay Jing Seow(Faculty of Pharmacy and Health Sciences, Royal College of Medicine Perak, Universiti Kuala Lumpur, 30450 Ipoh, Perak, Malaysia)、Addion Nizori(Agricultural Product Technology Study Program, Faculty of Agriculture, Jambi University, Pondok Meja Campus, Jl. Tribrata Km.11, Jambi, Indonesia)、Feri Eko Hermanto(Department of Intelligent Livestock Industry, Faculty of Animal Science and Technology, Universitas Brawijaya, Malang 65145, Indonesia)、Eng Keng Seow(Food Science Research Group, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia; Food Science and Technology Program, School of Industrial Technology, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia; Integrated Nutrition Science and Therapy Research Group (INSPiRE), Faculty of Health Sciences, Universiti Teknologi MARA, Selangor Branch, 42300 Bandar Puncak Alam, Selangor, Malaysia; Integrative Pharmacogenomics Institute (iPROMISE), Universiti Teknologi MARA, Selangor Branch, 42300 Bandar Puncak Alam, Selangor, Malaysia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nurul Shaiedah Zulkifli, Nuraina Azira Azhar, Nuratikah Abdullah, et al. Impact of brewing water type on the physicochemical, antioxidant, and sensory quality of cold brew coffee. Canrea Journal Food Technology Nutritions and Culinary Journal 2026-08-16. DOI: 10.20956/canrea.v9i2.2240. 原著ライセンス:CC BY.