著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:The Bioscan.

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

伝統の発酵飲料にすむ乳酸菌を調べる

インドには、世代を超えて受け継がれてきた発酵食品や発酵飲料が数多くあります。その多くは、どのような微生物が発酵を担っているのか、科学的にはまだ十分に調べられていません。著者らはこうした伝統食品を、役に立つ微生物を探す場として注目しました。

研究チームが取り上げたのは、南インドのカルナータカ州の農村で飲まれてきた二つの植物由来の発酵飲料です。一つはクジャクヤシ(Caryota urens)の花序を切って採った樹液を自然発酵させた「トディ」、もう一つはバナナの偽茎(葉の付け根が重なって幹のように見える部分)から採った樹液です。論文によると、これらに含まれる乳酸菌は、これまで詳しく調べられていませんでした。

乳酸菌は糖を分解して乳酸などをつくる細菌の総称で、発酵食品の保存性や風味に関わります。その中でもロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)は、乳酸のほかに二酸化炭素やエタノールなども生じる「ヘテロ発酵型」の種です。乳酸菌の研究ではラクトバチルスやビフィドバクテリウムが詳しく調べられてきましたが、この種、とくに乳製品以外の植物性の伝統発酵食品に由来する菌は、まだ研究が少ないとされています。そこで著者らは、二つの飲料からこの菌を分離して種を確かめ、プロバイオティクスとしての性質を備えているかを調べました。プロバイオティクスとは、体に良い働きが期待される生きた微生物を指します。

六つの菌株を分離し、多角的に性質を調べた

研究チームは、コダグ地区の農家からクジャクヤシのトディを、マンディヤ地区の農家からバナナ偽茎の樹液を集めました。そこから乳酸菌のコロニーを六つ選び、純粋な菌株として分離しました。トディ由来の三株にはFBN、バナナ偽茎樹液由来の三株にはBPSで始まる名前が付けられています。

菌の種類は、16S rRNA遺伝子の塩基配列を読んで判定しました。この遺伝子は細菌の分類によく使われる「名札」のような遺伝子で、データベース上の既知の配列と比べることで種が分かります。その結果、六株はいずれもロイコノストック・メセンテロイデスと同定されました。系統解析からは、同じ種の中でもある程度の遺伝的な違いがあることも示されました。

続いて、プロバイオティクスの候補として求められる性質を、試験管や寒天培地を使った実験で調べました。調べた項目は、塩分・温度・酸・胆汁酸への耐性、利用できる糖の種類、抗生物質への感受性、血液の赤血球を壊すかどうか(溶血性)、食中毒菌などへの抗菌作用です。さらに、胃液や腸液をまねた液の中での生き残り、細胞表面の性質(疎水性)、菌どうしが集まる性質、病原菌と一緒に集まる性質も調べました。

主な結果:安全性の目安を満たし、胃腸を模した条件でも生き残った

六株はいずれも胆汁酸に耐え、さまざまな糖を発酵させました。ただし、強い条件への耐性には由来による違いがありました。トディ由来の三株は、pH2という強い酸性、7%という高い塩分、より高い温度でも育ちました。一方、バナナ偽茎樹液由来の三株は、これらの条件では育ちませんでした。乳糖とラフィノースを利用できたのも、トディ由来の三株だけでした。

安全性の目安として、全株がアンピシリンやクロラムフェニコールなどの抗生物質に感受性を示しました。バンコマイシンとストレプトマイシンには全株が耐性でしたが、著者らはこれをこの菌の仲間がもともと持つ性質だと説明しています。また、どの株も赤血球を壊す溶血性を示しませんでした。

抗菌作用の試験では、菌の培養液から菌体を除いた上澄み液を使いました。全株の上澄み液が病原菌の増殖を抑え、とくに食中毒の原因菌であるリステリア・モノサイトゲネスに対しては、比較に使った抗生物質と同程度の阻止範囲を示しました。黄色ブドウ球菌や大腸菌などへの効き方は株によって異なりました。

胃液を模した酸性の液に1時間さらした後も、各株の54〜65%が生き残っていました。腸液を模した液に4時間さらした後は、生存率は46〜52%でした。細胞表面の疎水性、菌どうしが集まる性質、大腸菌などの病原菌と一緒に集まる性質も、全株で確認されました。なかでも、トディ由来のFBN7とバナナ偽茎樹液由来のBPS4が、多くの試験で特に優れた成績を示しました。

伝統の発酵が育む微生物の価値

著者らは、クジャクヤシのトディとバナナ偽茎樹液という植物性の伝統発酵飲料が、プロバイオティクスとしての性質を備えたロイコノストック・メセンテロイデスのすみかになっていると結論づけています。そして、この成果が伝統的な発酵の営みを記録し、守っていくための微生物学的な裏付けになるとしています。

一方で、今回の結果は実験室内の試験で得られたものです。著者ら自身も、実際に利用する前には、全ゲノムに基づく安全性の評価や、生体での検証などが欠かせないと述べています。地域で受け継がれてきた発酵飲料の中に、性質の異なる多様な乳酸菌が息づいていることを示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Sadhana Vittalapura Jayaramu(Research scholar , Department of Studies in Food Technology Shivagangotri , Davangere University , Davangere - 577007 , India)、Harisha Chiradoni Ravi(Research scholar , Department of Studies in Food Technology Shivagangotri , Davangere University , Davangere - 577007 , India)、Pramod Machimada Appaiah(Research scholar , Department of Studies in Food Technology Shivagangotri , Davangere University , Davangere - 577007 , India)、Keelara Veerappa Harish Prashanth(Principal scientist, Department of Biochemistry, CSIR-Central Food Technological Research Institute, Mysore-570020, India.)、Shankar Jayarama(Professor, Department of Studies in Food Technology Shivagangotri , Davangere University , Davangere - 577007 , India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sadhana Vittalapura Jayaramu, Harisha Chiradoni Ravi, Pramod Machimada Appaiah, et al. Traditionally fermented beverages fishtail palm toddy and banana pseudo- stem sap as reservoirs of Leuconostoc mesenteroides with probiotic potential. The Bioscan. 2026-08-17. DOI: 10.63001/tbs.2026.v21.i03.s.i(3).pp1189-1209. 原著ライセンス:CC BY.