著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

中国式蒸しパン(饅頭、マントウ)は中国を代表する小麦の主食です。現在の製造では、市販のパン酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)が広く使われています。速く安定してふくらむ一方で、伝統的なサワー種(乳酸菌と酵母が共存する発酵種)で作ったものに比べ、香りが単調になりやすいとされています。ただし、自然発生的な伝統サワー種は微生物の構成が安定しにくく、品質をそろえにくいという課題があります。

そこで研究チームは、性質のわかった微生物だけを組み合わせた「複合サワー種」に注目しました。パン酵母とは別の種類の酵母(非サッカロマイセス酵母)と乳酸菌を組み合わせ、生地の作り方の違いと合わせて、蒸しパンができるまでの香り成分(揮発性成分)の変化を調べることを目的としました。

何をどのように調べたか

研究では、中国の伝統発酵食品から分離された3株を使いました。酵母のウィッカーハモマイセス・アノマルス CRFSZY16またはクルイベロマイセス・マルキシアヌス FYY7のどちらか一方を、乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルム SDgsM3と組み合わせ、2種類の複合サワー種(それぞれW型、K型)を作りました。事前に各株の増殖、糖・塩・酸・エタノールへの耐性、酸を作る力、予備的な安全性も確認しています。安全性については、限られた項目による予備的な確認にとどまると著者らは述べています。

生地の作り方は2通り比べました。一つは熟成したサワー種をそのまま本生地に混ぜる直接発酵法です。もう一つは、中種と呼ばれる前段階の生地を4〜8℃で24時間冷蔵してから本生地にする冷蔵中種法です。比較対象として、市販のインスタントドライイーストを使った生地も用意しました。

香り成分は、熟成サワー種、冷蔵後の中種、最終発酵を終えた本生地、蒸しパンの各段階で分析しました。分析には、試料から立ちのぼる成分を集めて分離・同定する方法(ガスクロマトグラフィー質量分析)を使い、独立に作った5回分の発酵試料を調べました。成分量は内部標準物質に対する相対値で示しており、実際の濃度ではありません。この記事では、資料で確認できた発酵種と生地段階の結果を中心に紹介します。

主な結果

熟成サワー種と冷蔵後の中種を比べると、冷蔵中種のほうが香り成分の合計シグナルが高くなりました。増え方はW型で約2.25倍、K型で約1.61倍でした。冷蔵後は、成分全体に占めるアルデヒド類の割合が33%(W型)と32%(K型)に高まりました。成分別にみると、1-ヘキサノールやヘキサナールが増え、熟成サワー種に多かったフェニルエチルアルコールや酢酸2-フェニルエチルは大きく減るか検出されなくなりました。著者らは、すべての成分が一様に増えたのではなく、構成が選択的に組み替わったと解釈しています。

同じ冷蔵工程でも、酵母の種類によって目立つ成分は異なりました。K型の冷蔵中種では3-メチル-1-ブタノールが特に目立ちました。W型では、1-ヘキサノール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、ベンゼンアセトアルデヒドが比較的多くなりました。

最終発酵後の本生地では、W型を冷蔵中種法で作った生地の合計シグナルが最も高くなりました。市販イースト生地と比べると、W型・直接発酵法で約41.0%、W型・冷蔵中種法で約169.1%、K型・冷蔵中種法で約64.8%高い値でした。一方、K型・直接発酵法では約14.8%低くなりました。市販イースト生地は、オクタン酸エチルなど一部のエチルエステル類が比較的多いという特徴を示しました。

なお、論文では各成分に文献上の香りの表現(青臭さ、果実様、花様など)を対応づけています。ただし、官能評価などは行っていません。そのため著者らは、実際にその香りが感じられるかはこの結果からは判断できないと明記しています。

この研究が示すこと

この研究は、中国式蒸しパンの香り成分の組み立てが、組み合わせる酵母の株と工程の選び方の両方に左右されることを示しました。特に、同じ冷蔵中種法を使っても、酵母の株によって香り成分の変化の大きさや中身が異なっていました。目指す香りに合わせてサワー種を設計するには、株ごとの性質に応じて工程を選ぶ必要があることを示唆する結果です。

原著論文の著者・所属:Xinyuan Hu(Henan Key Laboratory of Cereal Science and Technology, College of Food Science and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Yuxia Yang(Henan Key Laboratory of Cereal Science and Technology, College of Food Science and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Yue Li(Henan Key Laboratory of Cereal Science and Technology, College of Food Science and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Renyong Zhao(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China; Henan Key Laboratory of Cereal Science and Technology, College of Food Science and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; National Engineering Research Center for Wheat & Corn Further Processing, Zhengzhou 450001, China)、Shuangqi Tian(Henan Key Laboratory of Cereal Science and Technology, College of Food Science and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Zhanpeng Liu(Henan Key Laboratory of Cereal Science and Technology, College of Food Science and Technology, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xinyuan Hu, Yuxia Yang, Yue Li, et al. Fermentation Strategy and Non-Saccharomyces Yeast Strain Identity Jointly Shape Volatile Profiles in Chinese Steamed Bread Produced with Defined Composite Sourdoughs. Foods 2026-08-29. DOI: 10.3390/foods15173064. 原著ライセンス:CC BY.