著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。
掲載誌:Frontiers in Pediatrics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ地中海食に注目したのか
ここ数十年、炎症性腸疾患などの慢性の消化器病は、世界的に患者数が増えていると報告されています。著者らは、その背景として遺伝的な体質だけでなく、生涯を通じて受ける環境要因の総体である「エクスポソーム」の影響を重視しています。エクスポソームには、気候、大気汚染、食事、喫煙、運動といった外からの要因に加え、体内の生物学的な反応も含まれます。
なかでも食事は、腸内に住む細菌の集まりである腸内細菌叢の構成や働きを左右する要因として位置づけられています。この総説は、オリーブオイルなどに多い一価不飽和脂肪酸、植物由来のポリフェノール、食物繊維を豊富に含む地中海食について、慢性の消化器病や代謝の病気を予防し、治療を助ける役割を文献から評価することを目的としています。
何を調べたのか
著者らは既存の研究を分析し、地中海食が腸の健康に働きかける仕組みと、臨床での影響をまとめました。取り上げた病気は、小児の炎症性腸疾患、セリアック病などのグルテン関連疾患、腸と脳の相互作用の不調として捉えられる機能性消化管疾患、そして代謝の異常に伴って肝臓に脂肪がたまる代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)です。
仕組みについて、論文は次のように整理しています。地中海食に多い発酵されやすい食物繊維などは有益な腸内細菌のえさとなり、短鎖脂肪酸の産生を促します。短鎖脂肪酸は、腸の内側を覆う細胞の層が有害物質を通さない「バリア機能」の維持に重要とされます。著者らは、地中海食が腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)を改善して細菌の多様性を高め、炎症を促す物質を抑え、腸の粘膜の免疫を強めると述べています。
病気ごとに報告された内容
小児の炎症性腸疾患については、地中海食をよく守っている人ほど病気の活動性が低いという関連が、臨床データから示されていると論文はまとめています。
グルテン関連疾患では、治療の基本となるグルテン除去食に課題があると指摘されています。市販のグルテンフリー食品は血糖値を上げやすく、脂質や塩分が多い一方で、葉酸や食物繊維が不足しがちです。研究では、セリアック病の患者は健康な人より地中海食の実践度が低い傾向が報告されています。また、厳格なグルテン除去食は肥満や脂質異常、インスリン抵抗性などの心臓・代謝のリスクや、骨密度の低下と関連すると紹介されています。そこで著者らは、グルテン除去と地中海食の原則を組み合わせた食事モデルを有用な選択肢として挙げ、栄養士による指導の必要性を述べています。
機能性消化管疾患は、生涯のどこかで世界人口の40%以上が経験するとされ、小児消化器科への紹介の約半数を占めると記されています。こうした病気の子どもの93%以上が、特定の食べ物で症状が出たり良くなったりすると答えているといいます。論文は、地中海食の実践度が低いほど症状が重いという相関や、過敏性腸症候群で地中海食が従来の食事指導より優れていたとする最近の報告を紹介しています。ただし著者らは、この分野での地中海食の正確な役割はさらに検討が必要だとしています。
MASLDについては、地中海食の実践度が高いほど重い脂肪肝や脂肪性肝炎のリスクが低いという関連が報告されています。MASLD患者62人を対象とした2年間の臨床試験では、地中海食と運動を続けることで、肝臓内の脂肪量や肝酵素が大きく減り、血中脂質も改善したと紹介されています。一方で、低脂肪食も地中海食と同程度に脂肪肝や線維化を減らしたという報告や、地中海食の効果はBMIや中性脂肪に対して中程度で、ほかの積極的な食事療法より明らかに優れるとはいえないとする系統的レビューとメタ解析の結果も併せて示されています。
この総説が伝えること
著者らは、地中海食が腸内細菌の乱れと炎症に働きかけることで、消化器や代謝の病気の負担を軽くする、生活習慣に基づく有望な方法になりうると結論づけています。ただし、病気によって裏づけの強さには差があります。また、新鮮な食材の価格や入手しやすさ、経済的な事情、栄養に関する知識の差といった、実生活で取り入れる際の壁も挙げています。地中海地域以外の人々に合わせて取り入れるには、一人ひとりに応じた臨床的な助言が必要だと著者らは述べています。
原著論文の著者・所属:Ioanna Argyri(2nd Department of Pediatrics, Children’s Hospital “P. & A. Kyriakou”, National and Kapodistrian University of Athens)、Dimitra-Ifigeneia Matara(2nd Department of Pediatrics, Children’s Hospital “P. & A. Kyriakou”, National and Kapodistrian University of Athens)、Theodora Bachou(2nd Department of Pediatrics, Children’s Hospital “P. & A. Kyriakou”, National and Kapodistrian University of Athens)、Lida Mentesidou(2nd Department of Pediatrics, Children’s Hospital “P. & A. Kyriakou”, National and Kapodistrian University of Athens)、Aglaia Zellos(2nd Department of Pediatrics, Children’s Hospital “P. & A. Kyriakou”, National and Kapodistrian University of Athens)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ioanna Argyri, Dimitra-Ifigeneia Matara, Theodora Bachou, et al. The rising burden of chronic gastrointestinal diseases: the role of Mediterranean diet. Frontiers in Pediatrics 2026-11-03. DOI: 10.3389/fped.2026.1928678. 原著ライセンス:CC BY.