著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、飲酒が主な原因ではないのに肝臓に脂肪が過剰にたまる慢性の肝臓病です。論文によれば、この病気では脂肪の蓄積に加えて、細胞を傷つける反応性の高い酸素分子(活性酸素)の発生と、それを打ち消す防御とのバランスが崩れます。この状態は酸化ストレスと呼ばれ、病気の進行を後押しする重要な要因とされています。
イタリアの研究チームは、地中海食によく含まれる成分に注目しました。対象は、オレガノやタイムなどの香草に含まれるカルバクロールとチモール、オイゲノールを主成分とするバジル精油、トマトの赤い色素であるリコピンの4種類です。研究の目的は、これらを単独で、また組み合わせて与えたときに、脂肪をため込んだ肝臓由来の培養細胞で、脂肪代謝、酸化ストレス、炎症に関わる指標がどう変わるかを調べることでした。あわせて、低い濃度の組み合わせが、単独成分と同等以上の働きを示すかどうかも検討しています。
どのように調べたか
研究チームはまず、各成分の純度と組成を分析しました。バジル精油では、主成分のオイゲノールが約23%を占めていました。次に、試験管内で有害な分子を消す力(抗酸化活性)を2種類の方法で測定しました。
細胞実験には、肝臓由来の培養細胞株HepG2を用いました。この細胞に遊離脂肪酸を与えて脂肪を蓄積させ、脂肪肝に似た状態を作りました。その後、4成分をそれぞれ、または混合物(合計2マイクロモル濃度)として与えています。調べた項目は、細胞内の脂肪滴の量、脂肪の合成・分解や炎症に関わる遺伝子とたんぱく質の量です。さらに、過酸化水素で酸化ストレスを加えたうえで、脂質が酸化される程度(過酸化脂質)と、DNAの酸化損傷の目印となる8-oxo-dGをもつ細胞の割合も測定しました。
主な結果
試験管内の測定では、4成分すべてが濃度に応じて抗酸化活性を示しました。0.8マイクロモル濃度での阻害率は、バジル精油が約85%で最も高く、カルバクロールは約68%、チモールは約66%、リコピンは約57%でした。細胞の生存率を調べる試験では、0.1〜2.5マイクロモル濃度の範囲で24時間・48時間処理しても、単独・混合のいずれでも細胞への害は見られなかったと報告されています。
脂肪酸を与えた細胞では脂肪滴がはっきり増えましたが、各成分で処理すると蓄積が減りました。論文によると、蛍光染色による解析では、混合物の効果が最も強く表れました。
遺伝子レベルでは、脂肪酸の処理によって、脂肪の蓄積を促すPPARγと炎症に関わる5-LOXが増えていました。一方、脂肪酸を燃焼(β酸化)させるPPARαとCPT1α、脂肪の分解に関わるATGLは減っていました。成分の処理はこれらの変化を逆向きに戻す方向に働きました。PPARγはカルバクロール以外の処理で有意に低下し、低下幅はリコピンで約4.4分の1でした。PPARαとCPT1αはすべての成分で増加しました。PPARαはバジル精油で7.6倍、CPT1αは混合物で13.5倍となり、それぞれ最大の上昇を示しました。ATGLもすべての処理群で5.5〜7.6倍に増えました。5-LOXはカルバクロール、チモール、混合物で有意に減り、混合物では約2.27分の1でした。一方、バジル精油ではこの効果は見られませんでした。たんぱく質の解析でも、5-LOX、PPARα、PPARγについて同様の結果が得られています。
酸化ストレスの実験では、損傷を受けた後に成分を与えた条件で、すべての処理が過酸化脂質を減らしました。最も強い効果を示したのは混合物で、約18分の1まで低下したと報告されています。DNAの酸化損傷を示す細胞の割合は、バジル精油、リコピン、混合物でそれぞれ約1.2分の1、1.6分の1、5分の1に減りました。カルバクロールとチモールの効果は、これらより小さいものでした。
研究が示すこと
著者らは、地中海食由来のこれらの植物成分が、培養細胞の脂肪肝モデルにおいて、酸化による損傷を和らげ、脂肪代謝のバランスを整え、炎症に関わる経路に影響を与えたと結論しています。いくつかの指標では、組み合わせた方が単独よりもはっきりした効果を示しました。ただし、成分どうしがどのように影響し合っているのかは、まだ明らかになっていないとしています。
また、論文は、同じ成分でも濃度や細胞の状態によって働きが変わる点を強調しています。今回の低い濃度では主に細胞を守る方向に働きましたが、著者らの以前の研究では、高い濃度で逆に活性酸素を増やす作用が確認されています。さらに、培養細胞で用いた濃度は、体内での吸収や代謝を考えると、食事から得られる量とそのまま同じには扱えないと注意を促しています。今回の成果は、あくまで細胞レベルでの作用の仕組みを示したものです。動物や人で同じ結果が得られるかどうかは、今後の検証にゆだねられています。
原著論文の著者・所属:Valentina Vassallo(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy; Department of Life Sciences, Health and Health Professions, University of Study Link, 00165 Rome, Italy)、Enrica Giustino(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)、Rosario Finamore(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)、Antonietta Stellavato(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)、Nicola Alessio(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)、Mariateresa Giuliano(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)、Umberto Galderisi(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)、Chiara Schiraldi(Department of Experimental Medicine, Section of Biotechnology, Medical Histology and Molecular Biology, University of Campania “Luigi Vanvitelli”, 80138 Naples, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Valentina Vassallo, Enrica Giustino, Rosario Finamore, et al. Bioactive Ingredients in the Mediterranean Diet for Hepatic Health: In Vitro Evaluation of Selected Extracts Against Non-Alcoholic Steatosis. Molecules 2026-09-29. DOI: 10.3390/molecules31193470. 原著ライセンス:CC BY.