著者の所属・活動拠点の国は、パキスタンです。

掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠中は母体の血液量が増え、胎盤や胎児も成長するため、鉄の必要量が大きく増えます。食事や体内の蓄えでまかなえないと、鉄が不足して赤血球を十分に作れなくなる「鉄欠乏性貧血」が起こります。著者らによると、パキスタンでは妊婦の半数以上が貧血とされ、特に農村部で多いと報告されています。農村部の食事は小麦の薄焼きパンや精白米などの穀物が中心です。穀物に多いフィチン酸(植物に含まれ、鉄の吸収を妨げる成分)などが、植物性食品の鉄の吸収を妨げることも指摘されています。

一方、これまでの評価は血液検査の数値に偏りがちで、貧血が妊婦の体力や気分、日常生活にどう影響しているかは十分に調べられていませんでした。そこで研究チームは、パキスタン北部カイバル・パクトゥンクワ州ハリプル県の農村部に住む妊婦を対象に、三つの課題を調べました。鉄欠乏性貧血がどのくらい多いか、どのような要因と関係するか、そして普段の食事の傾向や健康に関する生活の質とどう結びついているか、です。

何をどのように調べたか

調査は2023年6月から9月にかけて、ハリプル県の公立医療施設で行われました。妊婦健診に訪れた女性を順に登録し、最終的に372人を分析しました。調査前30日以内に鉄剤・葉酸・マルチビタミンを使っていた人や、血液の病気がある人などは対象から外しています。

貧血の判定には、指先の血液で測るヘモグロビン値(11.0 g/dL未満を貧血とする世界保健機関の基準)を使いました。さらに静脈血で、体内の鉄の貯蔵量の目安となる血清フェリチンと、鉄が不足すると高くなる総鉄結合能(TIBC)を測定し、鉄不足による貧血かどうかを確かめました。

食事は、どの食品をどのくらいの頻度で食べるかを聞き取る質問票で調べました。その結果を主成分分析で整理し、一緒に食べられやすい食品の組み合わせを「食事パターン」として取り出しています。主成分分析は、多くの項目をまとめて少数の傾向を見つける統計手法です。生活の質は、国際的に使われる二つの質問票(WHOQOL-BREFとSF-8)で、身体面・心理面・社会関係・生活環境などの観点から評価しました。鉄欠乏性貧血と関係する要因の分析には、他の要因の影響を差し引いて関連の強さを見る手法(多変量ロジスティック回帰)を用いました。

主な結果

参加者の83.1%が貧血で、鉄不足による貧血と確認されたのは67.6%でした。血清フェリチンが低い人は57.0%、総鉄結合能が高い人は55.4%で、半数以上の妊婦で鉄の蓄えが減っていたことが示されました。上腕の周囲長で栄養状態を見ると、28.2%が中等度から重度の急性栄養不良に当たりました。一方で、体格指数(BMI)では過体重や肥満の人も22.5%いました。著者らは、栄養不足と過剰が同じ集団に併存している状況だと述べています。

食事については、肉や卵などを中心とする「たんぱく質パターン」、「野菜・果物パターン」、穀物中心の「炭水化物パターン」の三つが見つかりました。論文によると、たんぱく質パターンと野菜・果物パターンは鉄欠乏性貧血が少ないことと関連していました。逆に、フィチン酸を多く含む炭水化物パターンへの依存は、貧血のリスクが高いことと関連していました。

他の要因の影響を考慮した分析では、三つの要因が鉄欠乏性貧血と独立して関連していました。世帯月収2万5000パキスタン・ルピー未満では、関連の強さを示す調整オッズ比が1.56でした。1日5000歩未満の座りがちな生活では1.45、1晩4時間未満の極端な睡眠不足では2.24でした。一方、年齢、妊娠回数、妊娠時期、学歴、BMIや上腕周囲長で見た体格には、統計的に意味のある関連は見られませんでした。

生活の質では、鉄欠乏性貧血のある女性で点数が有意に低く、特に身体的な健康、活力、役割を果たす機能の面で目立っていました。自分の健康状態が「低い」と評価された人は48.1%で、「良い」は13.2%にとどまりました。

研究が示すこと

著者らは、この地域の妊婦の鉄欠乏性貧血は年齢や妊娠時期といった身体的・産科的な特徴よりも、貧困、吸収されにくい穀物中心の食事、生活習慣と結びついていると結論づけています。そのうえで、鉄剤を配るだけの対策から、主食への鉄の添加、食事の多様化、妊婦健診での生活の質の確認を組み合わせた取り組みへの転換が必要だと提言しています。

ただし、この研究はある時点での状態を調べた横断研究です。そのため、食事や生活習慣が貧血を引き起こしたという因果関係までは確かめられないと、著者ら自身が述べています。医療施設を受診した女性が対象であることも、結果の適用範囲を考える際の注意点として挙げられています。それでもこの研究は、農村部の妊婦にとって鉄不足が血液の数値だけの問題ではなく、日々の暮らしの質や家計、食事の内容と重なり合った問題であることを示しています。

原著論文の著者・所属:Dr. Jaweria Hashmi(Department of Public Health and Nutrition, University of Haripur, Haripur)、Raja Waleed Sajjad(Department of Pharmacy, COMSATS University Islamabad, Abbottabad Campus, 22010, Pakistan)、Dr. Khalil Ahmed Hashmi(Department of Zoology, Hazara University, Mansehra, 21120, Pakistan)、Saba Manzoor(Department of Zoology, Hazara University, Mansehra, 21120, Pakistan)、Raja Ahmed(Cloud Solutions Specialist – Microsoft, Karachi ,75500, Pakistan)、Muhammad Subhan Ahmad(Department of Public Health and Nutrition, University of Haripur, Haripur)、Sardar Tabish Mehmood(Department of Public Health and Nutrition, University of Haripur, Haripur)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dr. Jaweria Hashmi, Raja Waleed Sajjad, Dr. Khalil Ahmed Hashmi, et al. ASSOCIATION OF QUALITY OF LIFE AND DIETARY PATTERN WITH IRON DEFICIENCY ANEMIA IN PREGNANT WOMEN IN RURAL HARIPUR. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-10-27. DOI: 10.5281/zenodo.23684811. 原著ライセンス:CC BY.