著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Animals
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
チベット羊は、中国の青海・チベット高原で低温・低酸素の環境に適応してきた在来の羊です。その肉は地域の牧畜を支える重要な産物ですが、羊の成長に伴って肉質がどのように変わり、その背景に筋肉内のどのような物質の変化があるのかは、十分に分かっていませんでした。
研究チームは、年齢の異なるチベット羊の肉質・栄養成分・香りの成分を比べました。あわせて、筋肉に含まれる多数の小さな分子(代謝物)を網羅的に調べ、肉質の違いと結びつく可能性のある代謝物や代謝の経路を探ることを目的としました。
何をどのように調べたか
対象は、青海省海晏県の標高約3500mの高山草地で、同じ群れとして放牧されていた健康な雄のチベット羊18頭です。6か月齢、18か月齢、42か月齢の3群に各6頭を割り当てました。全頭が同じ草地で配合飼料を与えられずに育ち、同じ時期にと畜されました。なお、同じ個体を追跡したのではなく、異なる年齢の羊を同時点で比べた研究です。
調べたのは背中の筋肉(胸最長筋)です。肉の酸性度(pH)、色、加熱による重量の減少、水分・たんぱく質・脂肪の量、アミノ酸と脂肪酸の組成を測定しました。肉の柔らかさは、加熱した肉を刃で切断するのに必要な力(せん断力)で評価しており、値が大きいほど硬い肉であることを示します。
さらに、肉から立ちのぼる香りの成分を分析し、筋肉中の代謝物を特定の物質に絞らず幅広く検出する「非標的メタボロミクス」と呼ばれる手法で、年齢群の間の違いを比較しました。
主な結果
42か月齢の羊の肉は、たんぱく質と脂肪の含有量が最も高く、せん断力も最大でした。せん断力は6か月齢で約30N、18か月齢で約43N、42か月齢で約50Nと年齢とともに大きくなり、年齢が上がるほど肉が硬くなる傾向が示されました。一方、6か月齢の肉は色が最も明るく赤みも強く、加熱による重量の減少が最も大きいという結果でした。
アミノ酸の総量は42か月齢で最も多くなりました。脂肪酸では、飽和脂肪酸の合計が年齢とともに増えたのに対し、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の合計は18か月齢で最も高くなりました。著者らは、これを年齢に関連した脂肪酸組成の違いとして示しており、代謝がはっきり切り替わる時点を示すものではないとしています。
香りの成分は計32種類が検出され、年齢群ごとに明確に異なる組成を示しました。そのうちヘキサナールやノナナールなどのアルデヒド類を含む13種類は、年齢とともに有意に増えていました。
代謝物の分析では、筋肉から1375種類の代謝物が検出され、アミノ酸とその関連物質が最も大きなグループでした。年齢群どうしを2群ずつ比べると、合わせて681種類の代謝物に差が見られ、それらは主にアミノ酸や脂質の代謝に関わる経路に集まっていました。さらに、フマル酸、コハク酸、リノール酸などの代謝物が、脂肪の量やせん断力、一部の脂肪酸やアミノ酸の量、香りの成分と統計的に関連していることが報告されています。これは関連を示したもので、因果関係を確かめたものではありません。
研究が示すこと
この研究は、放牧で育ったチベット羊の肉が、年齢によって柔らかさや栄養成分、脂肪酸の組成、香りの成分の点で異なり、その違いに筋肉内のアミノ酸や脂質の代謝物の変化が伴っていることを示しました。著者らは、18か月齢の時期が栄養価と食味のバランスを考えるうえで重要な時期である可能性を挙げつつ、得られた代謝物と肉質の関連を、出荷時期の検討や肉質を理解するための化学的・代謝的な手がかりとして位置づけています。
原著論文の著者・所属:Gaoliang Bao(College of Agriculture and Animal Husbandry, Qinghai University, Xining 810016, China)、Hong Wei(Academy of Animal Science and Veterinary, Qinghai University, Xining 810016, China)、Juane Bao(Gansu Key Laboratory of Herbivorous Animal Biotechnology, Faculty of Animal Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gaoliang Bao, Hong Wei, Juane Bao. Insight into the Meat Quality Characteristics of Tibetan Sheep at Different Age Groups Using Metabolomics. Animals 2026-10-24. DOI: 10.3390/ani16213362. 原著ライセンス:CC BY.