著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Plant Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:香りの成分以外のテルペノイドに着目

草果(Amomum tsao-ko)は、中国南西部から東南アジアの近隣地域にかけて分布するショウガ科の多年草です。乾燥させた熟した果実は、伝統的な生薬として、また雲南・四川・貴州などの料理で肉や魚の臭みを消す香辛料として使われてきました。

植物が作る化合物の大きなグループに「テルペノイド」があります。草果のテルペノイドについては、これまで香りのもとになる揮発性の成分(精油)が主に調べられてきました。一方で、分子が大きく揮発しにくい「不揮発性テルペノイド」については、系統的な調査がほとんど行われていませんでした。

草果の果実には細長いものや丸いものなど形の違いがあり、収穫後には必ず乾燥処理が行われます。しかし、果実の形や乾燥が不揮発性テルペノイドにどう影響するのか、その違いの背景にどのような遺伝子の働きがあるのかは分かっていませんでした。研究チームは、果実に含まれる不揮発性テルペノイドを網羅的に調べ、形と乾燥による違い、さらに形による違いに関わる遺伝子を明らかにすることを目指しました。

何を調べたか

研究チームは、2022年10月に中国雲南省で採取した熟した果実を用いました。果実は長さと幅の比によって、細長い形(比が1.5を超える)、楕円形(1.1〜1.5)、丸い形(1.0〜1.1)の3タイプに分けられました。それぞれについて、生の果実と、80℃で48時間乾燥させた果実を用意し、各タイプとも3株を反復として分析しました。

化合物の分析には、液体クロマトグラフィーで成分を分離し、質量分析計で検出・定量する手法を使い、あらかじめ想定した多数の化合物を幅広く測定しました。あわせて、生の果実については、細胞内でどの遺伝子がどの程度働いているかを網羅的に読み取るRNAシーケンシング(トランスクリプトーム解析)を行い、化合物の量の違いと遺伝子の働き方の関係を統計的に調べました。

主な結果:乾燥で大きく変化し、形の特徴は保たれる傾向

研究チームは合計157種類の不揮発性テルペノイドを検出しました。内訳は、モノテルペノイド34種、セスキテルペノイド61種、ジテルペノイド33種、トリテルペノイド26種などです。このうち147種(全体の93.63%)は6つの試料群すべてに共通して含まれていました。どの試料でも特に量が多かったのは、ジテルペノイドのAjugalaevigatic acidとセスキテルペノイドのKobusoneでした。一方で、ジテルペノイドのイソステビオールは乾燥果実だけで検出され、セスキテルペノイドのクルクメノールなど2種は、細長い形と丸い形の果実では検出されたものの、楕円形の果実では検出されませんでした。

試料全体の傾向を見る解析では、生の果実と乾燥果実がはっきり分かれ、乾燥が組成に最も大きな変化をもたらしていることが示されました。形による違いも見られ、論文では、形に伴う特徴は乾燥後もおおむね保たれていると報告されています。

形の違いで量に差があったテルペノイドは、生の果実で42種、乾燥果実で51種でした。生の果実では、差のあった化合物の多くが「丸い形>細長い形>楕円形」の順に多く含まれていました。乾燥果実では化合物の種類や比較の組み合わせによって傾向が異なり、丸い果実では複数のセスキテルペノイドが多い傾向が見られました。

乾燥の前後で量に差があった化合物は、細長い形で32種、楕円形で36種、丸い形で46種で、丸い果実で変化が最も大きくなりました。全体として、多くのセスキテルペノイドやジテルペノイドが乾燥後に減少した一方、糖が結合した一部のテルペノイド(配糖体)は増加しました。形にかかわらず乾燥に反応した化合物は11種ありました。研究チームは、乾燥によって糖の結合が進んだ可能性や、糖の結合していない形が優先的に分解された可能性を考えています。

遺伝子の解析では、生の果実で2万8645個の遺伝子の働きが検出され、形の組み合わせごとに3793〜4254個の遺伝子で働き方に差がありました。3つの比較すべてで差があった482個の遺伝子には、テルペノイドの合成や代謝に関わるものが多く含まれていました。さらに、一緒に働きが増減する遺伝子のまとまりを探す解析により、1082個の遺伝子からなるグループが、11種の主要なテルペノイドの量と強く連動していることが分かりました。このグループには、テルペノイドの骨格を作る酵素や、セスキテルペン・ジテルペンの合成に関わる酵素の遺伝子に加え、ほかの遺伝子の働きを調節する転写因子27個が含まれていました。研究チームは、これらの転写因子が、形による組成の違いを生み出す調節役の候補であると提案しています。

この研究が示すこと

この研究は、これまで十分に調べられていなかった草果の不揮発性テルペノイドについて、157種類の化合物をまとめて示し、その組成が乾燥によって大きく変わり、果実の形によっても違うことを報告しました。遺伝子の解析からは、形による違いの背景に、テルペノイド合成に関わる遺伝子の働き方の差があることがうかがえます。ただし、遺伝子と化合物の関係は量の連動から見いだされたもので、示された転写因子は調節役の候補という位置づけです。著者らは、この成果が草果の品質評価や品種資源の活用、乾燥方法の検討に役立つ科学的な基盤になると位置づけています。

原著論文の著者・所属:Mengli Ma(Yunnan Provincial Key Laboratory of Cross-Border Chinese Herbal Material, College of Agronomy, Honghe University)、Lina Xiong(Yunnan Provincial Key Laboratory of Cross-Border Chinese Herbal Material, College of Agronomy, Honghe University)、Hongbo Fu(Yunnan Provincial Key Laboratory of Cross-Border Chinese Herbal Material, College of Agronomy, Honghe University)、Bingyue Lu(Yunnan Provincial Key Laboratory of Cross-Border Chinese Herbal Material, College of Agronomy, Honghe University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mengli Ma, Lina Xiong, Hongbo Fu, et al. Multi-omics analysis reveals shape- and drying-dependent variation in non-volatile terpenoids of Amomum tsao-ko fruits. Frontiers in Plant Science 2026-09-03. DOI: 10.3389/fpls.2026.1937993. 原著ライセンス:CC BY.