著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:在来鶏の「味の違い」を分子から探る

鶏肉は世界中で食べられている良質なたんぱく源です。中国では量より質を重視する消費へと好みが移りつつあり、独特の風味や食感をもつ在来種の鶏が注目されています。江蘇省如東県を主な産地とする狼山鶏と、重慶市の大巴山地域にある城口県で主に生産される城口山地鶏は、その代表的な品種です。これに対し、アーバーエーカー(AA)は成長が速く飼料効率の高い白羽の商業用ブロイラーとして広く使われています。

在来鶏と商業用ブロイラーで肉質が異なることはこれまでにも報告されてきました。しかし研究チームによると、狼山鶏や城口山地鶏の独特な風味が、肉に含まれるどのような成分の違いから生まれているのかは、十分に調べられていませんでした。そこで研究チームは、黒羽の在来種である城口山地鶏と狼山鶏、白羽のAAブロイラーの3品種を対象に、もも肉の成分を多角的に比べました。品種ごとの栄養や風味に関わる特徴を示す分子の目印を見つけることが目的です。

何をどう調べたか

研究では各品種120羽、計360羽の健康な雌鶏を、それぞれの品種で通常行われている方法で飼育しました。出荷時期も品種ごとの通常の時期に合わせ、在来2品種は17週齢、AAは6週齢です。この中から、体重がそろった個体を各品種30羽ずつ無作為に選び、もも肉を分析しました。

調べた項目は大きく四つです。一つ目は、肉から立ちのぼる揮発性の香り成分です。二つ目はたんぱく質を構成するアミノ酸の組成です。アミノ酸は栄養源であるだけでなく、加熱時に香り成分のもとにもなります。三つ目は脂肪量と脂肪酸の組成、四つ目は筋肉に含まれる多様な脂質分子をまとめて網羅的に測る「リピドミクス」と呼ばれる分析です。さらに、脂質分子と香り成分や脂肪酸との間にどのような関連がみられるかも統計的に調べました。

主な結果:品種ごとに異なる成分の特徴

香り成分については、3品種で合わせて131種類の揮発性化合物が検出されました。全品種でアルデヒド類が最も多い成分グループでした。香り成分の総量は狼山鶏が他の2品種より有意に多く、成分の全体的な構成をもとにした解析では3品種がはっきり分かれました。ただし著者らは、今回測ったのは生肉の香り成分であり、加熱調理の過程で新たに生じる香りは含まれていない点を指摘しています。つまり、調理後の風味そのものではなく、その潜在的な特徴を示す結果です。

アミノ酸の総量は狼山鶏が最も多く、城口山地鶏、AAの順でした。ただし著者らは、統計的に有意ではあるものの差は比較的小さかったとしています。個別に見ると、アスパラギン酸、グリシン、バリン、イソロイシン、チロシンは在来2品種でAAより多く、リシンとヒスチジンはAAの方が多いという違いがありました。

脂肪酸では、3品種ともオレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸が主成分で、飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の合計量に品種差はみられませんでした。一方、アラキドン酸は在来2品種でAAより多く、DHAは城口山地鶏だけが他の2品種より多い値を示しました。逆にα-リノレン酸はAAで多くなっていました。脂肪酸組成から算出した栄養指標では、城口山地鶏が多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比などで最も高い値を示しました。ただし著者らは、この研究は品種差を描き出すためのもので、健康への影響を評価したものではないため、解釈には慎重さが必要だとしています。

脂質分子の網羅的分析では787種類が同定され、細胞膜の主要成分であるグリセロリン脂質が約63%、スフィンゴ脂質が約26%を占めました。品種間で量が異なる脂質を比べると、AAと狼山鶏の間では38種類が見つかり、そのすべてが狼山鶏で多くなっていました。AAと城口山地鶏の間では258種類が見つかり、うち225種類が城口山地鶏で多くなっていました。在来2品種の間でも182種類の違いがありました。これらの脂質は、グリセロ脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質の代謝に関わる経路に集中していました。

さらに、ある種のリン脂質(LPG 18:0)の量が、ノナナールなど一部の香り成分の量と非常に強く連動していることも示されました。著者らはこれを、リン脂質に関係する脂質が、脂質由来の香り成分の生成と関わっている可能性を示すものとしています。ただし、これは量の関連を示したもので、因果関係を確かめたものではありません。

この研究が示すこと

著者らは、黒羽の在来鶏である狼山鶏と城口山地鶏が、白羽の商業用ブロイラーとは異なる栄養・風味関連の特徴を持ち、その背景に脂質代謝の違いが関わっている可能性があると結論づけています。品種の特徴を示す候補として、狼山鶏ではホスファチジン酸という脂質、城口山地鶏ではDHAの多さ、黒羽の在来2品種に共通する特徴としてアラキドン酸を挙げています。

一方で、3品種は飼育方法も出荷時の週齢も異なっており、餌の脂肪源も肉の脂肪酸組成に影響した可能性があります。このため、今回の設計では品種そのものの影響と飼育条件の影響を完全には切り分けられないと著者らは述べています。また、香り成分や脂質の比較は探索的な解析で、見つかった成分は今後の検証が必要な「候補」と位置づけられています。在来鶏の味わいの違いを感覚的な評価だけでなく、成分の組み合わせとして捉えようとした研究といえます。

原著論文の著者・所属:Xuan Hu(College of Veterinary Medicine, Yangzhou University, Yangzhou 225009, China; Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Yanfeng Fan(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Qian Zhou(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Xiaoxu Jia(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Jing Zhang(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Xiaohui Feng(Institute of Animal Sciences, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100193, China)、Lina Ma(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Yinyin Liu(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Yushi Gao(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)、Xiujun Tang(Jiangsu Institute of Poultry Science, Yangzhou 225009, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xuan Hu, Yanfeng Fan, Qian Zhou, et al. Comparative Analysis of Volatile Compounds, Amino Acids, Fatty Acids, and Lipidomic Profiles in Thigh Muscles of Commercial Arbor Acres (AA) Broilers and Indigenous Chengkou and Langshan Chickens. Foods 2026-08-31. DOI: 10.3390/foods15173098. 原著ライセンス:CC BY.