著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Immunology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

炎症性腸疾患(IBD)は、腸に慢性的な炎症が起こり、悪化と落ち着いた状態を繰り返す病気です。主に潰瘍性大腸炎とクローン病が含まれます。子どものIBD患者では栄養不足が多く、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素の不足が半数以上にみられると報告されています。成長期の子どもにとって、栄養状態は体の発育や免疫の発達に関わる重要な要素です。

著者らによると、子どものIBDに関するこれまでのビタミン研究は、ビタミンDやビタミンB12などに偏っていました。そのほかのビタミンについては知見が乏しく、ビタミン値と血液中の免疫細胞の構成との関係もほとんど調べられていませんでした。そこで研究チームは、IBDの子どもの血清ビタミン濃度を包括的に評価し、免疫細胞の指標との関連を探ることを目的としました。

何をどのように調べたか

研究は中国の鄭州大学附属小児病院で行われました。過去の診療記録を振り返って分析する後ろ向きの症例対照研究です。対象は、複数のビタミンをまとめて測定する検査を受けていたIBDの子ども46人で、クローン病が25人、潰瘍性大腸炎が21人でした。比較のため、同じ時期に健康診断でビタミン検査を受けた健康な子ども46人を対照群としました。対照群は、患者1人につき年齢と性別をそろえた子どもを1人ずつ選んでいます。

測定したビタミンは、脂溶性のA、D、E、K、水溶性のB1、B2、B3、B5、葉酸の一種である5-メチルテトラヒドロ葉酸、そしてCの10種類です。測定には、成分を分離したうえで質量を高精度に調べる「超高速液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法」が使われました。著者らは、この方法で10種類のビタミンを同時に測定し、年齢と性別をそろえた比較で分析したのは初めてだと述べています。

研究チームは、ビタミン濃度と欠乏の割合を両群で比べました。さらにIBD群の中で、ビタミン値と白血球数、好中球や白血球に占めるリンパ球の割合との関係を調べました。最後に、血圧や心拍数など両群で差のあった要因を考慮したうえで、どのビタミンがIBDと独立して関連するかを統計的に分析しました。

主な結果

健康な子どもと比べ、IBDの子どもでは血清中のビタミンAとビタミンCの濃度が有意に低くなっていました。一方、ビタミンEの濃度は高い結果でした。欠乏の割合もIBD群で高く、ビタミンAは76.1%(対照群28.3%)、ビタミンCは50.0%(同26.1%)、ビタミンDは41.3%(同21.7%)でした。そのほかのビタミンでは、欠乏の割合に有意な差はみられませんでした。また、クローン病と潰瘍性大腸炎の間では、ビタミン濃度にも欠乏率にも有意な差はありませんでした。

IBD群の中では、ビタミンA、D、Cの値が高い子どもほど好中球の割合が低い傾向がありました。反対に、これらの値が高いほどリンパ球の割合は高い傾向がみられました。ビタミンEには、免疫細胞の指標との有意な関連はありませんでした。

血圧や心拍数などの要因を考慮した分析では、ビタミンAだけがIBDと独立して関連していました。具体的には、ビタミンA濃度が低いこと、そしてビタミンA欠乏の状態にあることです。関連の強さを示すオッズ比は、ビタミンA欠乏について7.800でした。オッズ比は、ある条件があるときに病気である見込みが何倍になるかを表す指標です。ビタミンD、E、Cについては、他の要因を考慮すると独立した関連は認められませんでした。

この研究が示すこと

この研究は、IBDの子どもでビタミンA、C、Dの不足が目立つことを示しました。特に、これまで調べられることの少なかったビタミンAとビタミンCの不足が大きいことを、10種類のビタミンを同時に測定したデータで示した点が特徴です。

ただし、これは一つの病院の比較的少ない人数を対象とした観察研究です。ビタミン不足がIBDの原因であると示したものではありません。著者らも、ビタミンAとIBDの関連は予備的な知見だとしています。そのうえで、子どものIBDでは通常のビタミンD確認に加えて、ビタミンAやビタミンCの不足にも注意を向ける必要があると述べています。

原著論文の著者・所属:Xiaojuan Li(Department of Clinical Laboratory, Zhengzhou Key Laboratory of Children’s Infection and Immunity, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Tiewei Li(Department of Clinical Laboratory, Zhengzhou Key Laboratory of Children’s Infection and Immunity, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Yuesheng Wang(Department of Gastroenterology, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Yuanzhe Li(Department of Children’s Health Management Center, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Shuai Zhang(Department of Clinical Laboratory, Zhengzhou Key Laboratory of Children’s Infection and Immunity, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Wenbo Yan(Department of Clinical Laboratory, Zhengzhou Key Laboratory of Children’s Infection and Immunity, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Yushu Ma(Department of Clinical Laboratory, Zhengzhou Key Laboratory of Children’s Infection and Immunity, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Ziying Li(Department of Gastroenterology, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Junmei Yang(Department of Clinical Laboratory, Zhengzhou Key Laboratory of Children’s Infection and Immunity, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)、Zhipeng Jin(Department of Paediatric Intensive Care Unit, Children’s Hospital Affiliated to Zhengzhou University, Henan Children’s Hospital, Zhengzhou Children’s Hospital)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaojuan Li, Tiewei Li, Yuesheng Wang, et al. Serum vitamins and inflammatory bowel disease in children: a case-control study. Frontiers in Immunology 2026-10-26. DOI: 10.3389/fimmu.2026.1903865. 原著ライセンス:CC BY.