著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて血糖値の異常が見つかる状態で、妊娠中の代謝の合併症として特に多いものの一つです。妊娠高血圧腎症や帝王切開、巨大児、新生児の低血糖などとの関連が知られ、将来の2型糖尿病のリスクとも結び付けられています。原因は完全には分かっていませんが、インスリンが効きにくくなる状態(インスリン抵抗性)や、体内で続く弱い炎症が関わると考えられています。

近年は、腸内細菌の状態が代謝の病気に関わる可能性が注目されています。食事は腸内細菌に大きく影響しますが、研究チームによると、これまでの研究の多くは個々の栄養素や従来型の食事指標に注目しており、腸内細菌を意識した食事パターン全体と妊娠糖尿病、炎症や代謝の指標を同時に調べた研究は限られていました。そこで著者らは、「腸内細菌指向型食事指標(DI-GM)」で表される食事の傾向と妊娠糖尿病との関連を調べました。

何を調べたか

研究は中国・太原市の病院と関連施設で行われ、妊娠糖尿病と診断された女性400人と、血糖値が正常な妊婦400人の計800人を比較しました。病気のある人とない人を比べて、過去の要因の違いを探る「症例対照研究」と呼ばれる方法です。妊娠糖尿病の診断には、ブドウ糖液を飲んで血糖値の変化を測る標準的な検査が用いられました。

食事は、妊娠糖尿病の検査を受ける前に、82品目の食品の摂取頻度を尋ねる質問票で調べられました。DI-GMは14の項目から成る指標で、ブロッコリー、アボカド、コーヒー、ひよこ豆、クランベリー、発酵乳製品、食物繊維、緑茶、大豆、全粒穀物の10項目を腸内細菌にとって好ましい要素とし、脂肪の多い食事、赤身肉、加工肉、精製穀物の4項目を好ましくない要素としています。各項目を参加者全体の中央値と比べて点数化し、合計0〜14点で、点数が高いほど腸内細菌を支える食事に近いことを示します。参加者は点数によって低・中・高の3群に分けられました。

あわせて、血糖値やインスリン抵抗性の指標、中性脂肪やHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、炎症の指標であるCRP、腸のバリア機能の乱れの目安とされるLPS(細菌由来の物質)なども測定し、出産時の母子の状態も記録しました。

主な結果

妊娠糖尿病のグループは、正常血糖のグループに比べてDI-GMの点数が低く、平均はそれぞれ7.09点と9.52点でした。年齢や妊娠前の体格、エネルギー摂取量、身体活動、糖尿病の家族歴、抗菌薬やプロバイオティクスの使用などを考慮した分析では、点数が最も高い群は最も低い群に比べて、妊娠糖尿病である確率の目安(オッズ)が約55%低いと報告されました。一方、中間の群では統計的にはっきりした差は見られませんでした。著者らは、ある程度以上しっかりこの食事パターンに近づいた場合に関連が表れる「しきい値」のような関係の可能性を指摘しつつ、全体としては点数が高いほどオッズが低くなる傾向があったとしています。

体の指標では、両グループとも点数が高い群ほど中性脂肪、CRP、LPSが低く、HDLコレステロールが高い傾向がありました。妊娠糖尿病のグループでは、点数が高い群ほどHbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均を反映する値)、空腹時血糖、インスリン抵抗性の指標も低い傾向が見られました。また妊娠糖尿病の女性では、点数が高いほど早産、妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、巨大児、新生児の低血糖などが少ないという関連も報告されています。

研究チームは、炎症の指標CRPが食事と血糖の関係を部分的に仲立ちしている可能性も分析しましたが、これらの値は同じ時期に測られており、どちらが先に起きたかは分からないため、あくまで探索的な結果だと位置付けています。

この研究が示すこと

この研究は、腸内細菌を支えると考えられる食品が多く、加工肉や精製穀物などが少ない食事の傾向が、妊娠糖尿病の少なさや、炎症・脂質・血糖の指標の良好さと結び付いていることを示しました。ただし著者ら自身が述べているように、これは観察研究で示された「関連」であり、食事が妊娠糖尿病を防ぐという因果関係を証明したものではありません。また、腸内細菌そのものは測定されておらず、腸内細菌を介した仕組みは推測の段階にとどまります。それでも、妊娠中の食事、炎症、代謝のつながりを腸内細菌という視点から捉える手がかりを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Yi Su(epartment of Obstetrics and Gynecology, Shanxi Children’s Hospital (Shanxi Maternal and Child Health Hospital), Taiyuan, Shanxi, China)、Xiuping Du(epartment of Obstetrics and Gynecology, Shanxi Children’s Hospital (Shanxi Maternal and Child Health Hospital), Taiyuan, Shanxi, China)、Zhiying Song(epartment of Obstetrics and Gynecology, Shanxi Children’s Hospital (Shanxi Maternal and Child Health Hospital), Taiyuan, Shanxi, China)、Xifeng He(epartment of Obstetrics and Gynecology, Shanxi Children’s Hospital (Shanxi Maternal and Child Health Hospital), Taiyuan, Shanxi, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yi Su, Xiuping Du, Zhiying Song, et al. Dietary index for gut microbiota and odds of gestational diabetes mellitus: associations with inflammatory and metabolic biomarkers. Frontiers in Nutrition 2026-08-10. DOI: 10.3389/fnut.2026.1895387. 原著ライセンス:CC BY.