著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。

掲載誌:Cureus

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜインドで代替医療と栄養療法なのか

炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎とクローン病を含む慢性の腸の炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返し、長い期間の治療と経過観察が必要になります。かつては欧米に多い病気とされていましたが、論文によると、インドでは発症率が10万人あたり9.31とアジアで最も高く、患者数も米国に次いで世界で2番目に多いと報告されています。

著者らが問題にしているのは治療費です。論文が引用する推計では、インドの患者が自己負担する年間費用は、症状が落ち着いている時期で527〜940米ドル、病気が活発な時期には807〜1512米ドルに上り、その主な原因は薬代です。保険に加入している人でも、保険で賄われるのは総費用の18%にとどまるとされています。炎症を抑える高価な生物学的製剤は年間2万〜2万2000ドルほどかかると見積もられており、インドで実際に使っている患者は1.5〜1.8%にすぎません。政府が費用を負担する日本では、およそ40%と紹介されています。

こうした背景から著者らは、高所得国の治療指針をそのままインドに当てはめるのは難しいと指摘します。そのうえで、費用の低い選択肢として、補完代替医療(通常の西洋医学の外にある医療で、アーユルヴェーダや中国伝統医学などを含みます)と栄養療法に注目しました。これらの効果と安全性に関する証拠を整理し、インドのIBD診療に役立つ提言をまとめることが、このレビューの目的です。

どのように文献を調べたか

この論文は新たな臨床試験ではなく、既存の研究をまとめたナラティブレビュー(著者が文献を選んで総合的に論じる総説)です。著者らはEmbase、PubMed/Medline、Google Scholarなどのデータベースを幅広い検索語で調べ、必要に応じて灰色文献(学術誌以外の報告書など)や、過去の総説の参考文献も確認しました。

証拠としては、ランダム化比較試験のような信頼性の高い研究を優先しました。それが見当たらない場合は、コホート研究、動物実験、症例報告なども検討の対象に含めています。そのため、取り上げた研究の間で証拠の強さには大きな差があります。

代替医療に関する主な報告

著者らによると、インドでは慢性疾患の患者を中心に、ホメオパシーやアーユルヴェーダといった代替医療が広く使われています。患者が代替医療を選ぶ理由としては、副作用が少ないという考え、通常の治療への不満、自分で病気を管理しているという感覚、そして安さや手に入れやすさが挙げられています。

最も研究が進んでいるのは、ウコンに含まれる成分のクルクミンです。軽症から中等症の潰瘍性大腸炎を対象とした複数の二重盲検ランダム化比較試験で、通常治療に上乗せする補助療法として、実施しやすく安全であり、寛解の達成や維持、病気の勢いの改善に役立つことが示されたと紹介されています。メタ解析でも、クルクミンを使った群で寛解率が有意に高いと報告されています。ただし、これらの試験は規模が小さく期間も短いこと、用量や製剤がばらばらであることなどの限界がありました。クローン病については、証拠が少なく結果も一致していないとされています。

アーユルヴェーダの治療では、パタードヤ・チュールナという生薬製剤が標準治療と比べて消化症状や食欲、全身状態、病気の勢いをより改善したというランダム化比較試験が紹介されています。また、生薬を使ったウドゥンバラ・クヴァータ・バスティをステロイドと併用した群では、ステロイドのみの群に比べて、炎症が75%を超えて減少したという報告もあります。このほか、トリファラなどの動物実験や、症状が寛解した症例報告も挙げられています。一方で著者らは、これらの研究は小規模で方法もまちまちであり、動物実験にとどまるものも含まれる点を認めています。

課題として著者らが強調するのは、患者が医師に相談しないまま代替医療を使うことが多い点です。新型コロナ流行下のインド全土調査(IBDに限った調査ではありません)では、約47%が自己判断で代替医療を利用し、専門の施術者に相談したのは18.6%だったと引用されています。著者らは、医師が診察時に代替医療の使用状況を尋ね、根拠に基づいて助言すること、IBD患者の利用実態を調べること、大規模な臨床試験を行うこと、医学教育に代替医療を取り入れること、そして伝統医療の登録施術者と連携することを提言しています。同時に、こうした取り組みは通常医療の体制整備と並行して進めるべきだとも述べています。

栄養療法の可能性と、その普及を阻むもの

栄養療法で最も研究されているのは、完全経腸栄養(EEN)です。6〜8週間、必要な栄養のすべてを液体の栄養剤から口や管を通してとる方法で、論文によると、小児のクローン病では最大80%の寛解率が報告され、国際的に第一選択の治療として推奨されています。成人でも役割を示す証拠が増えつつあるとされています。

著者らはEENに関する研究として、次のような報告を紹介しています。以前のコクラン・レビューでは、EENはステロイドより寛解導入で劣るとされましたが、その証拠は質が低いものでした。治療をきちんと続けられた患者に限ると寛解率に有意な差はなく、安全性はEENの方が優れていたと報告されています。その後のシステマティックレビューとメタ解析でも、EENが病気の勢いを改善し寛解を導くことが確認されたとされます。また、ステロイドと比べて腸粘膜の治癒率が高いことも挙げられています。成人のクローン病については、手術前にEENを使うとステロイドと比べて術後の合併症が有意に減ったと紹介されています。インド国内でも、抗TNF薬が効かなかった成人クローン病患者23人でEENが寛解導入に有効で忍容性も良好だったという研究や、急性重症の潰瘍性大腸炎でEENを併用するとステロイド静注への反応がステロイドのみの場合より改善したというランダム化比較試験が報告されています。

それでもインドではEENが十分に使われていないと著者らは指摘します。小児325人を対象とした多施設研究で活用不足が示され、成人IBD患者の最大27%に低栄養がみられたとする研究もあります。主な障壁は、味の悪さや単調さ、食事の社会的な楽しみを失うこと、鼻から胃に入れる管への抵抗感、支援の不足、費用、治療期間の長さです。対策として著者らは、比較的飲みやすく安価なポリマー型の栄養剤を選ぶこと、看護師や栄養士による支援と患者教育を行うこと、栄養士を含む多職種チームで診療することを挙げています。さらに、EENより続けやすく、臨床研究で同程度の効果が示されたクローン病除外食などの代替的な食事法も紹介しています。ただし、インドの成人を対象とした研究はまだ乏しいとしています。

レビューが示すこと

著者らは、アーユルヴェーダなどの代替医療とEENは、費用が低くリスクも小さい有望な選択肢であり、薬物治療と組み合わせて、場合によっては代わりに役立つ可能性があると結論づけています。一方で、実際の診療にはまだ十分に取り入れられておらず、裏付けとなる研究もさらに必要だと述べています。

このレビューが伝えているのは、高額な薬に頼りにくい環境で慢性疾患を支えるには、患者の経済状況や文化、すでに身近にある医療習慣を踏まえた包括的な診療の形を考える必要がある、ということです。

原著論文の著者・所属:Prerana Ghosh(Department of Medicine, Peninsula Health, Frankston, AUS)、Karan Varshney(Department of Medicine, Peninsula Health, Frankston, AUS)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Prerana Ghosh, Karan Varshney. Alternative Medicine and Nutritional Therapy in Adult Inflammatory Bowel Disease in India: A Move Towards Holistic Practice. Cureus 2026-09-12. DOI: 10.7759/cureus.116152. 原著ライセンス:CC BY.