著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Fermentation
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
「Mi Zhen」は、AIを活用した選択的な精米技術によって、玄米から外側のぬか層、その内側の糊粉層、白米を精密に分けて得られる副産物です。主に糊粉層と胚芽の一部からなり、脂質、たんぱく質、食物繊維、ビタミンEやγ-オリザノールなどの生理活性成分を多く含みます。著者らによると、従来の米ぬかに比べて、食感を損なう粗い繊維が少なく、残留農薬の懸念も小さいとされています。
著者らは、中国の2022年のコメ生産量が2億1000万トンに達し、Mi Zhenは年間およそ630万トン生じると見積もっています。一方で、Mi Zhenは保存中や加工中に変質しやすく、これが活用を大きく妨げています。この論文は新たな実験の報告ではなく、既存研究をまとめて論じる総説です。Mi Zhenの成分と劣化の仕組みを整理し、物理的・化学的・生物学的な安定化方法の効果と限界を比べています。そのうえで、微生物発酵を中心とした今後の技術の方向性を示しています。なお著者らは、この総説が網羅的な系統的レビューではなく、関連性と重要性に基づいて文献を選んだ叙述的な総説であると明記しています。
なぜMi Zhenは劣化しやすいのか
著者らの整理では、劣化の主な原因は米に元から含まれる酵素です。精米前は、脂質を分解する酵素(リパーゼなど)と油脂が組織の中で別々の場所にあります。ところが精米による粉砕でこの隔たりが壊れ、酵素と油脂が接触します。すると多くの場合数時間のうちに油脂が分解されて遊離脂肪酸が生じ、劣化の度合いを示す化学的な指標である酸価が上昇するとともに、異臭が生じます。これを加水分解による酸敗と呼びます。総説は、遊離脂肪酸が飼料に苦味やかび臭さを与えるとも述べています。続いて、酸素の存在下でリポキシゲナーゼという別の酵素が働き、脂肪酸の酸化が進みます。その結果、揮発性の異臭成分や、動物の健康に害となりうる物質が生じます。
このため総説は、精米後の短い時間内(通常は数時間以内)に酵素を失活させる処理が、Mi Zhenを高付加価値に利用するための前提条件だとしています。酵素以外の要因としては、微生物の関与も紹介されています。Mi Zhenから分離した脂質分解能をもつバチルス属の細菌を用いた研究では、脂質分解のおよそ25%を微生物が担っていたと報告されています。ほかに水分活性(食品中で微生物や化学反応に使われうる水の度合い)なども劣化の速さに影響します。著者らは、微生物汚染による酸敗の研究がまだ不十分だと指摘しています。
Mi Zhenには、フィチン酸やトリプシン阻害因子など、栄養の吸収を妨げる「抗栄養因子」も含まれます。たとえばフィチン酸はカルシウムや亜鉛などのミネラルと結びつきます。ブタやニワトリのような単胃動物はこれを分解できないため、ミネラルやたんぱく質の利用が下がります。総説によれば、こうした事情から飼料への配合率は低く、欧州の魚用飼料で2〜3%、家畜・家禽用飼料で約5%程度にとどまっています。
従来の安定化方法とその限界
現在の安定化方法は、物理的、化学的、生物学的(酵素法を含む)な手法に大別されます。物理的な方法には、熱風による乾熱処理、蒸気による湿熱処理、高温・高圧・せん断力をかける押出加工、低温保存などがあります。総説が引用する研究では、押出加工(120℃、毎分500回転)で脂質分解酵素の残存活性が32%まで下がりました。蒸気処理(100℃)では、20分で55%、60分で36%まで低下しました。一方、−18℃で72時間保存しても酵素活性は元の97%が残っていました。低温は活性を抑えるだけで失活させないため、常温に戻すと速やかに酸敗が進むと説明されています。
乾熱処理には、外側から加熱されるため加熱にむらが出て、酵素の失活効率が低いという問題があります。押出加工は処理が短時間で技術も確立していますが、たんぱく質や繊維、細胞壁の構造を損なう面があります。著者らは全体として、熱処理や化学処理は工業的に確立しているものの、熱に弱い栄養素の損失、エネルギー消費の大きさ、風味の制御の難しさ、化学物質の残留への懸念といった限界があると評価しています。
微生物発酵とマルチオミクスへの期待
著者らが代わりの手段として注目するのが微生物発酵です。総説によれば、発酵は酸性化、微生物どうしの競合による排除、代謝による成分の変換を通じて酸敗を抑えます。同時に抗栄養因子を分解し、栄養価や機能性を高めうるとされます。引用研究の一つでは、特定の乳酸菌による発酵が脂質の劣化を遅らせ、Mi Zhenの抗酸化能を高めたと報告されています。ただし、すべての微生物が適しているわけではありません。脱脂した米ぬかをクモノスカビ(Rhizopus oryzae)で発酵させた研究では、トリプシン阻害因子は減ったものの、試験管内でのたんぱく質消化率は改善しませんでした。
一方で著者らは、従来の発酵には経験に頼った工程管理、仕組みの未解明、標準化の不足という課題があると指摘しています。現在の研究は、表面に現れる変化の観察や、単一の分析手法にとどまるものが多いといいます。微生物の構成、遺伝子の働き、酵素活性、代謝物、品質の変化までを一続きとして分析した研究は不足しているというのが著者らの見方です。そこで総説は、ゲノム、遺伝子発現、たんぱく質、代謝物を網羅的に調べる「マルチオミクス」を組み合わせる枠組みを提案しています。これにより、微生物の働きから分子の変化、最終的な品質までをつなげて理解できると論じています。
この総説が示すのは、栄養豊富でありながら劣化しやすいために十分に使われていない精米副産物を、加熱や薬剤に頼らず生物の力で安定化させる道筋です。著者らは、Mi Zhenの発酵を経験頼みの手法から、データと仕組みの理解に基づく精密な制御へ移行させるための理論的な土台を整理したと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Mingyu Shi(College of Food Science and Engineering, Central South University of Forestry and Technology, Changsha 410004, China)、Ting Guo(Key Laboratory of Crop and Animal Integrated Farming, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Jiangsu Academy of Agricultural Sciences, Nanjing 210018, China)、Qinlu Lin(College of Food Science and Engineering, Central South University of Forestry and Technology, Changsha 410004, China)、Feng Lin(Key Laboratory of Healthy Freshwater Aquaculture, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Zhejiang Institute of Freshwater Fisheries, Huzhou 313001, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mingyu Shi, Ting Guo, Qinlu Lin, et al. Research Progress on the Mi Zhen Stabilization Method and Its Microbial Fermentation Potential. Fermentation 2026-10-26. DOI: 10.3390/fermentation12110496. 原著ライセンス:CC BY.