著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。
掲載誌:Вестник Красноярского государственного аграрного университета
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
パンやビスケット、ワッフル、焼き菓子などの小麦粉製品は、多くの人が日常的に口にする食品です。研究チームはこの身近さに注目しました。食物繊維やビタミン、ミネラルなどを加えて栄養価を高めた「機能性小麦粉製品」は、食べ方を大きく変えずに日々の食事へ取り入れやすいという利点があります。一方で、小麦粉菓子の多くはエネルギー量や糖・脂肪が多く、食物繊維やビタミン、ミネラルが少ないという課題も抱えています。
ただし、新しい原料を加えると、栄養だけでなく生地の水の吸い方、伸びや弾力、焼き上がりの気泡の入り方や食感、味や色、保存中の品質の安定性まで変わります。著者らは、機能性原料の研究、製造工程の研究、デジタル化の研究がこれまで別々に扱われがちだったと指摘しています。そこで本論文は、機能性小麦粉製品の開発動向をまとめ、配合の設計、性質の予測、品質管理にデジタルモデリングをどう活用できるかを明らかにすることを目的としました。
どのように調べたか
本研究は新たな実験を行ったものではなく、既存の文献を分析・整理した総説です。対象は、査読誌の論文、学会資料、専門書、総説など幅広い文献です。テーマは、機能性のパン・小麦粉菓子、植物性原料や食物繊維、食品産業のデジタル化、配合のコンピューターモデリング、デジタルツイン、人工知能や機械学習、穀物原料の加工法にわたります。
著者らはまず文献をテーマ別に分類しました。次に、製品の種類、加える原料、栄養価をどう変えるか、風味や製造上の再現性、経済性に与える影響を比べました。さらにデジタル技術や、酵素・発酵・物理的処理による原料の下処理も検討し、「原料・配合・工程・品質」のつながりを示す理論的な枠組みとしてまとめています。なお著者らは、「機能性小麦粉製品」という語を、栄養価や消費者にとっての性質を意図的に変えた小麦粉製品を指す、総説上の広い意味で用いています。そのうえで、ロシアやユーラシア経済連合では、強化食品や特別用途食品以外の食品を機能性食品とする基準がまだ議論中である点にも触れています。
主な結果
著者らは機能性小麦粉製品を三つのグループに分けました。一つ目は、植物の粉末や食物繊維を加えたパン類です。二つ目は、糖質、脂質、ビタミン・ミネラルの構成を変えたビスケットやワッフル、焼き菓子などの小麦粉菓子です。三つ目は、食事療法や病気の予防・治療を意識した特別用途の製品です。このうち三つ目は、特定の人々の食事に関わるため、成分や製法をより厳しく管理し、うたう性質を裏づける必要があるとしています。
開発の方向性としては五つが挙げられました。植物原料や食品加工の副産物を活用すること、食物繊維・ビタミン・ミネラル・多価不飽和脂肪酸を増やすこと、なじみのある味や食感を保つこと、配合の経済性を裏づけること、そしてデジタル設計へ移行することです。原料ごとの特徴と注意点も整理されています。野菜・果物の粉末は食物繊維やカロテノイドなどを増やしうる一方、量が増えると味や色、生地の構造が変わるおそれがあります。油糧作物の種子や搾りかすは脂質の構成を変えられますが、脂肪の酸化によって保存性が下がる可能性があります。穀物などの副産物は資源を有効に使える反面、安全性や他の原料とのなじみを確かめる必要があるとされました。
著者らは、従来の試行錯誤型の開発にも限界があると述べています。原料を一つ加えるだけでも生地や製品の多くの性質が同時に変わるため、原料・配合・工程条件の組み合わせが急増し、すべてを実験で試すのは難しくなります。また、栄養面で優れていても、生地の構造を損なったり、コストを大きく押し上げたりすれば、工業的な導入は難しくなりえます。
これを補う手段として、三つのデジタル技術が示されました。一つ目は、配合を計算で決めるコンピューターモデリングです。エネルギー量や栄養成分、工程条件に制約を設けたうえで、条件を満たす配合を求められます。文献中の例として、エネルギー量を抑えた砂糖入りクッキーの配合を数理的に設計した研究が紹介されています。二つ目は、製造ロットのデジタルツインです。現実の製造工程をデータ上に再現し、計画した配合、実際のロットのデータ、品質検査の結果を結びつけます。三つ目は、人工ニューラルネットワークです。複数の指標から品質を総合的に評価する手法として位置づけられています。
この研究が示すこと
著者らは結論として、植物性原料とデジタル手法を組み合わせることで、実物を使った試作実験を減らし、配合の再現性を高められると述べています。そしてこの組み合わせが、性質をあらかじめ見通せる機能性小麦粉製品を開発する土台になるとしています。身近な食品の栄養を高めるには、原料を足すだけでなく、味や食感、製造のしやすさ、コストまで含めて配合を総合的に選ぶ必要がある。本論文は、その考え方を文献から整理して示したものです。
原著論文の著者・所属:Egor Poltanov(Krasnoyarsk State Agrarian University)、Nadezhda Velichko(Krasnoyarsk State Agrarian University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Egor Poltanov, Nadezhda Velichko. FUNCTIONAL FLOUR PRODUCTS: DEVELOPMENT TRENDS AND DIGITAL MODELING OPPORTUNITIES FOR TECHNOLOGICAL PROCESSES. Вестник Красноярского государственного аграрного университета 2026-08-28. DOI: 10.36718/1819-4036-2026-8-291-314. 原著ライセンス:CC BY.