著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。
掲載誌:BMC Medical Education
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食事が健康や生活の質に影響することは広く知られています。しかし、栄養を病気の予防や治療に取り入れるための知識や自信が足りないと感じている医師は少なくありません。医学生への調査でも、医学教育の中で栄養を体系的に学ぶ機会が少ないことへの不満が繰り返し示されてきました。
こうした課題に応える分野として「料理医学(カリナリー・メディシン)」があります。料理と栄養の知識を医学と結びつけ、医療者が食事や生活習慣への助言を患者のケアに生かせるようにすることを目指すものです。米国では医学生向けのプログラムが広がっていますが、カナダでは単発の課外ワークショップが中心でした。継続性がなく正式な単位にもならないこと、費用や長期的な成果についての報告がほとんどないことが課題とされてきました。
研究チームが取り上げたのは、カナダのアルバータ大学医学部で2023年に医学生のグループが立ち上げた料理医学の選択科目です。この科目は、臨床実習が始まる前の1・2年次の学生(プレクラークシップ)を対象とし、正式な単位として認められます。同じ学生が1年を通して受講し、カリキュラムの設計から運営までを学生が担います。研究の目的は、この科目が学生に受け入れられるか(受容性)、無理なく実施できるか(実施可能性)を評価することでした。
科目の内容と調べたこと
科目は6つのモジュールで構成され、各回3時間です。管理栄養士、栄養研究者、医師による講義と、実際に調理する実習を組み合わせています。扱ったテーマは、生涯の各段階での栄養、慢性疾患の予防と管理における食事、栄養指導や料理における文化的な配慮、自分自身の健康管理などです。モジュールはおおむね月1回、10月から3月にかけて行われ、調理実習は市内の図書館にある教育用キッチンを使いました。受講枠はキッチンの収容人数と安全面から各年度24人に限られ、希望者が多かったため抽選で選ばれました。2023〜24年度と2024〜25年度の2回実施され、計48人が受講しています。
1年目は講義と調理実習を別の日に行う回や、オンラインの回もありました。2年目は講義と実習を同じ3時間枠にまとめ、調理と片付けの後に参加者が一緒に食事をする時間を設けました。
評価にはアンケートと費用の分析を用いました。受講生には受講前後に、食習慣、調理の頻度や自信、医療における栄養の位置づけについての考え方を尋ねました。各回の後には内容や進め方への感想を集め、出席状況も記録しました。比較のため、受講しなかった学生にもアンケートを行っています。さらに、講師にもアンケートで経験や改善案を尋ね、実際に支出した金額(直接費用)と、チーム全体が各作業に費やした時間(間接費用)を記録しました。
主な結果
受講前の時点では、受講生と非受講生の回答に統計的に意味のある差はありませんでした。両グループの食習慣や調理習慣、栄養に対する考え方は似通っていたことになります。
受講前後の比較では、受講生が基本的な食材から食事を作る頻度が増えたと報告されました。基本的な食材での調理、レシピどおりに作ること、献立を立てること、基本的な調理技術を使うことについても、いずれも自信が高まりました。また受講後は、「家で作る食事は手頃である」「より健康的に食べる助けになる」という考えへの同意の度合いが平均して強まり、料理を面倒でいらいらするものと感じる度合いは平均して弱まりました。一方、医療における栄養の位置づけについての考え方には、受講前後で統計的に意味のある変化は見られませんでした。
出席率は、1年目が46%から96%、2年目が50%から96%でした。自由記述では、内容が「将来の医師として役立つ」実用的なもので、栄養の予備知識がなくても理解しやすいと評価されました。調理実習は、実際に手を動かして学べること、仲間と交流・協力できること、新しい食材や調理法に触れられることが好評でした。改善点としては、講義に質疑や議論を増やすことや、キッチンでの段取りと時間管理の見直しが挙がりました。講師からは、科目全体を貫く学習目標を設けて回ごとの内容をつなげることや、学生が参加できる仕掛けを増やすことが提案されました。
直接費用は4,510.22カナダドルで、見込みの7,556カナダドルより約4割少なく済みました。キッチンを非営利団体向けの料金で借りられたことが大きな理由です。支出の内訳は食材費が46.5%と最も多く、キッチン使用料が26.7%でした。チームの作業時間で最も多くを占めたのは、講師との調整や日程管理などの事務作業でした。
この研究が示すこと
著者らは、学生が主体となって運営し正式な単位にもなる料理医学の選択科目を、カナダの医学部で実施できることが最初の2回で示されたとしています。受講生の調理の頻度や自信は高まり、学生と講師の評価も良好でした。資金面でも支援を得られています。
ただし、アンケートの回答者は少なく、受講後のアンケートに答えたのは受講生48人のうち14人でした。結果は自己申告によるもので、栄養の知識や患者への指導力を客観的に測ってはいません。受講生がもともと栄養に関心の高い学生だった可能性もあります。また、教育用キッチンや資金に恵まれた環境での取り組みでした。こうした点から、著者らはこの結果を予備的なものと位置づけています。それでも、医学教育で手薄になりがちな栄養の学びを、学生自身の手で継続的な形で補う一つのモデルとして、他の医学部にとって参考になる取り組みだといえます。
原著論文の著者・所属:Lauren Wong(Department of Medicine, Schulich School of Medicine and Dentistry, University of Western Ontario, London, Canada)、Ashraf Aborawi(Department of Anesthesiology and Pain Medicine, University of Alberta, Edmonton, Canada)、Kristina Lyngberg(Faculty of Medicine and Dentistry, University of Alberta, Edmonton, Canada)、Lekan Ajibulu(Faculty of Medicine and Dentistry, University of Alberta, Edmonton, Canada)、Oksana Babenko(Department of Family Medicine, University of Alberta, Edmonton, Canada)、Olga Szafran(Department of Family Medicine, University of Alberta, Edmonton, Canada)、Chris Koo(Department of Family Medicine, University of Alberta, Edmonton, Canada)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lauren Wong, Ashraf Aborawi, Kristina Lyngberg, et al. A pre-clerkship culinary medicine elective: an integrated student-led initiative. BMC Medical Education 2026-08-20. DOI: 10.1186/s12909-026-10105-0. 原著ライセンス:CC BY.