この研究は、ガーナ、エジプトの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ガーナでは、ヤシの木に育つヤシオオオサゾウムシ(Rhynchophorus phoenicis)の幼虫が伝統的な食用昆虫として食べられており、その消費は増えていると論文は述べています。しかし著者らによれば、調理によって栄養成分や安全性がどう変わるのかについての総合的なデータは乏しいままでした。

そこで研究チームは、ガーナの商業的な養殖施設で育てられた幼虫を対象に、生・ゆで・揚げ・焼きの4つの状態を比べ、栄養成分、ミネラル、重金属による化学的な安全性、健康リスク、微生物学的な品質、物理化学的な性質を調べたと報告しています。

調べ方

論文によれば、たんぱく質・脂質・水分といった大まかな成分(近似成分組成)はAOAC法と呼ばれる標準的な分析手順で測定されました。体に必要なミネラルと有害な金属は、原子吸光分析法(AAS)と誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)という、試料に含まれる金属をごく微量まで測る手法で定量されています。

微生物の状態は標準的な培養法で評価されました。さらに健康リスクについては、推定一日摂取量(EDI)と目標ハザード比(THQ)という指標が用いられたと述べられています。THQは、その物質の摂取量が健康への影響が心配される目安と比べてどの程度かを示す値で、1を下回れば発がん性以外の健康リスクは低いと判断される考え方です。

主な報告結果

著者らの報告では、揚げと焼きによって水分が大きく減り(それぞれ30.5%、46.2%)、生の幼虫と比べてたんぱく質はそれぞれ133.36%、114.89%増加しました。脂質は揚げた試料で最も高く34.4%となり、その結果としてエネルギー値も442.19 kcal/100 gと高くなったとされています。ミネラルでは、揚げと焼きの後にカルシウムと鉄が有意に増え、一方で亜鉛は生とゆでの試料でよく保たれていました。

重金属については、水銀とヒ素はすべての試料で検出限界を下回りました。これに対し鉛(0.33〜0.39 mg/kg)とカドミウム(0.82〜0.94 mg/kg)は、国際的な食品規格であるコーデックスの最大限度値を超えていたと報告されています。ただし、すべての金属についてTHQは1未満で、発がん性以外の健康リスクは低いことを示していました。

一方、カドミウムの生涯発がんリスク(ILCR)は3.4〜4.1×10⁻⁶で、米国EPAの許容リスク水準(1×10⁻⁶)をわずかに上回りました。鉛の曝露マージン(MOE、摂取量が健康影響の目安からどれだけ余裕があるかを示す値)は1.79〜1.96で、EFSA(欧州食品安全機関)の枠組みでは懸念される範囲に入るとされています。微生物については、生の幼虫を洗わずに食べる場合(一般生菌数7.0 log₁₀ CFU/g)や、水で洗っただけの場合(同5.2 log₁₀ CFU/g)は、微生物学的な安全基準に照らして推奨されないと結論づけられました。なお紫外可視スペクトルのデータもこれらの知見を裏づけたと述べられています。

この研究が示すこと

この研究は、同じ食用昆虫でも調理法によって栄養の中身が大きく変わることを示しています。揚げや焼きはたんぱく質やカルシウム、鉄の値を高める一方で脂質とエネルギーも増やし、亜鉛は生やゆでのほうが保たれていました。

同時に著者らは、鉛とカドミウムが国際的な限度値を超え、生の幼虫の微生物学的な状態にも問題があったことを報告しています。伝統的な食材として親しまれてきた食品を商業的に生産し流通させていくうえで、栄養面だけでなく化学的・微生物学的な安全性を合わせて把握することの重要性を、この研究は具体的な数値とともに示したといえます。

著者:Benjamin Kumah Mintah(CSIR‐Food Research Institute Accra Ghana)、Hilary Kwesi Ketemepi(CSIR‐Food Research Institute Accra Ghana)、Ebenezer Asiamah(CSIR‐Food Research Institute Accra Ghana)、Akwasi Akomeah Agyekum(Nutrition Research Centre Ghana Atomic Energy Commission Accra Ghana)、Ethel Juliet Serwa Blessie(CSIR‐Food Research Institute Accra Ghana)、Akua Boatemaa Arthur(CSIR‐Food Research Institute Accra Ghana)、Mokhtar Dabbour(Department of Agricultural and Biosystems Engineering, Faculty of Agriculture Benha University Moshtohor Egypt)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Benjamin Kumah Mintah, Hilary Kwesi Ketemepi, Ebenezer Asiamah, et al. Nutritional Composition, Chemical Safety, and Microbiological Quality of Farmed Palm Weevil Larvae ( Rhynchophorus phoenicis ) From a Commercial Rearing Unit in Ghana. Food Science & Nutrition 2026-09-27. DOI: 10.1002/fsn3.72402. 原著ライセンス:CC BY.