著者の所属・活動拠点の国は、トルコ、アメリカです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

乳製品、飲料、デザート、ソースなど、多くの食品では油が細かな粒(油滴)として水の中に分散しています。このように油が水に分散した状態を「水中油滴型エマルション」と呼びます。油は空気や光、金属などの影響で酸化し、品質低下の原因となりますが、油が分散した系では、油そのものとは異なる要因が酸化に影響することが知られています。特に、油滴が細かくなるほど油と水の境界面の面積が大きくなり、この境界面の付近で多くの酸化反応が起こると考えられています。

リボフラビン(ビタミンB2)は光を吸収すると周囲の物質の酸化を引き起こす性質を持つ「光増感剤」として働きます。研究チームは、リボフラビンと光によって進む脂質酸化が、油滴の大きさによってどう変わるのか、そして性質の異なる3種類の物質がその酸化をどの程度抑えるのかを調べました。論文によると、これまでの研究では、こうした物質の効果を油滴の大きさの異なる系で比べた情報は限られていました。

何をどう調べたか

研究チームは、酸化しにくい油(オクタデカン)に酸化しやすい脂質(リノール酸メチル)を少量混ぜたものを油相とし、界面活性剤(SDS)を使ってモデルとなる乳化液を作りました。高圧で均質化する装置の圧力を変えることで、平均の粒の直径が約62ナノメートルの「小さい油滴」の乳化液と、約190ナノメートルの「大きい油滴」の乳化液を用意しました。小さい油滴の乳化液は透明で、大きい油滴の乳化液は白く濁って見えました。また、油滴表面の電気的な性質(ゼータ電位)は、どちらも強いマイナスでしたが、両者の間で値に違いがありました。

これらの乳化液にリボフラビンを加え、32℃で光を当てながら保存しました。そこへ、酸化の経路ごとに働きが異なる3種類の物質をそれぞれ加え、効果を比べました。アジ化ナトリウムは「一重項酸素」と呼ばれる反応性の高い酸素を消す物質、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は「スーパーオキシド」という活性酸素を分解する酵素、EDTAは鉄などの金属を捕まえて働かなくする物質(金属キレート剤)です。

酸化の進み具合は、二つの指標で測りました。一つは酸化の初期段階でできる「過酸化脂質」、もう一つは過酸化脂質が分解して生じる揮発性物質で、においの原因にもなる「ヘキサナール」です。

主な結果

光を当てた条件で、リボフラビンは両方の乳化液で過酸化脂質とヘキサナールの生成を大きく促しました。酸化は、小さい油滴の乳化液の方が大きい油滴の乳化液よりも顕著でした。

3種類の物質の効果は大きく異なりました。アジ化ナトリウムは、どちらの乳化液でも過酸化脂質、ヘキサナールともに統計的に意味のある抑制を示しませんでした。SODは過酸化脂質の蓄積を減らしたように見えましたが、ヘキサナールの生成は抑えず、むしろ酸化の初期にヘキサナールが速く増える傾向が見られました。

一方、EDTAは両方の乳化液で過酸化脂質の蓄積を減らし、特にヘキサナールの生成を強く抑えました。EDTAを加えた試料ではヘキサナールが保存期間を通じて非常に低いままでした。この効果は、油滴の大きさによる差が統計的には見られませんでした。

結果が示すこと

著者らは、これらの結果から、今回の実験条件では一重項酸素やスーパーオキシドが関わる経路は測定した酸化物の主な原因ではなく、金属が過酸化脂質の分解を進める反応が、ヘキサナールのような二次的な酸化物の生成に重要な役割を果たしていたと解釈しています。ただし、一重項酸素やスーパーオキシドが生じていないと結論づけたわけではなく、測定した酸化物への寄与が限られていた可能性を示したものだとしています。

また著者らは、小さい油滴で酸化が進んだ理由として、油と水の境界面が広くなることを挙げつつ、二つの乳化液では表面の電気的性質も異なっていたため、油滴の大きさだけの効果とは解釈すべきでないと注意を促しています。さらに、過酸化脂質とヘキサナールで物質への反応が異なったことから、初期と後期の両方の酸化物を測ることの重要性も指摘しています。

この研究は、油滴を細かくすることが乳化液の物理的な安定性に役立つ一方で、光による酸化を受けやすくする可能性を示しています。著者らは、リボフラビンを含む乳化液の酸化を防ぐには、活性酸素への対策だけでなく、金属の働きを抑えることや、油滴の大きさ・境界面の性質といった構造も合わせて考える必要があるとまとめています。

原著論文の著者・所属:Fatma Bozanoglu(Department of Food Engineering, Inonu University)、Sibel Uluata(Department of Nutrition and Dietetics, Inonu University)、Gokhan Durmaz(Department of Food Science, University of Massachusetts Amherst)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fatma Bozanoglu, Sibel Uluata, Gokhan Durmaz. Riboflavin-photosensitized lipid oxidation in oil-in-water nanoemulsions: effects of oxygen scavengers and metal chelator. Frontiers in Nutrition 2026-10-09. DOI: 10.3389/fnut.2026.1924218. 原著ライセンス:CC BY.