この研究は、トルコ、キルギスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ブドウの果実には、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどの多量要素(植物が比較的多く必要とするミネラル)や、鉄、亜鉛、マンガン、ホウ素などの微量要素が含まれています。これらは種子、果皮、果肉、果汁といった部位ごとに含まれ方が異なることが知られています。ただし、これまでの研究の多くはワイン用のヨーロッパブドウを対象としていました。また、品種による違いと年による違いを別々に扱うことが多く、「同じ年の気象条件に対して品種ごとに反応が異なるかどうか」はほとんど数値で示されてきませんでした。
著者らが注目したのは、品種と年の「交互作用」です。交互作用とは、品種の効果が年によって変わる現象を指します。交互作用が小さければ、1シーズンの調査で品種の特徴をほぼ把握でき、品種の順位付けも安定します。一方、交互作用が大きいと、品種の順位はその年限りのものになり、1年だけの調査では誤解を招くおそれがあります。研究チームは、湿潤な地域で病気に強いため栽培されているアメリカブドウ系(ラブルスカ種)の品種を対象に、この点を確かめようとしました。
何をどう調べたか
調査地はトルコ・サムスンにある大学の研究用ブドウ園です。調べたのは8品種で、北米で広く栽培されているコンコード、ナイアガラ、スチューベンと、トルコで育成された5品種です。2024年と2025年の2シーズンにわたり、同じ樹を追跡しました。期間中は灌水も施肥も行わず、銅剤を含む農薬も散布していません。
収穫した果実を種子、果皮、果肉、果汁の4部位に分け、窒素や塩素を含む13元素を測定しました。続いて、部位と元素の組み合わせ(計52通り)ごとに、ばらつき全体のうち「年」「品種」「品種と年の交互作用」がそれぞれどれだけを占めるかを分析しました。
著者らは、果汁の濃度換算の手順を記録で確認できなかったことなどから、測定された濃度の絶対値は暫定的なものだと明記しています。そのため論文では部位同士の比較は行わず、同じ部位の中での品種間・年次間の比較に解釈を限定しています。銅については、銅剤を使っていないのに説明のつかない値が出たため、検証されていないデータとして解釈から外しています。
主な結果
最も大きな発見は、品種と年の交互作用がミネラル組成のばらつきの最大の要因だったことです。交互作用は52通りの組み合わせのうち49通りで有意でした。平均すると、ばらつき全体の39.4%を交互作用が占め、品種単独の31.5%、年単独の13.6%を上回りました。交互作用の割合は果肉(43%)と果汁(44%)で特に高く、食べる部分ほど品種の性質が年によって変わりやすいという結果でした。
この結果、品種の順位が年によって大きく入れ替わる例が多く見られました。たとえばコンコードは、種子の窒素濃度が2024年には8品種中で最も高かったのに、2025年には最も低くなりました。果汁のカルシウムでも同じように順位が逆転しています。一方で例外もありました。スチューベンは果皮・果肉・果汁の亜鉛濃度が両年とも最も高く、果肉の鉄濃度も両年とも最も高い値を示しました。亜鉛・鉄・塩素といった一部の元素は、年にかかわらず品種の違いが主な要因になっていました。
年による変化の方向には、元素ごとにはっきりした傾向がありました。鉄と亜鉛は、統計的に有意な変化がすべて2025年での増加でした。これに対してマンガンは有意な変化19件のうち17件が減少で、リンもほとんどが減少でした。ただし著者らは土壌や降雨などを測定していないため、こうした変化の原因は特定できないとしています。
年をまたいだ組成の安定性も品種によって異なりました。全元素・全部位にわたる年次間変化の大きさの中央値は、最も安定していたナイアガラで約1.75倍、最も変動の大きかったコンコードで約2.87倍でした。ナイアガラとトルコ品種のリズペムが安定していたのは、主に果肉と果汁の変動が小さかったためです。なお、収穫時の糖度は品種や年によって異なっていましたが、どの元素の濃度とも有意な関連は見られませんでした。報告された違いは、収穫時の熟度の差では説明できないということです。
研究が示す意味
この研究は、ブドウ果実のミネラル組成について、品種の違いや年の違いよりも「品種と年の組み合わせ」の影響が大きいことを、部位別に数値で示しました。著者らによれば、このような分析がブドウ属の果実部位で報告されたのは初めてです。1シーズンだけの調査で品種のミネラル特性を判断すると誤解を招くおそれがあり、年をまたいだ組成の安定性そのものが品種の特徴になりうることが示唆されました。著者ら自身も、1か所・2シーズンの結果から得られた安定性は予備的な手がかりにとどまると述べています。
著者:Besim Karabulut(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture Ondokuz Mayıs University Samsun Türkiye)、Yahya Uray(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture Ondokuz Mayıs University Samsun Türkiye)、Hüseyin Çelik(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture Ondokuz Mayıs University Samsun Türkiye)、Bülent Köse(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture Ondokuz Mayıs University Samsun Türkiye)、Cafer Köse(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture Ataturk University Erzurum Türkiye)、Metin Turan(Faculty of Economy and Administrative Science Yeditepe University Istanbul Türkiye)、Özkan Kaya(Department of Horticulture and Agronomy, Faculty of Agriculture Kyrgyz‐Turkish Manas University Bishkek Kyrgyzstan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Besim Karabulut, Yahya Uray, Hüseyin Çelik, et al. Genotype × Year Interaction Dominates Mineral Variation in Berry Fractions of Eight Vitis labrusca Cultivars. Food Science & Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.1002/fsn3.72438. 原著ライセンス:CC BY.