著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Gels (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
マッシュルーム(ツクリタケ、Agaricus bisporus)は食物繊維やたんぱく質などを含む栄養豊かな食材です。一方で、表面を守る丈夫な外皮がないため、収穫後は傷や微生物の影響を受けやすく、品質が早く落ちてしまいます。こうした傷みやすい農産物の廃棄を減らすため、食品の酸化や微生物の増殖を抑える働きをもつ「アクティブ包装」と呼ばれる包装材料の研究が進められています。
研究チームは、二つの発想を一枚のフィルムに組み合わせました。一つは、水をはじき汚れが付きにくいハスの葉の表面にある、細かい凹凸の構造をまねることです。もう一つは、抗酸化作用と抗菌作用が知られるブドウ種子抽出物(GSE)を、ポリビニルアルコール(PVA)という樹脂でできたゲルの中に保持させることです。論文は、この「ハスの葉を模したPVA・ブドウ種子抽出物ゲルフィルム」を作り、その性質を調べたうえで、マッシュルームの保存に使えるかを確かめることを目的としています。
フィルムの作り方と調べた性質
著者らは、ハスの葉の表面の凹凸をシリコーン系の樹脂(PDMS)に写し取って型を作り、その上でPVAのフィルムを成形しました。PVAは凍結と解凍を繰り返すと、薬品の架橋剤を使わずに分子同士がつながり、網目状のゲルになります。著者らは、この方法を選んだ理由として、食品に触れる材料に架橋剤が残らない点を挙げています。ブドウ種子抽出物の配合量は0%から40%まで5段階に変え、凹凸構造をもたない通常のPVAフィルムとも比較しました。
電子顕微鏡による観察では、通常のフィルムの表面は滑らかでした。これに対し、ハスの葉を模したフィルムには多数の突起をもつ凹凸があり、表面構造が写し取られていることが確認されました。ただし、抽出物を40%配合したフィルムでは抽出物が固まりやすく、表面にひび割れが見られました。赤外線を使った分析などから、著者らは抽出物に含まれるポリフェノールとPVAの間に水素結合ができていると報告しています。
性質の面では、ハスの葉型の構造と抽出物の配合によって、水蒸気の透過性が通常のフィルムより下がりました。また、酸素に比べて二酸化炭素を通しやすくなる傾向も示されました。抽出物を増やすほどフィルムは赤褐色に濃くなり、明るさを表す値は0%配合の83.29から40%配合では6.07まで下がりました。著者らは、光を遮る点は利点になりうる一方で、中身を見せる包装としての透明性は損なわれると述べています。
主な結果
抗酸化性と抗菌性は、抽出物の量が増えるほど高まりました。40%配合のフィルムでは、抗酸化性を測る2種類の試験でラジカル(反応性の高い分子)を消去する割合がそれぞれ64.18%と65.24%に達しました。大腸菌と黄色ブドウ球菌を用いた試験でも、菌の増殖を抑える範囲(阻止円)が最大でそれぞれ17.7mm、20.2mmになりました。一方、通常のフィルムと、凹凸構造だけをもち抽出物を含まないフィルムでは、阻止円はほとんど見られませんでした。このことから著者らは、抗菌作用は主に抽出物によるものであり、表面構造の役割は菌の付着を防ぐ補助的なものにとどまると考えています。
引っ張り強さは、抽出物を増やすといったん高まり、30%配合のフィルム(BPG-30)で最も高い40.83MPaとなったあと、40%配合では低下しました。著者らは、40%では余った抽出物が固まって材料の均一さが損なわれたためと説明しています。水蒸気の透過性もBPG-30が最も低い値でした。研究チームは、強さ、伸び、水蒸気の通しにくさ、抗酸化性、抗菌性など10の指標を総合的に比べ、BPG-30を最適な配合と判断しています。
マッシュルームを各フィルムで包み、12日間保存する実験も行われました。12日目の重量減少率は、包まなかったものが6.72%だったのに対し、BPG-30では2.92%、40%配合のBPG-40では1.95%にとどまりました。BPG-30とBPG-40で包んだ場合は、呼吸の量が最も多くなる時期が6日目から9日目へ遅れました。BPG-40で包んだマッシュルームでは、硬さが包まなかったものより40%高く保たれました。あわせて、褐変に関わる酵素の活性、細胞膜の傷みを示す物質の増加、細菌数のいずれも、比較したグループの中で最も低く抑えられていました。見た目や香り、食感の官能評価でも、包まなかったものは12日目に30点を下回ったのに対し、BPG-40で包んだものは40点を超えていました。
保存実験で最も成績が良かったのはBPG-40でした。ただし著者らは、これは抽出物の量が多いためであり、フィルムとしての品質が優れていることを意味するものではないと説明しています。BPG-40はBPG-30より強度がやや低く、ひび割れやすく、ほぼ不透明です。そのため論文は、包装材料としての最適配合はBPG-30であり、BPG-40は「フィルムの品質と引き換えに得られる保存性能の上限」を示すものと位置づけています。
培養細胞を用いた試験では、試した濃度の範囲でフィルムの抽出液に強い毒性は見られず、BPG-40でも細胞の生存率は98.47%でした。ただし著者らは、この結果だけで食品に触れる材料としての安全性が確立されるわけではなく、そのためには食品への成分移行を調べる試験などが別途必要だと明記しています。
この研究が示すこと
この研究は、ハスの葉に学んだ表面構造と、ブドウ種子由来の天然成分を保持するゲルを組み合わせることで、水分やガスの出入りの調整と、抗酸化・抗菌の働きを一枚のフィルムにまとめられることを示しました。実験の条件のもとでは、このフィルムで包んだマッシュルームの重量減少や軟化、褐変に関わる変化が抑えられたと報告されています。同時に、抽出物を増やすほど保存性能は高まる一方、強度は30%配合で最も高くなり、それを超えると低下し、透明性も失われていくことが示されました。フィルムとしての使いやすさと保存効果の釣り合いをどこに置くかが、こうした包装材料を設計するうえでの要点であることがうかがえます。
原著論文の著者・所属:Wang L(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Sun L(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Zhang Y(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Cong M(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Tan X(College of Food Science and Engineering, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China.)、Ren L(Key Laboratory of Bionic Engineering, Ministry of Education, Changchun 130022, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wang L, Sun L, Zhang Y, et al. Preparation of a Lotus-Leaf-Inspired PVA-Grape Seed Extract Biomimetic Gel Film and Its Application in Active Packaging for the Postharvest Preservation of <i>Agaricus bisporus</i>. Gels (Basel, Switzerland) 2026-09-30. DOI: 10.3390/gels12100881. 原著ライセンス:CC BY.