著者の所属・活動拠点の国は、インド、ドイツです。
掲載誌:Frontiers in Pharmacology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ベタイン(トリメチルグリシン)は、ほうれん草やビート、小麦・大麦・玄米・キヌア・オーツ麦などの全粒穀物に含まれる成分です。水によく溶けるため食品加工にも広く使われています。体内でもコリンという栄養素から作られますが、著者らは、体内で作られる量だけでは十分でなく、食事から補う必要があるという見方を紹介しています。
この論文は、新しい実験を行った研究ではなく、これまでに発表された研究をまとめた「総説」です。著者らは、ベタインが体の中でどのように代謝され、どのような働きを持つのかを整理しました。さらに、心臓や血管の病気、代謝の病気、肝臓や腎臓の病気について、動物実験や臨床研究で何が報告されてきたかをまとめることを目的としています。
どのように文献を集めたか
研究チームは、PubMed、Scopus、Web of Science、Google Scholar、ClinicalTrials.govといった文献・臨床試験のデータベースを使い、1988年6月から2025年11月までの論文を検索しました。検索語には、ベタインのほか、メチル基の供給、ホモシステイン、DNAメチル化、浸透圧からの細胞保護、心血管疾患、糖尿病、脂肪肝、炎症、腎臓病、毒性などが含まれていました。
原著論文、動物などを使う前臨床研究、臨床試験、症例報告、関連する総説が対象となり、重複した記録や学会抄録、方法の記載が不十分なものなどは除かれました。350件を超える文献が集まり、著者らが内容を吟味した結果、197件が総説に採用されています。
総説が整理した主な内容
著者らはまず、ベタインの代謝を説明しています。ベタインはメチル基(炭素1個と水素3個からなる小さな部品)を手放す「メチル基の供給源」として働き、血液中のホモシステインというアミノ酸をメチオニンに作り変えます。ホモシステインがたまることは細胞に有害とされ、血中濃度の上昇は心血管疾患などさまざまな病気の指標になると紹介されています。また、ベタインは「浸透圧調節物質」として、塩分濃度の高い環境でも細胞の体積やたんぱく質の形を保つのを助けます。塩化ナトリウムや尿素の濃度が非常に高い腎臓の奥の部分(腎髄質)の細胞は、ベタインなどをため込んで浸透圧のストレスに対抗すると説明されています。
ホモシステインに関しては、生まれつきホモシステインを十分に分解できない病気(ホモシスチン尿症)の成人患者125人を対象とした研究が紹介されています。ベタイン製剤を他の治療と組み合わせて使った患者では、血漿中のホモシステイン値が全体で29%低下したと報告され、この研究は安全性と有効性の根拠を示したとされています。また、中国南部の研究では、葉酸やビタミンB6、B12と1gのベタインを組み合わせて毎日補給したところ、ホモシステイン値が高い成人で血漿中の濃度が大きく下がったと報告されています。
炎症については、ベタインが炎症に関わる物質やNF-κB、NLRP3インフラマソームといった炎症の仕組みを抑えるという報告がまとめられています。心血管の分野では、動脈硬化のモデルマウスやモルモット、心筋梗塞や肺高血圧のモデルラットなどの動物実験で、ベタインの投与により炎症や組織の傷害の指標が改善したという報告が多く紹介されています。
人を対象とした観察研究としては、冠動脈疾患と診断された1,292人を平均9年間追跡した研究で、食事からのベタイン摂取が多い人ほど心臓病による死亡リスクが低い関連が見られたことが紹介されています。透析患者や地域住民の研究でも、血液中のベタイン濃度が高いほど血圧が低いという関連が報告されています。これらは関連を示したもので、原因と結果の関係を直接示したものではありません。
この総説が伝えること
著者らは、ベタインが毒性の低い比較的安価な天然成分であり、合成医薬品に代わる選択肢となりうる可能性を強調しています。その一方で、注意すべき点も示しています。脳卒中の予防試験の中で行われた研究では、血清ベタイン濃度が77.7μmol/Lまでは高いほど初めての虚血性脳卒中のリスクが低かったものの、それを超えるとむしろリスクが高まる「U字型」の関連が見られました。理由は分かっておらず、著者らはベタインそのものが害を及ぼすとは限らないとしつつ、適切な濃度の範囲を明らかにする必要があり、長期の高用量補給を勧める前にさらなる臨床研究が必要だと述べています。
この総説は、ベタインが代謝、細胞の保護、炎症など複数の面で体の働きに関わっていることを、多くの研究を通して示しています。同時に、報告の多くは動物実験や関連を見た研究であり、その仕組みや適切な量にはまだ分かっていない部分が残されていることも伝えています。
原著論文の著者・所属:Sumet Kumar Singh(Department of Pharmacology, Central University of Punjab)、Poonam Yadav(Department of Pharmacology, Central University of Punjab)、Manish Bishnolia(Department of Pharmacology, Central University of Punjab)、Nirmal Manhar(Department of Pharmacology, Central University of Punjab)、Puneet Kumar(Department of Pharmacology, Central University of Punjab)、Umashanker Navik(Department of Pharmacology, Central University of Punjab; Institute of Molecular Pathobiochemistry, Experimental Gene Therapy and Clinical Chemistry (IFMPEGKC), RWTH Aachen University Hospital)、Ralf Weiskirchen(Institute of Molecular Pathobiochemistry, Experimental Gene Therapy and Clinical Chemistry (IFMPEGKC), RWTH Aachen University Hospital)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sumet Kumar Singh, Poonam Yadav, Manish Bishnolia, et al. Betaine as a regulator of metabolism, epigenetics, and cellular osmoprotection: therapeutic implications in cardiometabolic and renal diseases. Frontiers in Pharmacology 2026-07-31. DOI: 10.3389/fphar.2026.1883688. 原著ライセンス:CC BY.